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春の目覚め ・2

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 こちらも理解不能だという顔で問いかけるのはアメリカだった。
「後で、始末に誰か寄越す」
 ただ、簡潔にそれだけを言った。



 それ程までに大きな造りの館ではないので、最奥の部屋にはすぐに辿り着いた。
 その部屋で警護中であった二人の軍人が、やはり愕然とした顔でプロイセンを見つめていた。
「やはり、この作戦は、間違っていたのか…」
 そう呟く男の隣で、無言のまま自決を図ったもう一人の男が倒れ込む。
「プロイセン様、祖国様はこの下におられます」
 自決した仲間の姿を見ることもなく、男はプロイセンにそう伝える。
「扉の鍵はこちらに。ただ、拘束具の鍵は、私たちにも渡されてないままです。おそらく、元帥がお持ちかと」
 無言でプロイセンは鍵を受け取った。
 男は、静かに壁際へ後退する。
「私の忠誠は本物だった…。ドイツ軍人に反逆はあり得ない。命令に従うのが軍人の勤めだ…。それが、どうして、間違いとなってしまったのか…。なぜ、命令に従ったことが間違いとなってしまったのか…」
 男は、感情の籠もらない声で言葉を発し続けていた。
 その発言にアメリカが反論をしようと振り返った時、男は無表情のまま、銃口を自分の米神に押し当てていた。今までの者たちと同じように。
 イタリアが悲痛な声を上げる。アメリカが「止めろ」と叫んでいた。
 プロイセンもイギリスも、フランスも動かない。動けないのではなく、動かなかった。
「祖国よ…。我が祖国よ」
 銃声が、鳴り響いた。

 倒れた軍人たちを見つめながら、プロイセンは苛々と髪を掻き上げる。
「どいつもこいつも、忠誠、忠誠…! 俺の時代の風習が、ここに来て足を引っ張るのか…」
 忠誠宣誓、軍旗の誓い、そう呼ばれるものが、軍人たちの判断を迷わせ、鈍らせていたように思えてならなかった。
 プロイセン王国時代から続く国家に忠誠を誓う儀式を上手く利用し、忠誠の対象を国家ではなく総統自身にすり替えてしまった上司の政策は、見事なまでに軍人たちを縛り付けていたのだ。
「プロイセン?」
 怯えながらも気遣わしげに問いかけるイタリアの顔を見ることも出来ずに、プロイセンは南側の壁へと足を向けた。
 見た目、巨大な書架に見えるそれを豪快に引き倒す。派手な音を立てて床に叩きつけられた書架は半壊していた。
「ひぎゃ!」
 悲鳴を上げてイタリアはフランスに飛びついていた。
「こういうものは、静かに横に引けば開くだろうが…」
 いちいち破壊活動をしてくれるプロイセンを呆れ顔で睨みながら、イギリスがぼやく。
 うるせぇと呟き返し、プロイセンは書架の後ろに隠されていた壁のへこみに鍵を持った手を差し入れる。
 しばらくガチャガチャとやっていたが、ようやくカチリと鍵が開く音がした。ドアの取っ手と思もわれる部分を内側に向かって押せば、壁が扉のようにギシギシと音を立てながら開いて行った。

 扉を潜ればすぐに階下へ下りる階段が出現する。
 その階段をプロイセンは駆け下りた。
「ヴェスト!!」
 階段を下りて直角に右へと曲がる。突き当たりに重厚な扉。ここだと分かった。
 今更、手段など選ばずというやつで、プロイセンはショットガンを取 り出すと扉に向かってぶっ放した。
 追い付いてきたアメリカとイギリスが狭い地下に反響する銃撃音に顔を顰めて耳を塞いでいた。
 扉を蹴倒し、中へと入る。薄暗い内部。広さもかなりありそうだ。
 アメリカが部屋の外で何かをいじっていると思えば、壁沿いに仄かな明かりが幾つか灯った。
 仄かな光の中に浮かび上がるのは、壁に括り付けられたドイツの姿。
「ヴェスト!! 無事か!? おい、ヴェスト!」
 かなり抵抗もしたのだろう、何度も銃弾を撃ち込まれたらしい痕、赤黒く汚れた軍服。床を汚す、流血の痕。なかなかに凄惨な現場と化していた。
「ヴェスト! 返事しろ!」
 意識を手放してしまっているドイツからは反応はない。
 枷と鎖を外そうとするが、恐ろしいまでに堅い。頑強過ぎる。ドイツの力で破壊されないように随分と前から用意し作られていたのだろうか。
「技術の無駄使いしてんじゃねぇってんだよ…!」
 舌打ちをしながらも、必死に枷を破壊しようと試みるが、どうにもならなかった。
「国相手にここまでするかね…」
 イギリスの言葉が、忌々しく響いた。
「うっわ…」
「ドイツ…」
 フランスとイタリアが扉の手前で固まったまま、動けないでいた。その二人を押し退けてアメリカが室内へと入って来る。
「俺にさせてくれよ。こういう時こそヒーローの出番なんだぞ」
「何がヒーロー…」
 イギリスが小言を言い掛けたところで言葉を切る。
 ドイツにも引き千切れなかっただろう、プロイセンさえ苦戦している枷と鎖にアメリカが手をかけた。
「ぐぬぅぅぅ!!!」
 妙な気合いの声と共にその両の腕に力が込められ、そして、ブチンっとあまりにもあっさりと枷は壊され、鎖は引き千切られていた。そのまま残りの枷も引き千切っていく。
「…アメリカ、お前…」
 イギリスが驚きよりも呆れたという声を出す。
「………」
 これが、今現在の国力の差というやつなのか。そんなことを思いながら、プロイセンはアメリカを眺めやった。
「二人とも何やってんだい! 手を貸してくれよ。ドイツ、重いんだぞ!」
 枷と鎖を外してやったドイツが倒れ込んできた為に、アメリカが咄嗟に支えてくれていたようだ。
 ぎゃあぎゃあ喚くアメリカから、プロイセンはドイツを受け取った。
「ヴェスト! ヴェスト、返事しろ! ヴェスト!」
 座り込んだ状態で後ろから抱き抱えるようにして呼び掛け続ける。
「ドイツ…! ねぇ、ドイツってば!」
 イタリアが這うようにして近付いてきた。泣き出しそうな声でドイツの名を呼ぶ。
 ドイツの指先がぴくりと動き、それから、ゆっくりと瞼が開いた。
「イタリ…ア…?」
 掠れた声で焦点の定まらない眼差しでイタリアの存在を確認する。
「ドイツー!」
 飛び付くイタリアを受け止めることも出来ないまま、ドイツは尚も視線を彷徨わせるとプロイセンを探した。
「ヴェスト、ここだ」
 静かにバサバサになってしまった髪を撫でてやると、ドイツの視線がそれを追うように見つめてきた。
「兄さん…。すまない、とんだ失態だ…」
「ああ、後で説教してやっから覚悟しとけよ」
「ははは…。説教、か…」
 それだけを言うと、ドイツは再び瞼を閉じた。
「ドイツ!? ねぇ、ドイツ! ヤだよ、ドイツってば!」
 ドイツに縋り付いて叫ぶイタリアの肩にプロイセンは優しく手を乗せる。
「イタリアちゃん、ヴェストをここから出すから、手ぇ貸してくれ」
「…え? あ、ああ。うん」
 俺が背負っていくというプロイセンの背に、何とかドイツの重い体躯を乗せようと奮闘した。もちろん、アメリカやフランスの手出しがあって出来たことだが。
 体温の下がった冷たい弟の体を背中で感じながら、プロイセンは地上へ向けて歩いていく。

 司令部に戻れば、ドイツの保護と現状を無線で流してやろうか、そんなことを考えた。

 ドイツの意識は戻らないままだった。




「ケーニヒスベルクは落ちた…。ウィーンもロシアに占拠されたか…」
作品名:春の目覚め ・2 作家名:氷崎冬花