もつれた糸
こうして憎まれ口を叩き合いながら、付かず離れずのまま側にいることができるのなら、それでもいいとプロイセンは思う。
例えその心が自分に向くことがなくても、誰かのものになってしまったとしても、こんな風に自分という存在に、
少しでも関心を抱いてくれるならば、そんなささやかな幸せを噛み締めていたいと柄にもなくプロイセンは考えていた。
「昔の方がまだ頼りがいがあって男らしかったのに…」
ふと聞こえてきたハンガリーの不意な呟きに、プロイセンの思考がふつりと止まった。
初めに頭の中が真っ白になり、次第に言葉の余韻を味わうようにプロイセンの脳内がハンガリーの声で埋め尽くされていく。
ハンガリーの発した何気ない呟きは、やがてプロイセンの耳まで赤く染めてしまった。
「あんなお坊ちゃんみたいになんかなるかよ!俺は俺だ!悪いか!」
まるで照れ隠しのように、プロイセンがハンガリーに噛み付くように叫んだ言葉。
普段ならばそこからまた、ハンガリーからの嫌味の応酬があるはずだった。
しかしハンガリーがいともあっさり肯定してみせたことに、不意打ちをくらったプロイセンはさらに狼狽してしまう羽目になる。
「そりゃあね、アンタはアンタよ。だからいいんじゃな…」
ハンガリーがそこまで言いかけたとき、ハンガリー自身、何かに気付いたようにはっとした表情になったと思うと、
やがて顔を真っ赤にさせてプロイセンから顔を背けてしまう。
まるでこれでは、憎まれ口を通してプロイセンが好きだと言っているように聞こえてしまうのではないかと、
ハンガリーは火照った顔を両手で挟み込みながら考え込んでしまった。
そんなつもりではなかったと悔やんでみても、すでに空気に溶けてしまった言葉は取り返せるはずもない。
これが、何の他意も無い、ただプロイセンをからかうための言葉ならば、何もハンガリーもプロイセン同様に狼狽することもなかったのに、
その言葉が嘘ではないから困るのだと言えるはずもないハンガリーは、恐る恐る様子を窺うようにプロイセンの方を見遣った。
プロイセンも相変わらず、怒っているような、困っているような、複雑な表情を浮かべながら頬を赤く染めている。
もつれた糸は、意外に複雑に絡み合っていて、それは当分解けそうにも無い。
それは、プロイセンだけではなく、ハンガリーも同様だった。