【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編
ギルベルトは馬に飛び乗ると兵士達に叫ぶ。
「いいか!!市民軍を見たら、すぐに退けよ!奴らを刺激するな!!市民軍には、要求をきくと国王が言ってると言え!代表者を国会に向かわせるんだ!!」
「市内の全ての門を閉ざせ!蟻一匹、ベルリン市内から出させるな!!」
「国家殿!!市民軍と思しき者たちが、誰かを追ってあちらの街道方向へ向かったそうです!」
「わかった!第2部隊は3手に別れて、門に移動!市民軍を国会に誘導しろ!第一部隊は俺に続け!」
ギルベルトの命令が広場にとどろく。
ギルベルトの体からにじみ出る殺気に、幾人かの兵士は震えあがった。
きびすを返すと、あっという間にギルベルトは馬を駆り、広場から街道へと向かっていった。
(ルッツ!ルッツ!!今、助けに行く!!どうか・・・どうか無事でいてくれ!!)
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市民軍がルートヴィッヒを拉致した将校達を追いかけてくる。
「やっちまえ!!軍は撤退したはずだ!国王は裏切ったんだ!」
「あの将校どもめ!発砲してきやがった!」
「おい!あれは、さっき俺達のとこに逃げ込んで来た坊主だぜ!」
「なんだ!つかまってるのか!!」
「連れの大人がいないな・・・・。やられたな・・・。」
「あんな子供は放っておけ!それよりも国会へむかうぞ!国王が俺達の要求を聞くって言ってんだ!!」
「そんなの本当がどうかわからねえじゃねえか!!」
混乱している市民軍の前に馬に乗った兵士が突然現れた。
「市民諸君!国王陛下が諸君との話し会いに応じる!ただちに国会へむかってくれ!
軍隊は市内から立ち去った!」
「なんだと?!じゃあ、おれらに発砲した奴らはなんだっていうんだよ!」
「だまされねえぞ!」
市民軍が兵士と話している間に、ルートヴィッヒを連れた将校は遠ざかってしまった。
「この中に代表者はいるか?すぐに国会へ向かってくれ!!国王陛下がまっておられる!!軍は撤退した。」
「俺が代表者だ!」
「では、正確な要求と意見を国会でのべてくれ、との仰せである!!他にも代表者がいるのなら、全員で国会にきてくれ!」
「俺も代表だぞ!」
「俺も意見があるぞ!」
市民軍は、兵士に誘導されて、国会へと向かいだした。
その真横を、ものすごい勢いで駆け抜けていく将校がいた。
一瞬で通り過ぎたが、馬上の将校の、氷のような一瞥を受けて、騒いでいた市民たちが押し黙る。
「さあ、早く!!国会には代表者が集まっている!」
兵士は将校を見たが、素知らぬ顔で市民軍を誘導する。
我にかえった市民軍が国会へと向かい始めた。
ギルベルトは第一部隊が市民軍を誘導しているのを見て、自身は街道へとひた走っていた。
(・・・暴動は、もう大丈夫だな・・・あとは国王がうまくやるだろう・・・・。
・・・・・後は・・・ルッツ!!待ってろ!今行く!)
ギルベルトの心に、激しい怒りがこみ上げてくる。
自分へと、裏切り者の将校たちとに。
「ドイツ」に反発する将校は、遠い地に配置しておけば大丈夫だと思った自分の甘さ。
まさか、ルートヴィッヒをさらおうなどと考えるものがいるとは思わなかった。
まして、オーストリアの失脚した宰相などに利用されようなどと。
「プロイセン崇拝者」の陰に隠れて、軍内部の不満分子たちが、売国に走るとは。
ヘルトリング大尉は貴族の子弟だが、その側近たちは平民であり、ドイツ人ですらない。
プロイセン軍内部の貴族優先の配属と、プロイセン国家で徐々に進んでいる「ドイツ・ゲルマン」民族主義がじわじわと、異民族の住民をしめつけているとわかっていたのに。
人種差別や宗教に寛容だった「プロイセン」。
フリッツ親父の時代の、誰でも自由に生きられる「国」でなくなっていく「プロイセン」。
それが今の「俺」。
「ドイツ人の国」を作る、というのはこういうことなのか?
しかも、「プロイセン」=俺のせいで、「ドイツ」=ルートヴィッヒが・・・・・・!!
(ちくしょう!オーストリアなどに好きにさせるものか!!
ルッツは必ず、取り戻す!!)
前方に市外へ続く街道が見えてきた。
ギルベルトの指示通り、市内の門や街道へと続く道は、軍の兵士が押さえてある。
なのに、ルートヴィッヒをさらった連中の姿が見えない。
まだ市外へ逃げたとは思えない。
(落ち着け!ギルベルト!さあ、お前ならどうする?裏切り者なら・・・どこへ逃げる?)
馬で逃げるには限界がある。
まして、軍に追われているとなれば・・・。
「船か!シュプレー河だ!!」
馬をくるりと反転させると、ギルベルトはシュプレー河へと向かう。
ベルリン市内のシュプレー河の船着き場は4か所。
人目につきにくい場所と言えば・・・・ヤノヴィッツ橋!
ギルベルトはひたすら馬を駆けさせる。
(ルッツ!待ってろ!今行く!)
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ルートヴィッヒはさるぐつわをかまされ、体を縛られた。
外からは何かわからないように、外套でくるまれて運ばれていた。
何度も抵抗し、声を限りに叫ぼうとしたが、そのたびに、容赦なく殴られた。
(・・・ごめんなさい!!兄さん!「自分の身は自分で守る」って・・・・兄さんに教わってたのに・・・・そんな事も出来なくて!)
執事のシュタインは無事だろうか?
撃たれたのか、大量に出血していた。
自分がなんの役にも立たない事を、ルートヴィッヒは痛感していた。
悔しさに涙が出てくる。
(もっと、剣も銃も練習して・・・・強くならないと・・・!絶対に強くなってやる!
兄さん、兄さん!!シュタイン・・・・ごめんなさい!!俺のせいで・・・・!!)
走っている馬が止まった。
馬から下ろされて、どこかへ運ばれるようだ。
「こっちだ!早くしろ!」
かすかな水音。
水音?いったいどうして・・・?
河だ!シュプレー河だ!
船で連れて行くつもりだ!
メッテルニヒはイギリスに亡命したと聞いている。
シュプレー河からどこに運ぶつもりだろう。
最短のルートを選ぶはずだ。どこだろう?
例えば、ハノ―ファーなどは同君連合だったこともあって、イギリスとのつながりが深い。
そこから海を渡ってイギリスへとルートヴィッヒを運ぶつもりか・・・・・。
(イギリスなんかに連れて行かれる前に、なんとかしないと・・!!)
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ギルベルトは馬を駆って、シュプレー河へとひた走る。
愛馬は、泡を吹き始めたが、足を止めはしない。
河岸の柳の木が見えてきた。
(どこだ?!どこにいる?!ルッツ!!)
大きな柳の木の陰に、馬から荷物のようなものを下ろしている者がいた。
プロイセン軍の制服だ!
対岸の船着き場から、船に乗り込もうとしている。
彼らは馬を岸に残し、船主であろう老人を岸に突き飛ばした。
(対岸か!どうする?船が動きだしたら、間に会わねえ!)
ギルベルトは馬を走らせながら周りを見回す。
船が動きだした。
ヤノヴィッツ橋!橋がある!
橋の上から船に飛び降りるのだ!
ギルベルトは橋めがけて駆る。
作品名:【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編 作家名:まこ