【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編
「俺は、「人」じゃねえし、「人」を傷つけることなんかなんでもねえ・・・。お前らから見れば俺は化け物だろう・・・・・。だけどよ・・・・ルッツは違う!あいつは、俺なんかよりもずっとまともで、真面目で、思いやりがあって・・・・・優しい・・・・。
あいつを・・・・「俺」みたいな奴が育てていいのか・・・?!俺が・・・俺が望むのはあいつにとって、つらいことばっかりだ!!これからも、ずっと戦い続けなきゃなんねえ!!」
「・・・・今回の事件・・・。貴方様が弟君を取り戻さなければ、他国に利用されてもっとひどいことになっておりましたでしょう・・・・。」
「・・・・利用して、利用されるってのは、「国」として当たり前なんだ・・・・。俺の判断の誤り一つで、あいつはどうにかなっちまう・・・。俺は・・・俺は正しいのか?俺のやり方でいいのか?あいつを育てるのに・・・!!」
「ギルベルト様・・・・・私はたかだか・・・数十年しか生きていない「人間」ではありますが・・・。その「人間」があえて申し上げましょう・・・。
弟君を、貴方が育てなくて誰が育てるのです?他の国にまかせていいのですか?」
ギルベルトは歩きまわるのをやめて、シュタインをじっと見つめる。
「貴方が望んで、生み出したのなら・・・貴方が責任を持って育てなくてはならないでしょう?人も同じです。「国」と。貴方は弟君に強くなってほしいと願われている。
人と何がちがうのです?人間も自分の子に、大きく、強く、たくましくなって欲しいと願うものですよ。
その幸せを願うのも同じです・・・・。」
「俺はあいつを幸せに出来るのか?俺が望むのは「強い国」だ。ドイツを一つにまとめ上げ、誰にも逆らわせねえ力を持つ「国」だ。それには、情け容赦なんてしてられねえ。」
「・・・では、強く、優しい大きな「国」になさればいい。貴方がそう望むのなら、ルートヴィッヒ様はそうなられますよ。」
「・・・簡単に・・・・言ってくれるぜ・・・!」
「簡単です。何を悩んでおられるのか・・・・。子供のいない私でもわかります。
貴方は、愛情を持ってルートヴィッヒ様を育てておられる。ルートヴィッヒ様は貴方の期待に答えようとなさっている・・・。お互いがお互いの望むように、と思いあっておられる。どこを、何を、思い悩む必要があるのです?」
「俺の・・・・ように・・・・なっちまったら・・・?俺は残忍な「軍国」だ。ずっと戦ってきただけだ・・・・。俺の考えはあいつを傷つける・・・・。」
「貴方がいないと、どれだけルートヴィッヒ様が寂しそうにしていらっしゃるかご存じですか?貴方を尊敬して・・・いつも貴方の力になりたいと思って努力なさっているのですよ。それを・・・・貴方が放り出してどうするのです・・・・。」
「俺も・・・お前だって、生きてきたのは戦いばっかりだ・・・。そんな道をあいつに行かせるのか・・・・。」
「・・・何が正しいか、どんな道を選ぶのか・・・・・。それはその人自身が選ぶもの・・・・。
私はこの国で、軍人として生きることを選んだ。生涯、貴方様にお仕えすると自分で決めました。
逆に、貴方様達「国」は、そういう選択権が「人」よりも少ないでしょう・・・。
その中で、貴方様も精いっぱい、あがいて生きてこられたでしょう。以前私に言ったように・・・。ルーツヴィッヒ様も、何を選ぶかは・・・・・ルートヴィッヒ様自身が決めること・・。」
シュタインはお茶を入れて突っ立ったままのギルベルトに渡す。
「私には、ルートヴィッヒ様が消えることを望むなど考えられません。少しでも早く大きくなって貴方の力になりたいと望む方が・・・。今回の事件・・・・「ドイツ」が大きくなれば、まだ同じような事が起きます。それに耐えられないような方ならば・・・到底「国」になどなれないでしょう?」
「・・・・・結局・・・俺はあいつの手を血まみれにしちまうのか・・・。」
「では、誰もいない未開の地にでも送って、何も感じない、誰もいないところで暮らしていきますか?それはもう「国」ではないでしょう。それこそ、「国」として生きられない。」
「・・・・・あいつが・・・・・大きくなった時・・・・俺をうらんでも・・仕方ねえか・・。」
「・…なにを選んで、何を思われるか・・・それはルートヴィッヒ様自身の決めること。
恨まれて、憎まれたのなら、それも貴方が教えたこと。逆ならまだしも、そのようなことが起きるとは到底おもえませんが。
貴方様は、ただ、「国」として「兄」として、教えるべきこと、為すべきことをなさればいい。」
「だから・・・・簡単に言ってくれるな・・・。」
シュタインは静かに笑った。
「ルートヴィッヒ様が大きくなられた時に、きっとそれがわかるでしょう。私には見ることはかないませんが・・・・。貴方様が育てた結果が、「ドイツ」として成られたルートヴィッヒ様のお姿でしょう・・・・。それは貴方のやったことの結果です。甘んじてお受けなさいませ。」
「・・…厳しいな・・・。お前はいつも・・・・。」
「誰かに厳しくしてもらわないと、俺は駄目だ、といつもおっしゃっているでしょう・・・。
さあ、ギルベルト様。悩んでいても、結果が出るのはどうせ先です。今夜から、しっかりとお眠りください。でないと、睡眠薬を盛りますよ。」
「お前・・・・本気でやりそうだな・・・・。」
「もちろんですとも。私の仕事ですから。」
「わかったよ・・・・シュタイン・・・。ありがとう・・・・。」
ギルベルトはカップのお茶を飲み干した。
シュタインは、にっこりと笑って、カップを受け取った。
数ヵ月後、プロイセンに大規模な鉄道の敷設が完成した。
ベルリンから、各都市への移動と輸送の効率が格段に上がる。
ギルベルトを視察のために、ベルリンを離れることとなった。
最近は落ち着いているものの、ルートヴィッヒが心配だった。
「・・大丈夫か・・・?ルッツ・・・。俺のいねえ間・・・・。」
「うん、もう大丈夫。兄さん、安心して行ってきて。シュタインもいるし・・・。
お屋敷は国王陛下の近衛兵が守ってくれてるから心配ないし・・・。」
ルートヴィッヒが明るく言う。
ルートヴィッヒの後ろでシュタインがうなずいている。
ギルベルトは不安に思いながらも出発した。
シュタインと二人で屋敷に残る。
あの事件以来、兄がいない夜は初めてだ。
(もう、兄さんに心配かけないように、しっかりしないと!)
夕方が迫ってきていた。もうすぐ夜になる。
(今頃、兄さんはどこだろう?もう鉄道には乗ったのかな・・・?)
視察にもついて行きたい。
しかし、子供の自分が行けば、周囲から奇異の目で見られる・・・。
いったいいつまで、子供の姿のままなんだろう?
兄さんは子供時代が数百年続くと言っていたけど・・・・。
そんなに、待てない・・・・・・・。
今、すぐにでも大きくなりたい。
強くなって、もう誰にも迷惑はかけたくない・・・・。
「ルートヴィッヒ様・・・・!」
シュタインが血相を変えて部屋に入ってきた。
「どうしたの?」
「国王陛下から・・・・ルートヴィッヒ様に要請です・・!」
作品名:【ヘタリア】 兄さんの子守唄 後編 作家名:まこ