【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2
ルートヴィッヒが起き上がってギルベルトに向かって突進してくる。
横に飛んで受け流す。
「にいさん・・!!」
泣きながら、向かってくる弟。
もうどうにでもなれ、とギルベルトはルートヴィッヒの好きにまかせた。
抱きついてきたルートヴィッヒの重量に耐えかねて、どうっと地面に二人共倒れる。
「にいさん・・・!にいさん!!にいさん!!」
泣きじゃくるルートヴィッヒ。
体の上で震えながら泣く弟・・・・。
(ああ・・・・昔・・・・こんな事があったな・・・・。
こいつが・・こんなにでかい図体してなかったころだけど・・・・・。)
川の向こうにそびえる懐かしい城。
(帰ってきたぜ。俺の城。あの頃のみんな・・・・・・。俺を迎えに・・・来てくれる・・・・か?)
恨んでいてもいい。
憎まれて当然だろう。
(それでも俺は新しい国になることを選んだんだ。
お前達は、俺にとって、最初で最後の仲間だったんだ・・・・。
「国」になる頃よりも、騎士団でいた時は、仲間との距離が「国」と「国民」よりもずっと近かった。)
「仲間」の騎士団員たちは、自分にとって、血を分けた兄弟のようだった。
いつも一緒にいて、不思議なほど、ギルベルトの気持ちをわかってくれていた。
(そのみんなを裏切って、俺は生きてきた。
ああ、みんな・・・・・・・。
俺を恨んでいるだろうみんな・・・・・・。
迎えにきてくれなくてもいい。
俺はもうすぐ、そっちへ逝く。
俺への恨みごとをそっちで聞くよ・・・・・・・。
ちゃんと、真面目に全部聞くから・・・・・。
だからお願いだ・・・・・・・。
俺の最後に・・・・・・・・・もう少しだけ・・・・待ってくれ・・・・。
残していきたいものがあるんだ・・・・・。
お前達と過ごした城・・・・・・。
あそこを、きちんとお前達といたころみてえに・・・・・。
見せてやりたい・・・・・。
俺の弟に。
誰よりも大切な弟によ。
お前の兄が、精いっぱい生きていたころの証として・・・。
こいつに覚えてて欲しいんだ・・・・・。
ほんとに・・・もう少しだけでいいからよ・・・・・!)
ギルベルトはルートヴィッヒを抱いたまま、ずっと城を見つめていた。
駆け足の音が近づいてくる。
「何やってるんですか?!ギルベルト君!ドイツさんまで!!一体・・・!!」
トーリスの声がする。
「よお。」
ギルベルトはルートヴィッヒを抱いたまま地面に転がって答える。
「来たぜ。俺様。」
トーリスの姿は、騎士時代と重なって見えた。
甲冑にみを包み、この城に自分達騎士団を追い詰めた、あの姿に。
(あれは・・・・・秋だったな・・・・・・・。
穏やかに晴れて、戦ってさえいなけりゃ、良い秋の日だった・・・・・。
晴れやかな陽の中を、逃げのびてきた・・・・・・・・。
城のそばに来た時は、もう夜になってたな・・・・。
夜陰にまぎれて、この城まで逃げてきた・・・・・・。)
トーリスを見ながら思う。
(こいつは見事な戦いぶりだった・・・・・。冷静で・・・・いっつも判断を間違えない・・・。
こいつが味方だったらどんな戦局になったんだろうな?あの時・・・・。)
「なんで・・・・なんで・・・・二人で・・・。」
トーリスが、二人の姿を見て絶句する。
ルートヴィッヒは泣きやまない。
トーリスが来たのも気づかずに、ギルベルトに抱きついて泣いている。
「あの・・・・・。そのお・・・・・。」
トーリスは、なんと言っていいのか分からずに、口ごもる。
ギルベルトは、トーリスの困った顔を見て、笑った。
「悪いな、トーリス。ちょっとした兄弟喧嘩だ。」
「兄弟けんか・・・って・・・。」
どう見ても、そんな簡単な雰囲気ではない。
「リトォ・・・・あれ・・・!!」
後ろからやってきたフェリクスも、号泣しているルートヴィッヒを見て茫然とする。
「い、いったい何が・・・・。」
ふと気付けば、周りには人が大勢集まって、こちらを見ている。
誰かが警察を、と叫んでいた。
「わりいな、しばらくほっといてもらえるか。後から行くからよ。」
「ええ、それはいいんですけど・・・・。」
城にいたトーリスたちに、知らせが入った。
でかい男二人が川沿いで取っ組み合いをしていると言われ、しかもそれがドイツ・・・国家殿と元プロイセン殿だという・・。
まさかと思いつつ、川まで来て見れば・・・・。
殴り合いどころが、あのドイツが声をあげて泣いている・・・・。
一体二人の間になにが起きたのか・・・・・・。
あたりはますます、人が集まってきて、騒然としている。
警察を呼ばれないうちに、二人をここから移動させたほうがいい。
「とにかく、ここから動けますか?あ、そうだ。この道沿いに俺たちが泊ってるホテルがありますから、そこへ行きましょう。」
「俺んちのお茶、入れてやるしー!と、とにかく落ち着け!!」
珍しくフェリクスが気遅れせずに話す。
泣いているドイツを見て、びっくりしたのだろう。
「そうだな。ほら、行くぜ。ヴェスト!」
ギルベルトは、答えずに泣き続ける弟を、ひょいと抱き起こすと立ち上がらせる。
服についた草を払ってやる。
涙を流しながら、ルートヴィッヒは、ギルベルトに抱きついたままだ。
歩きながらもルートヴィッヒはギルベルトを離さずにいる。
(よっぽどショックを受けたんだろうな・・・。俺たちがいることも気づいてないみたいだ・・・・・。)
「リト、リト・・!」
フェリクスがトーリスをつつく。
「なんだい?ポー。」
「あのさ・・・・。城のことだけど・・・。少し、待っててやるし。」
「ああ・・・・そうだね・・・俺も思ってた・・・・。今・・・・あの城に行ったら・・・・二人ともどうにかなっちゃいそうだしね・・・。」
どうにかホテルに着いた。
すぐに二人を部屋につれて行く。
「今すぐにお茶をいれますから・・・。」
「すまねえな。トーリス。フェリクス。」
「いいえ・・・・。」
「気にしないし!まずは俺んちにようこそ!あったかいお茶飲んで落ち着くし!」
トーリスは笑ってしまう。
いつも傍若無人なフェリクスが、めいいっぱい気を使っている。
ようやく体に抱きつくのはやめたルートヴィッヒをソファに座らす。
それでも、ルートヴィッヒは、ギルベルトの手は離さない。
こんなに泣いているドイツをみるのは初めてだ・・・・・。
いや、泣いているのを見たことすら今までなかった。
どんなショックを受けたのだろう・・・・・・。
ドイツのそんな姿に比べて、ギルベルトは平然としている。
もともと、ギルベルトの内心は非常にわかりにくいのだが・・・・・。
泣きやまない弟に声をかけて、背中をたたいてなぐさめの言葉をかけている。
それはドイツには届いていないようだったが。
作品名:【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2 作家名:まこ