目を塞ぐ卑怯者
「そうやって兄貴を平気で傷つけて甘えてる。お前はそれで結局兄貴が許してくれるのを知ってる。過去の事もあったのに今こうやって普通に話せるまでになったからだろう、どれほど兄貴が苦しみ抜いて許したのかも知らないくせに、知ろうともしないくせに」
「何を、」
「それで、お前は兄貴のことを好きだなんて、」
この、卑怯者
そう小さく吐き捨てると、彼はくるりと背を向けて先を歩いていった。
彼の靴音が廊下に響いている。私はその音を呆然と聞いている、それしか出来ない。つい今し方投げられた言葉が頭にダイレクトに木霊する。
ひきょうもの
甘え、私自身そんなつもりは毛頭無かった。酷い言葉が口を出たのはそれ相応の原因だったから、と思いこもうとするのに、考えれば考えるほど些細なことに思える。では、あの人が未だに私を弟のように扱うから?もうそんな関係でもないしあの頃のように幼い私ではない。それなのに私は、将に幼子のように彼を傷つけた。矛盾している。ああ、何故、何故!
彼はきっと私の代わりに耀さんの元へ行くのだろう。彼が原因を話そうとしなくとも自分なりに慰め、何とか元気づけようとするのだろう。あの人が好きなのだ。それ故に放っておけない。私とは違って素直に自分の思うままに行動しているあの人ならば。
それが私にはとても疎ましい。貴方のように私は出来ない、出来るはずもない。昔のこと、今のこと、すべてが枷となって邪魔をする。何が根本の原因なのかも判らない。解決しようもなくただ月日は流れていつまでもそのままだ。
(羨ましい)
(傷ついたあの人を慰めることが出来る貴方が)
(たとえそれが私が原因であっても)