【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編
「知りたいか?ああ?貴族のお坊ちゃんよ!!お前の親のくれるしみったれた金のな、何千倍って額をくださるんだ!あの方はよ!」
「・・・・誰・・・に頼まれ・・・た・・・?」
「おえらい方さ!先日とうとう国を追い出されたけどなあ。その方が返り咲くには、この「ドイツ」っていう、餓鬼がいるんだとよ!国王陛下に「ドイツ」を差し出したら、どんな阿呆でも国に帰れるってわけさ。お前みたいに、「ドイツ」を排除してプロイセンの栄光を!なんてのは、一銭にもなりゃしねえ!!」
(!・・・オーストリアのメッテルニヒか!)
(・・メッテルニヒ!)
倒れたシュタインと、ルートヴィッヒは同時に悟る。
「ドイツ」を手土産に、またオーストリアの政治の世界へと復帰しようという魂胆なのか。
落ち目のメッテルニヒの言うことなど、もう誰も相手になどしないというのに。
それともオーストリアとプロイセンが、「統一ドイツ」を巡って激しく争う中、「ドイツ」=ルートヴィッヒを手に入れておこうという姑息な手段か。
「ドイツ」を手に入れれば、彼を溺愛しているプロイセン=ギルベルトはどんな条件でものむだろう。
オーストリアに差し出して復権するもよし、プロイセンに高く売りつけるもよし、という策に、この売国奴の将校達が乗ったのだ。
「じゃあな、ヘルトリングの坊ちゃんよお!お前の面倒は最後までみてやるよ!」
マイヤーブルクはヘルトリングに銃口を向ける。
「こっちで銃声がしたぞ!」
「まだ軍隊が残ってやがるのか!!」
「捕まえてつるしあげろ!国王は約束を守らねえのか!!」
さっきの市民軍がこっちへと来る。
「くそ!!引き上げだ!さっさと行かねえと俺達まで危ねえ!」
「行くぞ!マイヤーブルク!」
とどめを刺そうと向けた銃を、市民軍に向けてマイヤーブルクが発砲する。
ルートヴィッヒは馬に乗った将校に担ぎあげられて連れて行かれた。
わあっと声をあげて市民軍が襲ってきた。
馬が街道のほうへと走り去る。
「シュタインーー!!シュタイン!!」
ルートヴィッヒの叫びがむなしく響く。
(あぁ・・・・・・・・ルートヴィッヒ様・・・!)
市民軍は馬に乗って逃げた彼らを追って行ったようだ。
意識が薄れる中、シュタインは横で転がっていたヘルトリングが起き上がるのを見た。
撃たれたところから大量に出血している。
「・・・わが・・・プロイ・・・セン・・・・を・・・いいようにな・・ど・・させん」
震える手で呼び子の笛を取り出した。
体がけいれんを起こす中、笛を必死で吹く。
ピー、と笛が鳴る。
ピー、ピー・・・・・・・。
笛が止み、その体は崩れおちた。
シュタインが見た時、ヘルトリング大尉は絶命していた。
シュタインも撃たれたところから出血が止まらない。
(・・・・・・申し訳ありません・・・・ギルベルト様・・・・)
****************************
ギルベルトが軍の駐屯所に戻ると、中の兵士達が大騒ぎになっていた。
「何があった?」
ギルベルトは、はっとすると、兵士の返事も待たずにルートヴィッヒがいるはずの部屋へと階段を駆け上る。
部屋の周りにいた兵士をかき分けて行くと、ルートヴィッヒの護衛に付けた兵士が担架で運ばれていくのが見えた。
さあっとギルベルトの顔から血の気がひいた。
奥まった部屋には誰もいない上、窓が壊れ、ガラスが飛び散っていた。
(何があった?!ルッツ!!)
「何事だ!報告しろ!!
近くにいた兵士を怒鳴りつける。
「はい!国家殿!ヘルトリング大尉が、国王陛下の命令とおっしゃって、ルートヴィッヒ殿を連れ去ろうとして・・・・護衛の兵士と切りあったもようで・・。」
「ルッツは?!ルッツとシュタインはどこだ!だれか見た奴はいるか?!」
「は、はい!!ルートヴィッヒ殿とシュタイン少佐は馬に乗って出て行かれて・・・それをヘルトリング大尉たちが追っていかれました。」
「ヘルトリング達は何人だ?!」
「はい!仲間は大尉を入れて5名。いきなりふいを襲われたと・・・。」
「くそ!ヴェストファーレンに送ったはずが・・・・舞い戻ってきやがったな!!」
階段を駆け下りると、ギルベルトはすぐさま兵士たちに指示を出す。
「第1、第2部隊は俺に続け!第3、第4部隊は、国王陛下の指示を待って、ここの兵舎を守ってろ!市内には出るな!」
「いくぞ!」
ギルベルトは馬に飛び乗り、もと来た王宮への道を行く。
(もし・・・ルッツがうまく逃げたとしたら・・・俺がいる王宮に向かうだろう・・・。市民軍がどこにいるかわからねえが・・・・・。ちきしょう!!俺の油断だ!
ルッツ!シュタイン!今いくからな!!)
*****************************
シュタインの体から大量の血が失われていく。
(・・・もたな・・・い・・・・な・・・・。次は・・・俺の・・・番・・・か・・)
そうシュタインが覚悟した時、駆けてくるひづめの音がした。
「こっちで呼び子の音がしたぞ!探せ!」
「国家殿!ヘルトリングをこちらで見たものがいるそうです。」
(・・・国・・家・・・殿・・・・ギルベルト・・・・様・・・・!)
「シュタイン!!」
ギルベルトの声がした。
意識はどんどん薄れていく。
(ああ・・・・お伝えしなけれ・・・ば・・・・・!)
駆けて来る馬の蹄の音が止み、ギルベルトの声がした。
「しっかりしろ!今止血する!おい!医者を呼べ!すぐにだ!」
ギルベルトがシュタインの撃たれた胸を強く押して止血する。
「・・ギル・・ベルト・・・様・・・・ルートヴィッヒ・・・様を・・・。」
「わかってる!駐屯所にお前らはいなかったからな。・・・誰だ?」
「計画・・・・は・彼ら・・・・ですが・・・・黒幕・・・・は・・メッテルニヒ・・・・!」
「メッテルニヒか!!くそ!ルッツを道具にするつもりか!!」
「早く・・・・はや・・・く!!ギルベルト様!!ルート・・・・ヴィッヒ様・・はまだ市内・・・!市民軍が・・・追って・・・・・」
「わかった!医者はまだか!!」
ばたばたと音がして、医師が自分の服を切り裂く音がする。
「・・・・ギル・・・べ・・・ルト・・・様・・・・申しわ・・・け・・・」
「いいからもう黙ってろ!ルッツは取り返す!」
「マイヤー・・ブ・・・ルク・・・とミッター・・・べル・・・ク・・とロートリ・・ンゲ・・・ン・・が・・犬・・・です・・・。」
「わかった。あいつらが裏切り者だな!・・・・もう話すな!」
「・・・早く・・・追いかけて・・・。」
「わかった!いいか。死ぬなよ、シュタイン!これは命令だ!!」
シュタインの意識が途切れた。
「いいか、こいつを絶対に助けろ!俺はルッツを連れてった奴らの後を追う!後の始末をつけておけ!」
転がっている将校を一瞥すると、ギルベルトはシュタインの握っている剣をはずして持った。
「馬を!裏切り者を生かしてベルリンから出すな!!」
怒りにギルベルトの顔がゆがむ。
恐ろしいほどのその形相に周りの兵士が、威圧されてひるむ。
作品名:【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編 作家名:まこ