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【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2

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「わかった。言ってくれ。」



「俺は・・・・・。ここでずっと戦ってた。
異教徒なんて人だなんて思わなかった・・・・・。
すべてを手に入れて、俺が大きく強くなるための最高の土地だった・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」




ギルベルトの目は何も見ていない。
その目に見えているのは、過去の虚像か・・・・・・。




「俺は、ここで強くなった。仲間もどんどん増えて、ドイツからの入植者も増えて領地は最大になった・・・・・・。」

「ああ・・・。」




「血で血を洗う戦いばかりだった・・・・。騎士団は、ここに住んでたプロイセン人を虐殺した・・・・・。

自分達の土地を手に入れるために・・・自分が大きくなるために・・・・。
俺は何の躊躇もなく、殺していった・・・・。」


それがどんな壮絶な戦いだったのか、ルートヴィッヒには知るよしもない。


「・・・そうして、この土地を手に入れた・・・。ドイツから沢山の騎士と人々がやってきて、俺の力はますます強くなった・・・・。」


「俺は・・・・・。ここで手に入れたものを失くした・・・・。
誇りも、土地も・・・・・。騎士たちすら・・・・。

 俺が騎士たちを裏切ったんだ・・・!!

 俺は・・・俺は「国」になりたかった!!
強くて大きな国になりたかった!
土地も民も欲しかったんだ!
だから、いつも一緒にいてくれた騎士たちを裏切って・・・・・!!
 俺が虐殺した民の名前の「国」となった・・・・・。」


「・・・兄さん!」

「聞いてくれ・・・・ヴェスト・・・・。
 俺は、嫌だったんだ・・・・・。
でも、それが俺が騎士団を裏切った罰だと思った・・・・。
「国」になれる代わりに、「皆殺しにした民の名前」を背負う・・・。
それが俺の業なんだって・・・・。
 俺は・・・騎士団の仲間が引き留めるのも聞かなかった・・・・・。
自分で選んだんだ・・・プロイセンになることを・・・・。」


「・・・・・・・・。」


「俺は、仲間を裏切って国になった・・・・・。
裏切った代償に、「国」になった時の記憶をなくしたらしい。

その時、ダチに、俺の剣を渡したまでは覚えてるんだ・・・・。
・・・・・・・俺でも、皆を裏切ったことは苦しかったんだろうな。
プロイセンになるって決めてから、「国」になるまでの記憶がねえんだ・・・・。
その間、どれだけ、俺はひどいことをしたんだ?
どれだけひどい裏切りで、あいつら、騎士団の皆を傷つけたんだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・プロイセンになって、しばらくしての記憶はあるんだ。
でもよ、俺が覚えてない時間・・・・俺が忘れちまった間にいったい何を言ったんだ?
・・・・・・・親友だった奴とはそれっきりだ!
会いに行こうとして、止められたよ。
・・・・・お前は自分でもう会わないって言ったって言われた・・・・。

・・・・・ 記憶がねえんだ!!
 わからねえんだ!!
 ・・・・・・・・・・・俺はどんだけひどいしうちをあいつら、騎士団のみんなにしたんだ?!

俺は、あの城に行くのが、怖い・・・・。
どれだけ、みんな、俺を恨んでいたんだ?

俺は・・・・俺はあの城に行くのが怖いんだ!!」



ルートヴィッヒは何もも言えなかった。


兄の苦しみ。




「国」として生まれ変わったことなど自分にはない。


兄のように、特殊な「国」の苦しみを、自分の様な恵まれた「国」がどれだけわかるというのだろう?







しばらく、沈黙が訪れた。

何もしゃべれない・・・・。

重苦しい時間が過ぎる。

ようやくギルベルトが話しだす。

 

「ヴェスト・・・・・・。俺が消えるのを止めるな。」

「なっ!何を言ってるんだ!兄さん!!」

ギルベルトの突然の言葉に、ルートヴィッヒは驚愕のあまり叫ぶ。



「俺の体には、何かが起こり始めてる・・・・・。」

「兄さんっ!!」

「黙って聞け!!ヴェスト!!」

ギルベルトの剣幕にルートヴィッヒは震える。



「俺はお前が生まれてから、いつ消えてもいいと思ってた。
お前と一つになってからも、なんで消えねーのかは知らねえが、ラッキーだったとしか思わなかった。
でもよ・・・」

ギルベルトがゆっくりと視線をルートヴィッヒに向ける。


「そろそろ、潮時なんじゃねえか?」

「そんな・・・・そんな事を・・・・・・・。」

ルートヴィッヒの体はがたがたと震え始めた。
兄のするどい視線から目がそらせない。


「お前もわかってんだろ?最近の俺がおかしかったの。
俺は、今までどうして自分がここにいるのか、どうしていられるのか不思議だった。」



見つめあう兄弟は、お互いに、まったく視線を外せない。



「俺はお前に吸収されてきっと消えるんだろうと思ってた。それでもいいと思ってた。」

「兄さん!!」

ルートヴィッヒが首を振る。



「俺は消えなかった自分に驚いたけどよ、そういうものだろうとしか思わなかった。
うちは、いろんな「国」がひしめいてたからな。国じゃなくなっても消えない奴らなんてごまんといる。
俺もそのうちの一人なんだろうってな。」

ルートヴィッヒの体に震えが止まらない。

(止めなくては・・・・・兄さんの言っていることを・・・・。
 俺は・・・聞いてはいけない・・・・!)




「お前がいろいろと努力してくれてるのは知ってる。みんながやってくれていることもな。
でもよお・・・・。」



つ、とギルベルトが視線をはずした。

ルートヴィッヒは呼吸を忘れた。


「先日、バッセンハイムが死んだ。」

バッセンハイム司教は現在のドイツ騎士団の中で、ギルベルトを「騎士団の具現」として認めるように、働きかけてくれていたひとりだ。

「俺は葬式に呼ばれなかった・・・。呼ばれても行けなかったけどな・・・・。
どれだけあいつが俺のために努力してくれたか、知ってたのにな・・・・。」

「俺は・・・・・恩知らずだな・・・・・。」



ルートヴィッヒは、次に兄が何を言い出すのか・・・それが怖くて何も言えない・・。


「もうすぐ・・・・今いるバッセンハイムの友人が亡くなれば、俺を認めるものは、騎士団からいなくなる。」

「それをよ・・・・・。ヴェスト・・・・。」


「俺の最後にしようと思うんだ。」




 真顔の兄。

ルートヴィッヒの体を衝撃が駆け巡る。

(いま・・・・にいさんは・・・なんと言った・・・?)



理解して言葉が出るまで、気が遠くなるような時間が過ぎた。

獣のような声がでた。


「・・・・・・・・いや・・・・・・だ・・・・・・・・
   
いやだ!いやだ!・・・兄さんっ・・・・・・!!!」



「うろたえるんじゃねええっ!!」




ルートヴィッヒの絶叫をギルベルトの怒号が打ち消す。





「俺はいつでも消える覚悟はしている。お前もわかってるだろ!!」



「いやだ・・・・・。わから・・・ない・・・・。そんな・・・・。
そんなこと・・・・・わかりたくない!!」



ルートヴィッヒの目からは涙があふれ出して、目の前が何も見えない。