【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編
船が目の前を通り過ぎる。
間に会うか!?
馬をジャンプさせ、橋の欄干の上を走らせる。
欄干にとまっていた鳥達が驚いて、一斉に飛び立った。
その気配に、船を奪った将校達が上を向いた。
ギルベルトは馬ごと飛んだ。
愛馬は見事に船の上に着地するが、勢い余って、船の上にいた将校をひとりなぎ倒した。
ギルベルトは馬から飛び降りると、剣を引き抜き、叫ぶ。
「・・・・・・ルッツー!!」
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ルートヴィッヒは、首から下げた短剣を思い出した。
ギルベルトからもらった日本=ヤ―パンの鋭い刃。
木を彫刻した鞘のかわりに、丈夫な金属で鞘を作り直してもらった。
ギルベルトの発案で、見た目はちょうど十字架のようになっている。
縦に長い十字の中に短剣の刃がしまわれている。
ただのペンダントだと思われたのか、将校たちには取り上げられなかった。
これをうまく使って、この体に巻かれた綱を外して逃げ出さないと!
ルートヴィッヒをかついだ将校の足元が揺れる。
やはり船の上だ!
どさり、と投げ落とされて体に痛みが走った。
ドアが乱暴に閉められる音がした。
どうやら、船に乗せられて、閉じ込められたらしい。
かぶせられている外套をなんとか振り払う。
やっとあたりが見えた。
小さな窓から、ベルリン市内の風景が動いているのが見えた。
船は動き始めてしまった。
ルートヴィッヒは、船の奥まった倉庫のようなところに閉じ込められている。
まわりには、荷物が積み上げられている。
口にはめられているさるぐつわを外そうと、顔を床にこすりつける。
頬がざらざらした床でこすれたが、なんとかさるぐつわは取れた。
次に、ペンダント状になっている短剣の上部を口でくわえる。
しかし、うまく刃を引き抜けない。
外で誰か騒いでいる。
将校たちに、ばれないようにしないと。
焦ると、口から短剣の柄が外れそうになる。
ルートヴィッヒは、もがきながら、足を使ってペンダントを押さえ、口で剣を引き抜いた。
次の瞬間、船がかしいで大きく揺れた。
「・・・・・・・・ルッツー!!」
(兄さん?!)
ギルベルトの声がする!
ルートヴィッヒは必死で、縛ってある縄を切ろうとする。
船が大きく揺れて、口から短剣が滑り落ちてしまった。
外では、銃声と剣戟の音がする。
「ルッツ!どこだ?!無事か?!」
怒鳴るギルベルトの声が近付いてくる。
「兄さん!兄さん!!」
叫びながらも落ちた短剣をなんとか後手で拾おうとする。
「うわああ!」「やっちまえ!!」
外ではますます争う音が激しくなる。
ルートヴィッヒは思いきって転がると、縛られている手を落ちている短剣にのばす。
ピシっと指が切れたが、なんとか剣を拾えた。
後はこの縄を切るだけだ!
バシャ―ン!と、誰かが河に落ちた音がした。
銃声が響く。
「兄さん!!」
切れて血でぬるつく指が震えてうまく縄が切れない。
焦りで、気が狂いそうになった時、ザクっと縄が切れた。
ルートヴィッヒは縄をふりほどき、立ち上がると、閉じ込められた倉庫のドアに突進する。
ドアには鍵がかけられている。
体ごと、何度もぶちあたり、ドアの鍵をこわそうとする。
ドアがいきなり開いた。
自分をさらった将校が飛び込んでくる。
「こっちへこい!この餓鬼が!!」
「ルッツ!」
「兄さん!」
ギルベルトの姿が見えた。
肩は撃たれて血が流れ、剣で別の将校の剣を受け止めている。
ルートヴィッヒは、自分を捕まえようとした将校を、短剣で切り裂く。
「こ、この!!」
将校の持っていた銃がルートヴィッヒに向け、放たれた。
ルートヴィッヒが衝撃を受けて後ろに倒れる。
「ルッツー!!」
ギルベルトが絶叫する。
ギルベルトは目の前の将校を串刺しにして、そのまま、銃を撃った将校に飛びかかる。
「ルッツ!ルッツーー!」
ルートヴィッヒは胸に激しい衝撃を受けた。
手がすさまじく痛む。
指の先が切れて、つめがはがれ、出血している。
ギルベルトにもらった短剣が、銃弾を受けてはじけ飛んで転がっている。
短剣の鋭い刃が、銃弾をはじき返し、ルートヴィッヒは衝撃を受けただけですんだ。
はっとして、ギルベルトを見る。
兄の剣は将校を貫通している。
しかし、兄と組み合う将校の銃口がギルベルトに向けられている。
「兄さん!!」
ルートヴィッヒは、将校に体当たりする。
同時に銃が発射され、ギルベルトの額をかすめていった。
「・・・こ、この・・餓鬼・・・め・・・・・」
「・・・ち!」
額からの出血が、ギルベルトの目をふさぐ。
将校は、もう一度発砲しようとギルベルトに銃をむけた。
「兄さん!!」
ルートヴィッヒは、とっさに転がっていた短剣を拾い上げて、将校を突き刺した。
「・・がっ!」
血が噴き出して、ルートヴィッヒにふりかかる。
「・・・あ・・・・・ああ!!」
「ルッツ!!」
ギルベルトが将校の銃をうばい、撃った。
どおっと、将校が倒れた。
「ルッツ!!」
「・・・・・・・・」
ギルベルトが駆けより、ルートヴィッヒを抱きしめる。
「ルッツ!!無事か!!怪我はねえか・・・?!」
しかし、ルートヴィッヒは答えない。
「ルッツ!・・・ルッツ?!」
ルートヴィッヒは自分の手を見つめている。
血まみれの自分の手。
「・・・・あ・・・ああ・・・・・!!」
人の肉に刺さる剣の感触。
おぞましく降りかかる血しぶき。
「ルッツ?・・・・・・・!・・・大丈夫だ!ルッツ!!大丈夫だ!!」
ルートヴィッヒのショックの原因をギルベルトは一瞬で理解した。
幼い弟が、人を刺したのは、初めてだったのだ。
「ルッツ!大丈夫、大丈夫だ!!俺がいる!俺がここにいるだろう?」
「・・にい・・・・さ・・ん・・・・に・・・い・・さん・・・」
撃たれた肩からの出血で、血まみれになりながら、ギルベルトはルートヴィッヒを強く抱きしめてやる。
「大丈夫だ。ルッツ!落ち着け・・・お前は大丈夫・・・。俺がいる。そばにいるぞ。」
ルートヴィッヒの体がガタガタを震え始めた。
ギルベルトはルートヴィッヒを抱きかかえて、話しかける。
「ルッツ、ルッツ!!もう、大丈夫だ!」
「・・・・・にい・・・さん・・・・・。」
焦点のあっていなかったルートヴィッヒの目が、ようやくギルベルトを捕える。
「兄さん!!」
ルートヴィッヒはギルベルトにしがみついた。
「大丈夫だ、ルッツ!もう大丈夫。よくやった、よくやったぞ・・・ルッツ!」
「兄さん!兄さん!!兄さん・・・・!!」
うわぁっとルートヴィッヒが泣きだした。
その体をギルベルトは、強く抱きしめる。
「すまなかった、ルッツ。俺の油断だ。怖い思いをさせたな・・・。ごめんな・・・・ルッツ・・・・・ごめん・・・・・。」
ルートヴィッヒは震えながら、ギルベルトにしがみつく。
「あぁ・・・・ルッツ・・・!無事でよかった・・・・・
ルッツ・・・・怖かったな・・・・。」
作品名:【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編 作家名:まこ