銀沖ログ詰め合わせ
空が、広がっている。―――訳では無いけれど。
それでも高い建造物の一角、隙間を縫うように青空が広がっている。
銀時はそれを見るとも無しに眺めた。
少しばかり冷たい風が、まるで軌跡の様に紫煙を棚引かせる様を目の端で追い駆けて、それからついでの様にがじりとフィルターを噛んだ。
「あ、勿体無い」
後方から聞こえた声に、驚きつつもゆっくりと振り返る。
「沖田君か。吃驚した。気配全然無かったよ」
「そりゃ副長が考えに耽って周囲に気を配るのを忘れてた所為でしょ。俺の所為じゃありやせん」
「気配を消してたって事は否定しないんだね」
呆れてそう返すと、目の前の少年は悪びれた風もなくただ肩を竦めただけだった。
相変わらずの態度に、思わず苦笑が漏れる。
「座っても?」
「どうぞ」
煙が来ない様、わざわざ風上の方を空けてやったというのに、この少年はそれを良しとしなかったらしい。
どかりと座った場所は思い切り煙の流れる、風下の方向だった。
「…沖田君?」
眉間に深い皺を寄せてまで、座るものでもなかろうに。
そう思い座り直すよう声を掛けるも、返って来た応えは容赦が無かった。
「煙草、」
「え?」
「煙草。吸うんですかィ?」
「ああ、うん。まあね。滅多に吸わないけど、貰った時とかはね。勿体無いし。まァ、嗜む程度には、な」
その答えは少年の不機嫌をより一層煽ったらしい。
彼は追及の手を緩めない。
「それ、土方さんに?」
これには流石と云うべきか。
長年の付き合いがあるだけに、矢張り簡単に見抜けられてしまった。
「うん、貰った。珍しい事もあるもんだよね。明日は槍が降るかもよ?」
冗談めかしに返した言葉に、だったらそれに当たって死ねば良いのに、と何とも物騒な声が聞こえてくる。
次いで、また、小さな応え。
「アンタから土方臭がすんのは心底我慢ならねェ。だから俺も一緒にそのクソッタレな土方臭に覆われます。お揃いですぜ。これでちったァ、気分も良くなるって話でしょ」
あんまりといえばあんまりな発言だ。
けれどもそれが彼なりの気遣いだと、知っている。そしてその中に、僅かな嫉妬が込められている事も。
だから銀時は応えを返す代わりに、その小さな頭を唯黙って引き寄せた。