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【ヘタリア】兄さんが消えない理由マリエンブルク城篇2-1

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すべてを兄さんから奪い、成り立っている「俺」は、どうやって兄さんをつなぎとめておけばいいんだ・・・・。)

たまに決意がぐらつくことがある。

そういう時、悪友たちと一緒にたわむれる兄を見ると、少し安心する・・・・・。

アントーニョやフランシスは、そういうルートヴィッヒの気持ちを理解して、なんとかリラックスして過ごせるようにしてくれる。
今も、気を遣わせているなあ・・・・と思う。
マリエンブルクの城の件も、兄弟で話せば、たぶん喧嘩になってしまうことを、さらっと食卓での世間話にしてしまう。

この軽やかさがルートヴィッヒには真似出来ない。

(ありがとう・・・・・アントーニョ。それに・・・ロマーノ・・・フランシス・・。)


心の中で秘かに礼を言う。

「ああ!腹いっぱいだ!!」

そろそろ、帰る支度を、とそわそわし始めたルートヴィッヒを見て、アントーニョが切り出した。


「そうや!とっておきの酒があるんやった!!ロマ、あれ、出してきてくれへんか?」
「俺が?!」
「だって、お前がしまってくれたんやろ?俺、どこにあるかわからへん。」
「ちっ!仕方ねえな!!待ってろよ!ジャガイモ兄弟!!おまえんちの粗雑なビールと違って、世の中にはこんなに繊細なうまい酒があるって教えてやらあ!!」

「いや、そろそろおいとましていかないと・・・。」

「泊っていくやろ?ドイツ!」
「え?そんな・・・ごちそうになっただけでなく・・・。」
「泊るんなら、ちょっとお前に見て行ってもらいたいものあるねん。お前んとこに、輸出したいもんあるんやけど、見本、見てほしいんや。」

いきなり仕事の話になった。
スペインがどうやら、ルートヴィッヒを引き留めたいと思っているらしい。

急ぎたいが、仕方ない。
兄さんが世話になっていたわけだし、出来ることがあれば、お礼をかねてしておきたい。

「トーニョんちのもん、トマト以外でなにがあるのかよ。」

「食いもんじゃねー。こういう素焼きタイルなんだけどさ・・・。」


その夜は楽しく過ごした。
ロマーノのうちの白ワインは、口の中でとろけるようで、信じられないくらい繊細で上品な味がした。

(こういうものが作れるんだよな・・・・ロマーノのところは・・・・。)

感心しながら、スペインのだしてきたタイルの見本を見たり、騒ぎまくる兄をなだめたり・・・・。



夜もふけて、風呂に入り、寝室へと通された。

どういうわけか、ギルベルトと同じ部屋だ。

ベッドは二つあるが、さっきからギルベルトは黙りこくっている。

「兄さん・・・・。」
「わかってる・・・。ここでは何も言うな・・・・・。ヴェスト。」
「明日にはマリエンブルクの城に行くぞ。」
「ああ、わかった。もう、寝るぞ。」
「・・・・・・・・お休み・・・兄さん・・・・。」
「お休み。ヴェスト。」


黙ってベッドに入って背中を向けてしまった兄を見つめる・・・・。

言いたいことはあるが、スペインのうちで言い争いになれば、アントーニョはきっと心配するだろう・・・・。
今日は、もう寝るか・・・・。
仕方ない・・・・・。

ルートヴィッヒは胸に痛いものを感じながら、ベッドに横たわる。

かちりと音がして、部屋の電気が消えた。

スペインの夜は、涼やかな風が吹いている。

(明日・・・・話そう・・・兄さん・・・・。)
ルートヴィッヒは、眠れない目を閉じた。





アントーニョは自室に戻ってきて、ため息をついた。

(困った兄弟やな・・・・・。兄は弟に遠慮するばっかだし、弟は兄が消えないか必死だし・・・・・。見てて、いたましいわ・・・・。)

ギルベルトが自分のうちに駆け込んでくるのは珍しいことではない。
ひまをもてあましての事も多いが、自分がいることが弟の迷惑になっているのでは、と考えた時に、ギルベルトはアントーニョの畑で猛烈に働く・・・・・・・。
亡国となった気持ちはどんなのだろう。
苦しみとか、哀しみを、ギルベルトは悪友の自分たちにも見せない。
それが彼なりの、心配させまいとして態度なのだろうが、なにか寂しさは隠せない。

ギルベルト本人は、アントーニョやフランシスが気付いていないと思っているが、その体はたまに、空に透けてみえる。


それを問い詰めたら、素直に白状して、別れの言葉と今までの礼を言われた。
ルートヴィッヒの相談に乗ってやってくれと頼まれた。

ぶんなぐってやったのに、翌朝、もうそれを忘れてた。

ああ、どうしてやればいい?

フランシスも、うすうすわかっていたようだが、このことを伝えるとショックだったらしい。


 (何もせず、何もあがかずに消えていくなんて、ギルちゃんらくしないやろ?)


フランシスから聞いた話だと、例のドイツ騎士団の司教・・・・。
現在の騎士団の中で、ギルベルトを「ドイツ騎士団」と認めている一派の中心人物だった司教が亡くなったのだった。
ギルベルトにはその葬式への参列さえ許されなかった。
許されてもきっと彼は行かなかったと思う。

 (行けないよなあ・・・・ギルちゃんには・・・・・。)

それから、ギルベルトは変わった。
何がどう変わったとはっきり言えるほどではないが、何か彼の中で、決意してしまった事があるような・・・・。

それがアントーニョやフランシスには不吉なものに思えた。
きっとルートヴィッヒも同じ思いなのだろう。

(不憫なのは、お前じゃない。ルーイのほうなんよ。ギル・・・・・。)



「おい!トーニョ!」

ロマーノがアントーニョの部屋のドアのところに立っている。

「なんや、ロマ。まだ寝ておらへんかったんか。」

ロマーノがドアを閉めてずかずかと入ってくると、部屋の椅子に腰を下ろす。

「あいつらの威圧感が壁越しに伝わってきて、寝れねーんだよ!!このやろー!」

ぶはっとアントーニョは噴き出す。

「威圧感かい!そりゃええわ!!二人とも、今日は、すっごい出しとるからなあ・・・。」

「わかってんなら、なんとかしろよ!!なんで言わねーんだよ!」

「言っちゃいかんのよ。ロマ。あの二人の間だけで済まさなくちゃならへん事なんよ。」

「なんでだよ!あの馬鹿兄が、どうせかっこつけてわがまま言ってんだろ?くそ弟もさっさと兄貴とふんじばって、消えねえようにすりゃいいだけの話じゃねーか!」

「お前・・・・よく見てるなあ・・・そんなん、口に出来へんで。ふつう・・・。」

「なんだよ!本当のことだろうが!!」

「・・・・・・・・・・ロマなあ・・・・・。もし・・だけどな。もし・・・・お前とイタちゃん、どっちかが消えなあかんとしたら・・・・・。お前どっちを選ぶ?お前が消えるのと、イタちゃんが消えるのと・・・・・。」

「そんなん決まってるだろう!!俺は兄貴だぜ!!俺が消える!!」

「そうなんよ・・・・。そういうことなんよ・・・。」

「なんて言うと思ったかよ!!馬鹿じゃねえの、お前も。あいつらも!」

「へっ?!・・・・なんで俺も馬鹿なん?」

「どっちかが消えるなんて事はねえ!!二人とも生き残ればいいだけだ!!」

「でも・・・。」