微妙な告白
世界の果てで二人きり
自分が何を望んでいるのか気づいたときには愕然とした。
僕は彼を欲しいと思っているのだ。
人間という種を愛していると言うあの男に、君だけだと言わせたいのだ。
君が好きだと、君だけを愛していると。
それはなんて困難な願いだろう。世界中で誰かのたったひとりになるということ。
彼の最愛の人間になること。
「でもいくら貴方にとって唯一の存在になりたいからって、世界中の人間を貴方の視界から消す訳にはいきませんからね。それよりも貴方ひとりを他の誰にも会わないよう閉じ込める方がよっぽど簡単です」
そう淡々と告げる帝人の表情があまりに静かだったので、臨也は思わず口笛のひとつも吹いてやりたくなった。現在手足を縛られて転がされている身にとって、自由に動かせるものは口か目しかないということもある。臨也は全く自分らしくない、と思いながら己のおかれている状況を信じ難いと感じていた。目が覚めたら帝人の部屋で拘束されているなどというはめになるとは。こめかみに走る疼痛は、何か薬品を使われたためか。どうも意識を失う直前の記憶が曖昧だ。
そしてそれ以上に信じ難いのは、まるで何事も起こっていないかのようにしらっとした帝人の態度だ。確かに針が振り切れると何をするか分からない面を持つ子供だと知ってはいたが、いざ自分の身に冴え冴えとした視線を投げ掛けられると背筋が粟立つ。この次の瞬間に何が起こるか予想できない。
だけど、と臨也は思う。帝人君は確かに今俺を求めているという趣旨のことを言った、と。ころされることはあるまいと思う。最悪の場合でも殺されはしないだろう、そんな風にでも手に入れたいというのであれば、そうするチャンスはあったのに、臨也はまだ生きているのだから。
そう判断して、帝人に微笑みかける。
「君がそんな風に思ってたなんて知らなかったなあ。ひと一人監禁しておいてその落ち着きぶりといい、いつのまにそんなに腹くくっちゃったのかな」
「嘘吐き」
余裕があると見せたくてかけた言葉は、一刀両断の鋭さで切り返される。
「貴方は知ってたでしょう。僕が貴方をどんな目で見ていたか。僕がどれだけ貴方の一挙手一投足に気持ちをかき乱されていたか。正直もう一人で踊っているのには疲れたんです。貴方の気まぐれに振り回されるのも」
それはそうだ。確かに臨也は知っていた。ある時から帝人の己に対する態度が微妙に変わったこと。向けられる視線に含まれた温度。自分自身の感情に戸惑う少年のことを、臨也は全てわかっていた。ずっとそのままではいないだろうとも感じていた。いずれなんらかの形でアクションを起こさずにはいられないだろうと思っていた。さすがに今日このときにこんな突飛な行動に出ることまでは予測できなかったが。
「我侭だね、帝人君。俺を愛してるくせに俺の意思は無視するわけ? 俺の身体が君の手元にあれば、それでいいの? 俺からの気持ちはいらないんだ」
「ええ、いりません。貴方がここにいてくれさえすれば、それで」
そう疲れたように呟きながら臨也の首に腕を絡めてくる帝人。その様子には、どこか今まで彼に見つけたことのない色香が漂っていた。何もいらないと言いつつも縋るかのように抱きついてくる少年の細さや、眼前に迫った首の白さに、場違いとも思える興奮が生まれる。
こんな状況で欲情できるなんて自分も大概いかれている。あらためてそう認識せざるを得ない。