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【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編

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船が目の前を通り過ぎる。

間に会うか!?

馬をジャンプさせ、橋の欄干の上を走らせる。
欄干にとまっていた鳥達が驚いて、一斉に飛び立った。

その気配に、船を奪った将校達が上を向いた。

ギルベルトは馬ごと飛んだ。

愛馬は見事に船の上に着地するが、勢い余って、船の上にいた将校をひとりなぎ倒した。

ギルベルトは馬から飛び降りると、剣を引き抜き、叫ぶ。

「・・・・・・ルッツー!!」


*************************************


ルートヴィッヒは、首から下げた短剣を思い出した。
ギルベルトからもらった日本=ヤ―パンの鋭い刃。

木を彫刻した鞘のかわりに、丈夫な金属で鞘を作り直してもらった。
ギルベルトの発案で、見た目はちょうど十字架のようになっている。
縦に長い十字の中に短剣の刃がしまわれている。

ただのペンダントだと思われたのか、将校たちには取り上げられなかった。
これをうまく使って、この体に巻かれた綱を外して逃げ出さないと!

ルートヴィッヒをかついだ将校の足元が揺れる。
やはり船の上だ!

どさり、と投げ落とされて体に痛みが走った。

ドアが乱暴に閉められる音がした。
どうやら、船に乗せられて、閉じ込められたらしい。
かぶせられている外套をなんとか振り払う。

やっとあたりが見えた。

小さな窓から、ベルリン市内の風景が動いているのが見えた。
船は動き始めてしまった。

ルートヴィッヒは、船の奥まった倉庫のようなところに閉じ込められている。
まわりには、荷物が積み上げられている。

口にはめられているさるぐつわを外そうと、顔を床にこすりつける。
頬がざらざらした床でこすれたが、なんとかさるぐつわは取れた。
次に、ペンダント状になっている短剣の上部を口でくわえる。
しかし、うまく刃を引き抜けない。

外で誰か騒いでいる。

将校たちに、ばれないようにしないと。
焦ると、口から短剣の柄が外れそうになる。
ルートヴィッヒは、もがきながら、足を使ってペンダントを押さえ、口で剣を引き抜いた。

次の瞬間、船がかしいで大きく揺れた。


「・・・・・・・・ルッツー!!」

(兄さん?!)

ギルベルトの声がする!
ルートヴィッヒは必死で、縛ってある縄を切ろうとする。

船が大きく揺れて、口から短剣が滑り落ちてしまった。

外では、銃声と剣戟の音がする。


「ルッツ!どこだ?!無事か?!」

怒鳴るギルベルトの声が近付いてくる。


「兄さん!兄さん!!」

叫びながらも落ちた短剣をなんとか後手で拾おうとする。

「うわああ!」「やっちまえ!!」

外ではますます争う音が激しくなる。
ルートヴィッヒは思いきって転がると、縛られている手を落ちている短剣にのばす。
ピシっと指が切れたが、なんとか剣を拾えた。
後はこの縄を切るだけだ!

バシャ―ン!と、誰かが河に落ちた音がした。
銃声が響く。

「兄さん!!」

切れて血でぬるつく指が震えてうまく縄が切れない。

焦りで、気が狂いそうになった時、ザクっと縄が切れた。

ルートヴィッヒは縄をふりほどき、立ち上がると、閉じ込められた倉庫のドアに突進する。
ドアには鍵がかけられている。

体ごと、何度もぶちあたり、ドアの鍵をこわそうとする。

ドアがいきなり開いた。

自分をさらった将校が飛び込んでくる。
「こっちへこい!この餓鬼が!!」

「ルッツ!」
「兄さん!」

ギルベルトの姿が見えた。
肩は撃たれて血が流れ、剣で別の将校の剣を受け止めている。

ルートヴィッヒは、自分を捕まえようとした将校を、短剣で切り裂く。

「こ、この!!」

将校の持っていた銃がルートヴィッヒに向け、放たれた。

ルートヴィッヒが衝撃を受けて後ろに倒れる。

「ルッツー!!」

ギルベルトが絶叫する。

ギルベルトは目の前の将校を串刺しにして、そのまま、銃を撃った将校に飛びかかる。

「ルッツ!ルッツーー!」

ルートヴィッヒは胸に激しい衝撃を受けた。
手がすさまじく痛む。
指の先が切れて、つめがはがれ、出血している。

ギルベルトにもらった短剣が、銃弾を受けてはじけ飛んで転がっている。

短剣の鋭い刃が、銃弾をはじき返し、ルートヴィッヒは衝撃を受けただけですんだ。


はっとして、ギルベルトを見る。

兄の剣は将校を貫通している。
しかし、兄と組み合う将校の銃口がギルベルトに向けられている。

「兄さん!!」

ルートヴィッヒは、将校に体当たりする。

同時に銃が発射され、ギルベルトの額をかすめていった。

「・・・こ、この・・餓鬼・・・め・・・・・」
「・・・ち!」

額からの出血が、ギルベルトの目をふさぐ。

将校は、もう一度発砲しようとギルベルトに銃をむけた。

「兄さん!!」

ルートヴィッヒは、とっさに転がっていた短剣を拾い上げて、将校を突き刺した。

「・・がっ!」

血が噴き出して、ルートヴィッヒにふりかかる。

「・・・あ・・・・・ああ!!」

「ルッツ!!」

ギルベルトが将校の銃をうばい、撃った。

どおっと、将校が倒れた。

「ルッツ!!」
「・・・・・・・・」

ギルベルトが駆けより、ルートヴィッヒを抱きしめる。

「ルッツ!!無事か!!怪我はねえか・・・?!」

しかし、ルートヴィッヒは答えない。

「ルッツ!・・・ルッツ?!」

ルートヴィッヒは自分の手を見つめている。
血まみれの自分の手。

「・・・・あ・・・ああ・・・・・!!」

人の肉に刺さる剣の感触。
おぞましく降りかかる血しぶき。

「ルッツ?・・・・・・・!・・・大丈夫だ!ルッツ!!大丈夫だ!!」

ルートヴィッヒのショックの原因をギルベルトは一瞬で理解した。

幼い弟が、人を刺したのは、初めてだったのだ。


「ルッツ!大丈夫、大丈夫だ!!俺がいる!俺がここにいるだろう?」
「・・にい・・・・さ・・ん・・・・に・・・い・・さん・・・」

撃たれた肩からの出血で、血まみれになりながら、ギルベルトはルートヴィッヒを強く抱きしめてやる。

「大丈夫だ。ルッツ!落ち着け・・・お前は大丈夫・・・。俺がいる。そばにいるぞ。」

ルートヴィッヒの体がガタガタを震え始めた。

ギルベルトはルートヴィッヒを抱きかかえて、話しかける。

「ルッツ、ルッツ!!もう、大丈夫だ!」
「・・・・・にい・・・さん・・・・・。」

焦点のあっていなかったルートヴィッヒの目が、ようやくギルベルトを捕える。

「兄さん!!」

ルートヴィッヒはギルベルトにしがみついた。

「大丈夫だ、ルッツ!もう大丈夫。よくやった、よくやったぞ・・・ルッツ!」

「兄さん!兄さん!!兄さん・・・・!!」

うわぁっとルートヴィッヒが泣きだした。

その体をギルベルトは、強く抱きしめる。

「すまなかった、ルッツ。俺の油断だ。怖い思いをさせたな・・・。ごめんな・・・・ルッツ・・・・・ごめん・・・・・。」

ルートヴィッヒは震えながら、ギルベルトにしがみつく。

「あぁ・・・・ルッツ・・・!無事でよかった・・・・・
ルッツ・・・・怖かったな・・・・。」