ふざけんなぁ!! 2
7.不幸は続くよ、どこまでも♪ 後編2
渡草の車に帝人を詰め込み、主治医である新羅の家に連行した。
門田は初めて、高校の時からの知人の家に、足を踏み入れる事になったのだが、まさか対応に出てきたのがこれとは………。
『みかどぉぉぉぉぉぉ!! 何て痛々しい姿にぃぃぃぃぃ!!』
血だらけで、真っ赤な顔した少女と、それを抱きかかえる少年に、PDAを振り回し、おろおろとまとわりつく首なしライダーが一匹。
池袋の伝説が、まさかこんな所に住んでいたなんて、思いもしなかった。
「……セルティさん、落ち着いて。早くネコミミヘルメットを、被った方が……」
「嫌、帝人。もう手遅れだから。こんばんはセルティさん。新羅先生は?」
手元のPDAを、物凄い速さで入力し、突きつけてくる。
『中学時代からの友人に街で会って、その時サイモンにとっ捕まったから、露西亜寿司の半額サービスDAYに寄ってくるって連絡があった』
「そういえばドタチン、あたし達も今から行く所だったんだよね」
「セルティさん、帝人の治療はできますか?」
『私は全く医術が判らないんだ。医者と同居しているのに、すまない』
「……いえ、いいんです。気にしないでください……」
ふうふうと息遣いが荒く、辛そうだ。
見た所、熱は38か39度に、なっているだろう。
「じゃぁ遊馬崎、クリムゾン握りを持ち帰りで、俺達全員の分を電話注文しておいてくれ。それからあんた、新羅に今から急患が入ったから、門田達が迎えに行くと、連絡してくれないか?」
セルティは、言われた通りにぱたぱたと大慌てでメールを送る。
すると、二十秒と経たないうちに、新羅からの返事が戻ってきた。
文面はこうだ。
『今、臨也と一緒にいる。臨也が京平に、私の後でいいから、ついでに新宿の事務所まで送っていってとせがんでいると伝えてくれ』とあった。
正臣の目がきらりと蛇のように光った。
「帝人、門田さん達は信頼できる。俺が保証する」
ゆさゆさと肩をゆすられた途端、くてっと紀田の腕の中でぬいぐるみ状態だった彼女まで、がばりと起き上がってきた。
「セルティさん、私に今直ぐパソコンを貸して下さい。それから新羅先生を迎えにいくの、少しだけ待って。30分、いえ後15分でいいですから、お願いします!!」
少女の表情がきりりと豹変し、小さい指を、ぱきぱきっと鳴らしだす。
「今確実に居ないって判ったなら、こっちのものだ。さあ正臣、いよいよ逆襲だね♪」
少年もテンションが急上昇だ。
「そうかそうか♪ がんがん行け、帝人~♪」
『待て待て、一体何の話だ!?』
セルティが、二人にPDAを突きつけてくる。
当然、門田だって、二人の変貌ぶりに、訳が判らない。
「実は今日私、静雄さんの家を出て、臨也さんの事務所に下宿つつ、家政婦兼事務員のアルバイトをする約束をさせられたんですが」
ふらっと、首なしライダーの体が傾いだ。
だが、腹筋の力で体制を立て直すと、物凄いスピードでPDAに文字を入力する。
『静雄を捨てるのか、帝人ぉぉぉぉぉ。どうか考え直してくれぇぇぇぇぇぇ!!』
「セルティさん知ってます? 日本の法律では、業務時間中に従業員のしでかした失敗について、雇い主は損害賠償を請求できないんですよ」
口調はぽけぽけとした雰囲気をかもし出してる癖に、少女の背後からは、憎悪のブラックホールが見える気配がして、門田の背筋が寒くなる。
「だから、正臣を散々酷い目に合わせた挙句、この私まで脅しやがった仕返しに、バイト初日にあいつのパソコンを、全部確実にぶっ壊してやろうかとか思ったんですけど」
にぃっと不思議な国のアリスに出てくるような、チシャ猫と同じ、無邪気で悪気が全くない癖に、とても不気味で素敵な笑みを浮かべる。
「考えてみたら密室に二人っきりって、私のリスクが高すぎますね。でも、今なら確実に奴の事務所に居ないって判ってるから、サイバー攻撃が楽勝なんです♪ これでバイトに行かなくて済みます」
『よし、許す。どんどん使え帝人!!』
即座にセルティのだと思わしき、ノートパソコンが、影の触手で手繰り寄せられ、帝人の目の前にどんと置かれた。
「門田さん、これってどうゆうCGなんすかね?」
「俺が知るか」
目の錯覚と思いたいが、彼女の首や体から湧き出る、どす黒い蛇のような影が、見るからに愛らしい♪マークを飛ばしだす。
シュールだ。
少女もまた、ピアノの鍵盤をはじくように、楽しげで滑らかに指をキーボードの上で舞いだせば、目まぐるしくディスプレイの画像が開いていく。
が、ノートパソコンでは、基本的にメモリーが不足し、処理能力も遅い。
逆に臨也の持ち物は、事務所だし、ディスクトップな上、金にあかせて最新設備やセキュリティを整えているだろう。
果たして、こんな少女が、情報屋に太刀打ちできるのだろうか?
「帝人ぉ。そういやお前、ハッキングプログラムとかどうするんだ? 今、お前も俺もUSBのメモリスティック、持って無いだろ?」
「大丈夫大丈夫。私、引越しの時、バックアップ保険のつもりで、ここに一式置いておいておいた♪」
「流石♪ 偉いぞ♪」
覗き込めば、その画面はダラーズ専用の見慣れた掲示板だ。
だが、そのアクセス名は【adam】。
まさかという思いに、ぎくりと背筋を凍らせた門田に、罪はない筈。
帝人は其処にいくつかキィワードを澱み無く打ちつけ、最後に【EVE】と入力した。
サーバーの片隅に、こそっと纏めて置いておいたプログラムやフォルダーのダウンロードが始まり、数秒でセルティに貸してもらったパソコンへのセットアップも終了する。
ぽちぽちと彼女の指が舞う毎に、幾重にも臨也が張り巡らした蜘蛛の糸のような。ネットのセキュリティが瓦解する。
目まぐるしく変わる画面にも、打ち込んでいる内容も、門田には一切理解できないが、彼女の唇が、弓月型に吊り上ってて怖すぎる。
「えーっと、『名倉』に『甘楽』、『クロム』……、全く、十個以上も名前使い分けるな、ネカマが……、ウザい……、ストーカー、死ね………」
過去、彼女が調べ上げていた臨也が使ったと思わしき、いくつものドメインを辿り、使用パソに、一気に侵入を果たし、丸裸の無防備になった所を狙って、どんどん悪辣なウイルスを流し込んでいるようだ。
ぶつぶつと呟く独り言も寒いが、次々に画面に現れる「ミッション・コンプリート」の文字も怖い。
敵の情報を盗んだり、吸い出すのでなく、マジでぶっ壊す事が目標なのだ。
臨也がいくつ機械やサーバーを保持しているかは知らないが、彼の今からこうむる経済的、時間、資料等の被害を思うと、流石に気の毒になってくる。
「み、帝人ちゃんはハッカーなんすか?」
心が半分二次元の世界に飛んでいる、遊馬崎がいち早く正気に戻った。
「……ううん、私は【クラッカー】。アタッカー系の…【スクリプト・キディ】に毛が生えた程度……」
画面に集中している為、返答は機械的だが、逆に今までの会話もしっかり聞いていたのかと。彼女の能力に驚きだ。
作品名:ふざけんなぁ!! 2 作家名:みかる