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【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編

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「・・・兄さん・・・・・兄さん・・・!!」

「・・・・無事で・・よかった・・・・・・。」

ギルベルトの目からも、熱いものが流れ落ちた。
それを頬に感じて、ルートヴィッヒが、さらに声をあげて泣き出した。

「・・ルッツ・・・・・俺のルッツ。大丈夫・・・もう大丈夫だ・・・。」
大声で泣く小さな弟。
もう二度と、こんな目にあわせるものか!
弟をかき抱きながら、自分への怒りと、失いそうになったものの大きさに畏怖する。
自分の甘さが、弟の命にかかわるのだ。
足元をすくわれるような、こんな愚かな事は二度と起こさせない!
ギルベルトは自身に命じた。


やがて、船の外が騒がしくなった。

ギルベルトは泣き続ける弟を抱きあげると、船の甲板へと出る。

船の前方の橋に、正規軍の部隊が走ってきている。

「国家殿!!」
「プロイセン殿!」

ロープが張られ、船は止まり、ギルベルトとルートヴィッヒは、軍隊に守られてギルベルトの私邸へと向かった。


ベルリン市内の暴動は、あっけなく収まり、国王は自由主義者の市民達の代表と話しあうこととなった。
後の1850年、プロイセン欽定憲を制定し、臣民としての言論・集会の自由、司法の独立、三級選挙などが保障され、1918年の第一次世界大戦の敗戦、および、プロイセン王国の滅亡まで効力を保った。

医師が国王によってギルベルトの私邸に派遣され、ルートヴィッヒとギルベルトは手当てを受けた。ギルベルトとルートヴィッヒは、軍の駐屯所の屋敷には戻らず、ギルベルトの私邸にとどまることになった。国王から派遣された兵士が屋敷のまわりを守っている。

病院に連れて行かれ大手術をうけたシュタインも、意識はないものの、命は助かった。

暴動の解決とともに、ルートヴィッヒをさらった将校たちの背後が徹底的に調べられた。

ヘルトリング大尉は、プロイセン愛国のあまり、「ドイツ」=ルートヴィッヒを殺すか、辺境に閉じ込めようとしていたこと。
大尉の部下たちは、金欲しさに、メッテルニヒの策に乗ったこと。
しかし、メッテルニヒは関与を否定し、プロイセン軍内部は、ギルベルトにより、徹底的な調査が行われた。そして、何人かの兵士が極秘のうちに消えた。

事件の後、ギルベルトは痛感していた。

「プロイセン」王国の「ドイツ」統一のかじ取りの難しさを。
国民がすべてギルベルトのように、手放しで「ドイツ」を求めているわけではないのだ。
一歩間違えば、今回のような事になりかねない。
もっと慎重に、事を運ばなければ・・・・・・。「ドイツ」のために。

(あいつがもっと大きく強くなって・・・・。強く?
強くなるために・・・必要な事を、俺が教えて・・・・・。)


自分の時とは違う・・・・。
自分のようにしていいのか?

ギルベルトは、心に浮かんだ疑問をいつまでも消せなかった。




ルートヴィッヒを、取り戻したものの、ギルベルトの顔はさえない。

幼い弟に、今回の事件が与えたショックは大きく、ルートヴィッヒは笑わなくなっていた。
昼間はどうにか普通にすごしているが、毎晩、夜中になると、うなされて飛び起きる弟を、ギルベルトは辛抱強く、抱きしめて慰めてやる。
ルートヴィッヒを抱きしめて、眠りにつくまで話しかけ、子守唄を歌ってやる。


歌いながら、ギルベルトは自分が幼かった頃を思い出していた。


弟のような、繊細さは自分にはなかったかもしれない。
生まれた時は、十字軍の戦いのただなかで、毎日どこかで戦闘が行われていた。

記憶に残る一番古い記憶でも、アッコンですでに、剣をふるい、人を切っていた・・・・・・・・。
戦って、人を傷つけることなど、恐怖ではなかった。
殺さなければ、自分が殺される・・・・そう教わってきた。

ああ・・・・弟と自分はなんと違うことだろう・・・・・。
物心がつくころ、すでに自分は殺戮者だったのだ。
そうして大きくなってきた。

間違っていたのか・・・・・。
軍国プロイセン、虐殺をいとわないドイツ騎士団。

そんな「俺」に育てられている、弟。

ひょっとして、俺は、こいつにとって、「悪」でしかないのか。

繊細で優しいルートヴィッヒ。
賢さとけなげさが目立ち、自分のような粗暴さはかけらもない。

ずっと望んできた「ドイツ」。

狂おしいまでに熱望した「ドイツ」は、ギルベルトの願望通り、ゲルマン民族を代表するような容姿にも恵まれた。

ゲルマン民族国家の中でも、自分=プロイセンが特殊なのはわかっている。
オーストリアが言うように、もっと「ゲルマンらしいゲルマン国家」の元で「ドイツ」は育つべきなのか・・・・。

それでも渡したくない。弟を。ルートヴィッヒを。

俺の元で生まれてきた。
俺の前に現れた、愛しい弟。
こいつを手放すなど、考えられない。


ルートヴィッヒがまた夢を見たのか、うなされ始めた。

静かに揺り起して、声をかける。

「大丈夫だ、ルッツ・・・・。俺がいる。そばにいる。」
「・・・兄さん・・・・怖いんだ・・・・・。兄さん・・・」

震えるルートヴィッヒを胸に強く抱きしめる。

「俺はずっとそばにいるだろ?さあ、安心して眠れ。」
「・・兄さん・・・・・そばにいて・・・・こわい・・」
「こわくねえぞ、ルッツ。俺がいるからな、お前には俺がいる。ずっとそばにいる・・・・・。」

何度も何度も繰り返し、ギルベルトはルートヴィッヒに話しかける。

それでも、小さな弟の体は震え続けている。

静かにルートヴィッヒを抱きしめながらギルベルトは歌う。


Weist du wieviel Sterne stehen     星がいくつあるか知ってる?
an dem blauen Himmelszelt?      青い空の上に
Weist du wieviel Wolken gehen     沢山の雲がどうやって漂うか知ってる?
weithin uber alle Welt?         広い世界中に
Gott, der Herr, hat sie gezahlet,     神はそれら すべての数をご存じで
das ihm auch nicht eines fehlet,     おられます                  
an der ganzen grosen Zahl,       どれほど沢山の数であろうと  
an der ganzen grosen Zahl.       どれほど沢山の数であろうと


子守唄にうとうとと眠りかけたルートヴィッヒが、びくっと体を震わせる。

何度も悪夢に見るのだろう。
自分が刺した将校の夢を。

こんな繊細さをもつ弟を戦場になど連れていけるのか?
ましてや自分が行くのは、世界を相手に戦う、修羅の道なのだ・・・・・。

「・・・に・・いさん・・・・」
「なんだ?ルッツ。俺はここにいるぞ。」

浅い眠りを繰り返しながら、ルートヴィッヒは悪夢に苦しめられている。
そのたびに、ギルベルトを呼ぶ。

「・・にい・・さん・・・・・・」
「ああ、わかってる。ルッツ、ずっといるぞ・・・お前のそばに・・。」