時の狂ったその島で
「俺はエクシアの中で眠る。・・・好きに使えばいい」
そう言った刹那の部屋を借りて俺はベッドに横になる。
すると一気に眠気に襲われて思っていたよりも緊張していたことに気づいた。
眠りに落ちていく頭の片隅で思い出すのは兄さんのこと。
「・・・ダメだな、俺は・・・・・・また・・・兄さんにあんな顔・・・させちまって・・・」
ゆっくりと瞼が閉じていき、そして俺は眠りについた。
朝になったら、もう少し笑って話しかけてみよう。
だって・・・せっかく会えたんだぜ・・・?
―ごめんな―
「? なに急に謝ってんだよ、兄さん」
―お前は昔から俺のことが嫌いだったよな―
「っ! ・・・べつに、嫌ってなんか・・・」
―だから、さよなら。・・・ライル―
・・・・・・ああ、これはいつもの夢だといつも俺はその時に気がつくんだ。
こんな話なんてしたことないのに・・・兄さんが家を出て行ってから思い出したようにこの夢を見る。
その夢の中で・・・兄さんは泣きそうなくせして無理に笑おうとしているんだ。
一方的に別れを告げた俺を責めるように、兄さんは居なくなってしまった。
嫌われていると思い込ませてしまったから・・・。
そして兄さんは一方的に別れも告げずに俺を置いて逝ってしまった。俺の知らない宇宙で・・・。
夢の最後もいつも同じ。
兄さんは泣きじゃくる幼い自分の手を引いて俺の前から消えてしまうんだ・・・。
寂しい。そんな気持ちで一杯になった胸はそれでも溢れることなくて痛みだけを残す。
その痛みと、優しく頭を撫でる手に俺は気がついたけれど、目を開けられなかった。
幼い日の両親のぬくもりを模倣したその手の主はもう世界にたった一人しか居ないから。
「・・・ごめんな」
夢がまだ続いているのかと思うほど、その声はやはり情けないほどに寂しそうだった。
「・・・・・・兄さん?」
だから、つい声をかけてしまった。
「あ・・・、起こしちまったな・・・ごめんな」
「・・・いいよ。それよりも・・・手袋外してくれたんだ」
「あ、・・・ああ」
多分、17の頃から(もしかしたらその前から)兄さんはスナイパーをしていた。
家族の復讐と俺をカレッジに通わせるために。
そんな大事な手なのに・・・家族のためなら曝け出してくれるんだ・・・。
「なぁ兄さん。ガキの頃みたいに一緒に寝ようぜ?」
「は、ハハっ。大の男二人じゃ狭いだろ?」
「なんとかなるさ。ダメなら床で」
毛布を広げておいでと手招きすると兄さんは昔みたいに楽しそうに笑ってベッドに入る。
よかった、なんて思ってしまうほど嬉しかった。
「・・・やっぱ狭いな」
「大丈夫だって。ガキの頃みたいにくっつきゃ落ちないさ」
同じ背丈の男を抱いて寝るなんてって思うが、そうしたかった。
昔もよく寒いからと兄さんにくっついて眠っていたのを思い出す。
「・・・俺よりも年上になっちまったのに、昔と変わらず寂しがりやだな・・・ライルは」
「そ。年食って余計にな・・・。・・・だから、勝手にいなくなるなよ、兄さん・・・」
「・・・・・・ごめんな」
あやすように背中を撫でられるけれども、兄さんはとうとういなくならないとは言ってくれなかった。