【東方】東方遊神記13
「っ!!」
さすがの椛もこれには過剰に体が反応した。よく見ると、ほんの少し体が震えている。「この前の間欠泉騒ぎのこともあるし。これはあたしらにとってかなり大事なことなんだ。だから、信頼できるお前に頼みたい。引き受けてはくれないか?」
御影には絶対に椛にやらせるようなことを言っておいて、本人にはあくまでお願いの形をとっている。ここらへんが神奈子の喰えないところだ。
「・・・先程、にとりと会った時に、彼女から聞きました。天魔様から大変な仕事を任されたって。それは、この御山と地底が盟友関係になるべく、橋渡しになれと。今神奈子様が仰ったことは、それと関係があるのですか?」
「ああ、その話はあたしらも聞いたけど、今の話とは全く関係ないよ。・・・それにしても、にとりもお前と同様、御影にかなり評価されているね」
「いっ!いえっ!そんな、恐れ多い・・・」
そういえば、謙遜、謙虚は日本の美徳だって、昔誰かが言っていたね・・・おっと、集中集中。
「まぁ今はその話は置いといて、どうだい?引き受けてくれるかい?」
そう言う神奈子の顔は椛が引き受けることを全く疑っていない顔だった。
「・・・わかりました。申し出、お引き受けいたします」
実際問題として、地上妖怪が自分から地底に行くことなど万に一つあるかないかである。その「あるか」の部分が研究のために旧灼熱地獄跡地に赴くにとりのことだが。この椛の決断は、他の妖怪からしてみれば、狂気の沙汰としか思えない。・・・幻想郷の地底事情を知れば、なんでそんな怖がるの?と思うことは間違いないが。つまり、神奈子も実情を知っているからこそ椛に頼むのである。勿論それ以外の意味合いも含ませてはいるが。
「お前なら引き受けてくれると思っていたよ。大丈夫。文とかから聞いているかもしれないけど、この幻想郷の地底は昔から言い伝えられてるほど恐ろしいところじゃないよ。ていうか、地上とあまり変わらないって感じるんじゃないかね?」
「はい。にとりから少しですけど話は聞いています」
「そうかい。まぁいずれにせよ、宜しく頼むよ。・・・これが、さっき言った手紙だ」
そう言って神奈子はどこからともなく最後に残っていた分厚い手紙を取り出し、椛に渡した。
「確かに、お預かりしました」
椛はそれを両手でしっかりと受け取り、大事そうに胸に抱えた。
「頼んだよ。文にも同じ仕事を任せているんだけど、無事に仕事をやってくれたら、椛にも『完璧御膳』を御馳走するよ」
「えっ!?本当ですかっ!?」
先程まで神妙な顔つきをしていた椛のテンションが一気に急上昇した。恐るべきは『完璧御膳』の威力。神奈子と椛のやり取りを少し後ろで聞いていた諏訪子と早苗は、二人の会話には口出ししなかった。
「うわぁ・・・神奈子のやつ、こっちの苦労なんて全くお構いなしだよねぇ~」
「でも、作り応えのある料理を作るのは楽しいですよ」
「早苗の料理は美味しいもんね~。僕も何回ほっぺたを落としたことか」
「ふふ、ありがとうございます」
筆者の個人的な意見としては、料理を作るのが楽しいと思える女性は、良き妻になる第一条件を満たしていると思う。
「じゃあ宜しく頼んだよ。返事は口頭でも良いから、明日の夜九時位までに家に知らせに来てくれ」
「了解しました!ではここらへんで失礼します。御三方も、失礼します」
「ああ、今日は助かったよ。お疲れさん」
「バイバ~イ、にとりに負けんなよ~」
「今日はお疲れさまでした」
「これからよろしくな。また会おう」
四人全員の挨拶を受け取り、椛はにとりの待つ工房へと去っていった。
作品名:【東方】東方遊神記13 作家名:マルナ・シアス