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【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編

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ルートヴィッヒを自分の元で育てるということは、こういう苦しみを何度もルートヴィヒに与える事になるだろう。
しかし、「国」である限り、戦うことは避けられない。
強くなければ、つぶされてしまう。
消えてしまうか、戦って生き残るか・・・・。

「ドイツ」はまだ生まれたばかりなのだ・・・・。
不安定で、土地にも民にも、またしっかりと結ばれてはいない。
プロイセン王国の中で生まれた「ドイツ」は、まだ人々の意識の中にあるだけなのだ。
「国土」と「国民」を早くルートヴィッヒに持たさなければ。

(もし・・・このまま・・・・消えてしまったら?)

例え様もない恐怖が、ギルベルトを襲う。



幼い「ドイツ」を消してしまうくらいなら、俺が消える!
俺の何もかも、全て、こいつにやる!
俺の力、俺の土地、俺の持てるもの。
すべて「ドイツ」に差し出そう。

消えないでくれ!俺のドイツ!
700年、ずっと待ち続けた。

お前のために、俺は生まれてきたんだ!
「ドイツ」のために、生きてきたんだ!

もう、お前以外に、俺の忠誠をささげる相手など存在しない!

「そばにいる・・・・・ずっと・・・・ルッツ・・・。」


Weist du wieviel Kinder schlafen,  眠っている子供がどれくらいいるか知ってる?
heute nacht im Bettelein?      聖なるこの夜に
Weist du wieviel Traume kommen  沢山の夢がどこから来るのか知ってる?
zu den muden Kinderlein?      幼い子供たちの元に
Gott, der Herr, hat sie gezahlet,   神はそれらすべての数をご存じで
das ihm auch nicht eines fehlet,    おられます
kennt auch dich und hat dich lieb,  神はあなたたちの全てをご存じで
kennt auch dich und hat dich lieb.  あなたたちを愛しておられます

ギルベルトは繰り返し、歌い続ける。
弟が安心するまで、何度も、何度も。

やがて、ルートヴィッヒが眠りにつく。

いつ悪夢にさいなまれるかわからない弟のために、ギルベルトの眠らない夜が続いた。



数か月が過ぎ、大けがをしたシュタインが戻ってきた。
まだ腕や体じゅうに包帯が巻かれている。
ルートヴィッヒが喜んで抱きつこうとした時は、珍しくうめいて辞退する。
兄弟二人で、笑った。

「しかし、お前も怪我ばっかりだなあ。ナポ公の戦争の時も、今回も・・・。」
「まあ、しかたありませんな。主人が主人ですからね。」

「それは・・・ひょっとして、俺に文句言ってんのか?」
「もちろんでございますよ!貴方のようなのに仕えていると、命がいくらあっても足りませんな。まあ、・・・それが私の本望ではありますが・・・。ルートヴィッヒ様、そのような事、私がいたしますよ。」

ルートヴィッヒがお茶を入れてきた。

「ううん!俺がやる。やりたいんだ!!シュタインがいなかったら、とっくにさらわれてイギリスに送られてたし・・・・・。」

ようやくルートヴィッヒもあの事件を口にして話せるようになった。
ギルベルトは笑って二人を見守る。

しかしシュタインは、主人が自分で思っているよりも、消耗していることを見抜いていた。

ルートヴィッヒが、教師について勉強している合間に、シュタインが問う。

「ギルベルト様・・・・。まだ、ルートヴィッヒ様は悪夢にうなされていらっしゃるのですか?」
「いや・・・。最近はもうほとんどないな。ルッツも、自分でようやく納得できたみてえだし・・・・。」
「では何故、貴方様は眠られないのです?」

執事の指摘にギルベルトは苦笑する。

「・・・・・・言うなよ・・・・。」

「いいえ、言わせていただかなくては。もうルートヴィッヒ様が大丈夫と思われていらっしゃるのなら、何故、夜通し起きているような真似をなさる?お体にさわっておられるでしょう。」

「・・・・・お前以外には、誰にもわかんねえよ。」

「今は誰にもわからないかもしれません。しかし、時間の問題ですぞ。いずれ、誰の目にも「プロイセン」殿が弱っていると思われてしまいます。」

「俺が弱ってる・・・と、なりゃあ、寄ってたかって皆で、紛争しかけてくるわな。」
「わかっていらっしゃるのなら。」

ギルベルトはルートヴィッヒが勉強している部屋を窓越しに見つめる。

「・・・・・・怖いんだよ・・・・。」
「怖い?貴方様が?」

「・・・ああ・・。ルッツが消えるんじゃねえかってよ。」
「・・・・・そんなことは・・・!」

「わからねえさ。あいつは俺とは似ても似つかねえ、まともな神経してやがんだ。
繊細で、優しくて。人を傷つけることを恐ろしいことだって、思ってやがる・・。」

「・・・それがどうして「消える」ことになるのです?」

「・・・・俺はよ、生まれてから、ずっと戦いっぱなしだった。消えたくなくて、大きくなりたくて・・・。強くなれるなら、それがどんなひどいことでもやってきた。」
「・・・「人」である私にはよくはわかりませんが、それが「国」の本能なのでしょう?」

「ああ・・・・。だけどよ・・・。もし・・・・・このまま・・・・ルッツが・・・。」

ギルベルトが言い淀む。
シュタインは立ち上がってお茶を入れる。
ギルベルトの顔には、疲労の色が濃く浮き出ている。

「だけど・・・・・ルッツが・・・・自分が大きくなることよりも、人を傷つけない事を選んだら・・・?「国」として、相手の「国」と戦うことをこばんだら・・・・?」

「・・・・・・それは・・・・その「国」は消えてしまう・・・・という事ですか・・?」

「ああ、そうだ。戦うことを拒んだら飲みこまれてしまう・・・。この欧州で生き抜いていくには、強くなけりゃだめなんだ!強くなけりゃ、あっという間に消えてしまう・・・・・!」

「それが、貴方は怖いと?ルートヴィッヒ様は、幼くはありますが、弱い方ではありませんでしょう。」

「俺は、あいつが生まれるのを待っていた。ずっとだ・・・700年間、「ドイツ」統一国家が生まれるのを待ってた。誰かが「ドイツ」を作ってくれるのを待ってた・・。
でも、誰もそんなこと、やりゃあしねえんだ!みんなゲルマンどうしで争うばっかりで・・。
そしたらよ、俺が作ればいいんだ・・・・って・・・・フリッツ親父に言われたんだ・・・・・。」

「・・・かの大王さまが・・・・。」

「フリッツは言ったよ。お前=プロイセンがドイツ統一を成し遂げればいい・・・。
お前なら出来るってよ・・・。それから俺はずっと考えてきた・・・・俺が作る「ドイツ
を・・・。」

「・・・弟君は・・・「ドイツ」様は貴方様の元に生まれたではありませんか。」
「・・俺は・・・俺の思ってる「ドイツ」を作ろうとしてる!でも、それは・・・ルッツにとって・・・・あいつにとっては・・・ひどいことなんじゃねえかってよ・・。」

ギルベルトが立ち上がり、歩き回る。