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【ヘタリア】兄さんが消えない理由マリエンブルク城篇2-1

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毎朝、メモで確認している。

(本日、俺様、ヴェストから逃亡中!詳細は日記を見ること。)


ヴェストが怒っているのは、俺が上司から逃げてるからだ。



ギルベルトは、トマト籠を放り出して、怒りの形相で迫ってくる弟から逃げようかどうしようか迷った。

とにかく、マリエンブルクの城には行きたくなかった。
あの城には思い出がありすぎる。
今の状態の自分には、世界遺産だのそんな面倒な事にかかわったら、ルートヴィッヒに気付かれてしまう。



「あれー!どうしたん!ドイツ!!久しぶりやな!」

ギルベルトの後ろから、陽気なスペインの声がした。

「ああ、久しぶりだな、スペイン。突然押し掛けてすまない。うちの兄貴が迷惑をかけているようだな。」

「迷惑なんてことあらへんで!ギルには助かっておるねん。なんせ、これだけトマト畑広いやろ?人出が足らなくてな。ギルに来てもろて、大助かりや!」




ルートヴィッヒは、じりじりっと逃げるそぶりのギルベルトの腕を、がしりとつかむ。

「うがゥ!」

声ともつかない声で、ギルベルトが叫ぶ。



「なんや、スーツ着てるやん、仕事か?ドイツ。」

「ああ。でも「俺」じゃなくて、兄貴に依頼があったんだ。すまないが連れていくぞ。」


「お、俺は、嫌だって断ったじゃねえかよ!!ヴェスト!離せ、ええい、離せよ!!」



じたじたと暴れるギルベルトと押さえつけるルートヴィッヒを見て、アントーニョは陽気に笑う。

「あっはー!ほんと、いつ見ても、仲良いねんなー。まあ、そう急がんと、うちでちょっと何か食べていき。すぐに用意したるからな。」




「ちょ、ちょっと待て!」
「いや、待ってくれ!スペイン」




ほとんど同時に兄弟で叫んだが、アントーニョは聞いちゃいない。


「今、ロマーノに足りない材料買おてきてもろてん。いやー、嬉しなー。人数多いほうがうまいんよ。パエリア、好きやったろ?ドイツ。」

「え?ああ。でも、しかし、俺と兄さんは・・・」

「ああ、もう、かたいこと言わんことや!俺んとこ、せっかく来たんやから、うまいもん食べて、ゆっくりしとき!」



「トーニョ!!助けろ!!俺は行かねえぞ!ヴェスト!!上司にだってちゃんと断ってきたんだ!」
「嫌だと言って逃げるのは、ちゃんと断ったとは言わん!!」



「ギルちゃん、そのトマト、こっちへ持ってきてえな。良かったなあ。むきむきの弟に持ってもらえんなあ。ついでに、そこに置いてあるトマトの籠、二人で持ってきてえな。」

「え?!この量を?おい!トーニョ!待て!俺様の話をききやがれ!」

アントーニョはすたすたと重そうな籠を背負って行ってしまった。

「どれを運ぶんだ?兄さん。どうやら、もう食事をしていけと、スペインの中では決まっているようだな。兄さんが今まで世話になった分くらい、俺が手伝う。だから・・・」

「もうわかったぜ!ヴェスト!!わかったから、そっち、持ってくれ!」



まだ兄が逃げだすのではないかと、じっとギルベルトを見つめる。

「くっそ。わかったよ!お前まで出てきちゃ、逃げらんねーってことなんだろう!!」

「兄さん・・・・・・。どうして・・・・」
「ヴェスト!ここでは、その話はなしだ!!ちゃんと行くから、それでいいだろ!!」



ギルベルトは顔をゆがめるとトマト籠を背負い歩きだす。


(あぶねえ、あぶねえ!ヴェストが何言ってんのか、さっぱりわからねえ。後でこっそり日記見ねえとな。)



(どうしてこれほどポーランド行きを嫌がるのか・・・・・。
 気持ちはわかるが、兄さんには、きちんと「過去」と向き合ってほしい。
 兄さんは騎士団の司教が亡くなってから変だ。
 ショックを受けたのはわかる。だけどきちんと向き合っておくべきだ。
 兄さんが何を思っているか知らないけれど、兄さんがあきらめてしまった事は、俺がやる。)

不機嫌に黙ってしまったギルベルトの背中を見ながら、ルートヴィッヒは改めて決意する。

重いトマト籠をひょいと持ち上げると、ルートヴィッヒは兄の後を追った。



ロマーノにいつものように罵倒されながらも、スペインの作ってくれた食事は思いのほかおいしくて、家を出てからろくに食べていなかったルートヴィッヒはほっとする。

兄の事となると、つい、食事をとることも忘れてしまう。
ルートヴィッヒの悪いくせだ。

「で?これからポーランドに行くって・・・!また遠いとこへ行くんやなあ。なんでギルちゃんがメインなん?」

「ああ、マリエンブルク城は元ドイツ騎士団の城だから・・・。内部の構造や騎士たちの実際の暮らしがどうだったのか、正確に展示したいらしいんだ。」

「へえー!ギルぅ!良かったやん!お前のいたとこ、世界遺産になるんやなー。かっこええわ!頑張って行ってきいな!!」

「うるせー!俺は、あの城、追い出されたんだぜー!ポーランドんちの上司だってあれから、あん城に住んでたんだろうが!!なんで今さら騎士団の城として展示すんだよ!」

「そりゃ、そっちのが、格好ええからやろ!うちにもあるでー!サンチアゴ騎士団の城とかな!観光収入、いいんやで!騎士の城言うたら、みんな、見に来てくれるからな!」

「お前・・・・・黒いぞ!スペイン!!」
「なんや、ロマ!お前んちみたいにな、なんでも由来があって、歴史の舞台なったーちゅうところは、そうそうあらへんのやで!!なんでも観光の目玉になるんやったら使うのがほんとやろ!」

「けっ!なんでよその国の利益のために俺様が頑張らなきゃなんねーんだよ!!
俺様は自由に、小鳥のようにかっこよくしてんのがポリシーだぜ!!」

「ふん!腐れじゃがいもが!ちょっとは働きやがれ!!」
「お兄様!何をおっしゃる!!俺ほどの働きものはそんなにいねー!トマト畑であれだけ収穫出来たのは、まさに俺様のおかげ・・!」

「ギルちゃん、食った分は働いていってえなー。」
「食った分のほうが多いだろ!暑い、暑いって、一日中、トーニョと川で騒ぎやがって・・・!
 収穫するよりも、ずーっと遊んでただろうが!!」
「えええ!そんな事ないよな!トーニョ!!俺様、頑張った!」

「ううん、川でも魚とったよな?その分・・・働いてもろてないやん!」
「うがー、けちくせえ!!魚もただじゃないのかよ!!俺様が10匹も釣ったんだぜ!!」
「おめーが食べたのは20匹だ!計算してみろ!馬鹿やろー!!」

にぎやかな食卓。
楽しそうな兄を見て、ルートヴィッヒは少し安心する。
兄は家出をしても、ちゃんと受け入れてくれる友人たちがいる。
遊んでいるように見えるが、ギルベルトはいつも考えながら暮らしているのだ。
自分への配慮が多すぎて、たまにルートヴィッヒはつらくなる時がある。
特に最近の上の空のような兄の態度・・・・・・。
(もっと積極的に、仕事してくれていいのに・・・。)


自分より、よっぽど優秀なくせに、あくまで出過ぎず、むしろ自分は役立たずでいたいと思っている兄の態度はルートヴィッヒの不安を掻き立てる。

(兄さんはいつか、云ってしまうのではないか・・・。