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【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2

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フェリクスがいい香りのお茶を運んできた。






「まず、飲むし!」

「ああ、ありがとう。いただくぜ。」




ギルベルトは弟につかまれてないほうの手でカップを持つ。





「ルートヴィッヒ・・・飲めよ・・・・。」


ギルベルトは優しく弟に言う。

ルートヴィッヒは動かない。




「しかたねえなあ。」

ギルベルトは苦笑しながらカップを弟の口に近付けてやる。

放心状態のルートヴィッヒは、それが何かもわかっていないだろうが、お茶を飲んでいる。


心はどこかへ行ってしまったようだ。



暗い、暗闇の中、奈落の奥へと意識が飛んでしまっていた。


心に受けたショックは、ルートヴィッヒを心の奥底へと引きずりこんでいた。



受け止められない衝撃は、ルートヴィッヒの体と心の機能を奪っていた。


意識の奥底の中でルートヴィッヒは漂う。



しかし、現実の世界で、ルートヴィッヒの涙は止まっていなかった。

ルートヴィッヒは夢を見ていた。

自分が幼いころの・・・・。




*********************************








幼いころ、闇が怖かった。


一人で寝かされた大きなベッドの上で、明りの消された暗い部屋で、ずっとずっと震えていた。
窓の外には月もなく、真っ暗な空に、黒い雲が動いていた。

お前は「国」になるのだからと、それまで寝ていた、兄さんと一緒のベッドから連れていかれた。
冷たいシーツは誰の体温も感じなくて、さみしさに泣きそうになった。

声をあげそうになった時、ふと、歌が聞こえた。
小さな声で、繰り返し、繰り返し。

どこで歌っているのか、低く優しく、何度も繰り返されるその歌が、俺を眠りにつかせてくれた。

ああ、兄さん・・・・・。

あれはあなたが歌っていたのか?

懐かしいあの子守唄を、今、俺は聞きたいんだ・・・・・・。










*********************************



泣きつかれたルートヴィッヒはまるでここに意識がないようだった。

放心状態で、自分がどこにいるのかすらよくわかっていないようだ。

フェリクスとトーリスは、お茶を淹れてくれたあと、まず休めと言って、部屋から出て行った。

(ソヴィエト時代もそうだったが、あいつらは良い奴だ。)

ギルベルトはしみじみと思う。

(今回、仕事で来たっていうのに、いきなり兄弟けんかだしな・・・。)

ドイツ騎士団時代にさんざん戦った相手だが、共産圏というかさの中で一緒に過ごしてみれば、フェリクスとトーリスは、いつでも助けてくれる力強い仲間だった。

何も聞かずに、休めと言ってくれる二人の優しさ。


「ありがたいよな・・。・・・・なあ・・・・ヴェスト・・・・。」


部屋のベッドの上に座り込んで、泣きはらした目をして茫然としている弟の姿は痛ましかった。
ギルベルトはため息をつく。


「ごめんな・・・ヴェスト・・・・・。いきなり・・・。驚くよな・・・・・。
こんな事・・・突然、言うことじゃないよな・・・・。」

お湯で濡らしたタオルでルートヴィッヒの顔を拭いてやる。
ルートヴィッヒはされるがままになっている。

「俺はな・・・焦ってたんだ・・・。このままお前に、何も言わずに逝っちまうんじゃねえかってな。」

「今の俺は、昨日やった事を思い出せねえんだよ・・・・。今日お前に言ったことだって、きっと明日には忘れちまう・・・・・・・。」

ルートヴィッヒはぼんやりとギルベルトを見上げる。

「それに・・・卑怯だけどよ・・・・誰かががいれば・・・・「国」である誰かのところで

言えば、お前と俺がこうなるのを止めてくれるんじゃないかってよ・・・・。俺も甘えてるよな・・なまったもんだ・・・情けねえ。」

「ごめんな・・・・。俺の一方的な思いだけ言ったって、お前には迷惑だよな・・・。」


ルートヴィッヒが、ギルベルトに両手を差し伸べる。

「なんだよ。まるで子供みたいだな・・・。」

それでもギルベルトはルートヴィッヒの前に膝をつくと、弟を両腕で抱きしめてやる。

「もっと・・前から・・・・。お前と話しあっていればよかったな・・。」

ルートヴィッヒはギルベルトの肩に頭をのせる。

「可愛いヴェスト・・・・・・昔から・・・・お前は聞きわけのいい子だった・・・・。
たまにとんでもなく頑固にはなるけどな。俺もそうだが、ゲルマンの男はみんなそうだな・・・・こうと決めたら、絶対にゆずらねえ。」

ギルベルトは、ルートヴィッヒの頭をそっとなでる。

「俺はまだ・・・お前に必要なのか・・・・?俺がいることはお前にとって本当にいいことなのか・・・?」

無反応の弟に、ギルベルトはため息をつく。

「お前いつも、「だいたい一人で何でも出来る」って、自分で言ってるじゃねえか・・・・・。
俺には、何もしなくていいぞって・・・・。」

「いままでな・・・・俺は何度も「国」が消えるのを見てきた・・・・・。
納得して消えた奴・・・・。無念の思いを残していった奴・・・。
なあ・・・・俺は、安心して全部お前にまかせていける・・・・。
なんも未練はねえんだ・・・・・。」

「・・・・・に・・・・い・さん・・・・。」

ルートヴィッヒがようやく反応した。

「なんだ?ヴェスト・・・。」

「・・にい・・・さん・・・・・・・・・・って・・・・・。」

ルートヴィッヒが何かつぶやく。

「え?・・・なんだ・・・・?なんて言った?」

「・・・・・って・・・。うたって・・・・・・。」

「うたう・・?」

「・・・・・きき・・・たい・・・。」

「何を歌えばいいんだ?ヴェスト?」

きゅっとしがみつく弟。

ルートヴィッヒの意識はどうやら、子供に戻ってしまっているようだ。

「俺は、お前に無理させて、図体だけは大きくしちまったのかな・・・・。
たまにお前はすごく甘えたがりになるよな・・・・。」

「うた・・・。」

「歌か・・・・・。俺の歌がひどいの、知ってんだろうに・・・。」

「・・うたって・・。」

「ああ。わかった・・・・・。」

ルートヴィッヒの隣に腰かけると、ギルベルトは低い声で歌いだした。





Weisst du ,wieviel Stemlein    (星がいくつあるか、知っている?)

Stehen an dem blauen Himmels zelt ? (蒼い空の上に)










ルートヴィッヒは、深い意識の底を漂っていた。

「国」である意識と、「人」としての自分の意識がかみ合わない時、彼ら「国」は
眠りについて、自分を守ろうとする。
自己防衛のための眠りだが、ルートヴィッヒの意識は眠らなかった。
なにか気になる事があって、眠らない。
それを見届けるまで、寝てはいけない。

無意識に兄に手を差し伸べた。
まるで幼児に戻ったかのようなルートヴィッヒ。
今は本能だけで動いていた。

歌声が聞こえる。

もうろうとする意識の奥底で、ルートヴィッヒは、思い出した。

(小さいころによく兄さんが歌ってくれた子守唄・・・・・・。