【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2
いつも寝る前に聞いていたな・・・頭が重くてはっきりしない・・・。何があったんだ?
ああ・・・・・・胸が苦しい・・・・・・。)
深い水底をただよっているような感覚。
聞こえるのは、兄の歌う子守唄だけ。
ルートヴィッヒはまた意識の底に沈みこんだ。
Gott im Himmel hat an allen (神はあなたのすべてを喜び、
seine Lust , sein Wohlgefallen , あなたは神の宝 )
Kennt auch dich und hat dich lieb. (神はあなたを知っていて、
Kennt auch dich und hat dich lieb. あなたを愛している)
ギルベルトは歌い続けた。
ギルベルト達の部屋の前で、トーリスは迷っていた。
食事をいつ部屋に運ぶか聞きに行きたいのだが、部屋からは静かにギルベルトの歌が響いてくる。とても中には入って行けなかった。
兄弟の間で何があったのかは知らないが、先ほど、スペインとフランスからトーリスに電話が入ったのだった。
彼、ギルベルトの様子がおかしいこと。昨日までの記憶がまるでないような態度や、その体がたまに空に透けているように希薄に見えることなど。
それは、「国」の具現である「人」の形を失う時に現れる現象ではないのか?
これまで、何ともなかったギルベルトの体にいったい何がおきているのか。
スペインとフランスは、なにか画策しているようだ。
トーリスに兄弟二人をよく見ていてほしいと言って、電話は切れた。
そもそも、「プロイセン」が消滅しているのに、何故ギルベルトは存在しているのだろう?
「東ドイツ」すら、もはや無くなって久しい。しかし、不思議なほど、ギルベルトは平気だった。それがいま突然、何故?
たぶん、ルートヴィッヒの号泣はそれに関してなのだろう。
土地に由来する「国」であるトーリスにも、フェリクスにも、またルートヴィッヒにとっても、土地もなく民もないギルベルトの存在の「核」は何なのかわからない。
それでも、彼は消えなかったのだ。
きっと今も、彼の消えない理由があるにちがいない。
ふと、歌が止んだ。
部屋の前でうろついていたトーリスは覚悟を決めた。
コンコンとドアをノックする。
「開いてるぜ。」
静かな声がした。
思いきって、トーリスはドアを開ける。
ベッドの上では、ルートヴィッヒが丸まって眠っている。
その手は兄の手を握っている。
ギルベルトはベッドに腰掛けて、弟に毛布をかけてやっていた。
「ギルベルト君・・・・ドイツさん・・・眠ったんですね・・。」
「ああ・・・やっとな・・・。」
愛おしそうに弟の髪をなで、ギルベルトはトーリスに向き直る。
「すまなかったな。迷惑かけて。城の件だが、俺は何をすりゃいい?」
「今は・・・ドイツさんが落ち着いてからでも・・・。」
「大丈夫だ。こいつは。しばらく眠ったら、もとに戻るさ。」
「ギルベルト君・・・・。」
「そんな顔すんなよ。もう、だいたいわかってんだろうが・・・・。
トーリス。俺は、もうすぐ、消えるだろう。」
「な、なにを言ってるんですか!!」
「まあ、いままで消えなかったのがおかしかったんだ。消えねえ理由が俺にもわかんねえんだからなあ・・・・・。今になって、なんで消えんのかもわからねえしよ。」
「ギルベルト君・・・・。」
「今俺に出来ることを言ってくれ。やれるだけ、やっていきたい。」
「ドイツさんは、そのことでショックを受けたんですね・・・。」
「ああ・・。もっとちゃんと話しておけばよかったんだが・・・俺もまさかこんなに突然、来るもんだとは思わなかったからな。・・・・・・こいつもいま、やっと眠ったから、混乱が解消されれば目を覚ますだろう。」
(「混乱」じゃなくて、「ショック」だろうに・・・。)とトーリスは思った。
この兄弟は相手に対して深い愛情があるのに、お互いに要求することはいつも過酷だ。
「大戦の後も、統一の後も、俺もこいつも、一度、こういう状態になって眠り続けた。」
「ええ・・・ポーも分割された時、眠って「混乱」を防いでましたよ。何度もあったけど・・・眠ってる間に、「人」の間で問題が認識されて、「人々」が現実に向かいあったときに目が覚める。でもドイツさんの「混乱」はそんなんじゃ解消されない。」
「・・何が言いたいんだ?トーリス。」
「・・・・・あなたが消えるって聞いて、ドイツさんが平気なわけないでしょう!!しかも、それを本人の口から急に言われたら!!」
「じゃあ、消えるってこいつに言わねえで、いきなり消えんのかよ!」
「そうじゃありません!!どうして、急に記憶が飛んだり、意識がなくなって存在が希薄になっているのか、「あなたは」原因を究明しないんですかって言ってるんです!!
消える、消えるって言われて、弟さんが悲しくないわけないでしょう!!」
「それを誰から聞いた?なんでお前が知ってる?消えるのは、俺が悪いってんのかよ!!」
「ええ!悪いですよ!!消えることになった原因も調べないで、それにあらがうこともしないでどうするんですかっ!あなたは本来、もっとずぶとい人でしょうが!」
「ひでえこと言うな。俺様の繊細な小鳥のような心にこたえるぜ。」
「ずっと考えてたのでしょう?フランスさんやスペインさんのところへ行って。
彼らと自分がどうしてこんなにも違うのか。なんで自分は今もいるのかって。」
「あいつらがお前に言ったのか!」
「ええ!みんな心配してるんです!!」
「わかってるさ!そんなことは!!」
「わかってるのに、あなたのその態度はなんです!!悲劇のヒーローにでもなったつもりですか!!」
「なんだと!!お前に何がわかるってんだ!!」
「わからないですよ!!そんな自分勝手な人なんて!
あなたの事は、正直、どういう存在なのかさっぱりわからない!
昔からそうでしたよ!
「国」として生きているのに、国土もない。民もいない。
かといって、「名」を失っても平気でいる!
なら、自分でそれが、どうしてなのか解明すればいいじゃないですか!
もっとあがいてみたらいいじゃないですか!!消えて、みんなを哀しませるくらいなら、自己憐憫にひたって弟さんを泣かせているくらいなら、何かやればいいんです!!」
「ちきしょう!!言いたい放題いいやがって!!俺がなんにもしねーで、なんにも考えてないとでも思ってんのかよ!!」
「ええ、思ってますよ!!統一してから、弟さんに全部やらせて自分はぐうたらしてただけでしょうが!!せめて、弟さんの負担にならないようにって何もしないのが間違ってるんですよ!!」
「俺に、こいつの仕事に口だせっていうのか?!「プロイセン」のせいで、どれだけあいつに迷惑かけたと思ってんだ!」
作品名:【ヘタリア】兄さんが消えない理由 マリエンブルク城篇2-2 作家名:まこ