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ふざけんなぁ!! 2

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「こいつ謙遜してますが、俺の知る限り、今まで侵入できなかったコンピューターは無いってぐらい凄腕です。大体中学の卒業記念にって、ペンタゴンのセキュリティにアタックかけておきながら、三ヶ月経った今もまだ捕まっていないって言えば、こいつの異常な能力の高さも判るっしょ?」
正臣が優秀な妹を自慢したくなる気持ちは判るが、そういう事は知らないままでいたかったと、門田は思った。


ペンタゴンとは、アメリカ国防総省の事である。
核まで保有する、合衆国の国防の要なのだから、世界最高峰のセキュリティが施されている筈。

何なんだこの娘は?
ファーストインパクトは、泣き虫で平凡ぽけぽけの、一般人にしか見えなかったのに。
今はもう、立派な化け物の仲間入りだ。
これで15歳なんて、末がマジ恐ろしすぎる!!


★☆★☆★

『み、帝人ぉぉぉぉぉぉぉ。二度とやるな!! 捕まったらお前、禁固数十年コースだぞぉぉぉぉぉ!!』
セルティがガクブルに震えつつ、PDAを突きつけている。

紀田はそんな首なしライダーの慌てっぷりと、門田達四人の、呆然自失ぶりを、高見の見物しながら愉悦に浸っていた。
こんな事、大っぴらに自慢できる事ではない。
だが、自分の幼馴染で親友の凄さを、価値の高さを、誰かに認めてもらいたいという欲求は、常に彼の中にあったのだから。



ハッカーとクラッカーは、根本からして意味が違う。
前者は、コンピューター技術に長けており、少ない労働とひらめく機転でコンピューターを駆使し、世の中の為になるような生産的な結果を生み出す者だ。
例えば、企業のホストコンピューターにアクセスし、セキュリティホールを見つけたりして、ソフト開発とかに貢献する【善人】を言う。

だが、クラッカーは違う。
個人の楽しみで広く世にウイルスを撒き散らすわ、銀行の番号データーを大量に盗み、第三者に売り飛ばしたり企業を強請って金をせしめるわ、サイバー攻撃をしかけて相手のコンピューターに取り返しのつかない損害を与えるわ等々……、個人の快楽や遊び感覚の愉快犯、または大金という欲の為、兎に角パソコンを使って【悪さ】する者全てがクラッカーの部類に属するのだ。

ちなみに帝人のように、誰かが作った既存のクラッキングツールプログラムを、ネットでちまちま集め、それらを駆使して侵入ツールに利用するものを、【スクリプト・キディ】。
セキュリティプロテクトの目をかいくぐって、ただ侵入する遊びに喜びを見出す者は【アタッカー】と呼ばれている。

ただ彼女の場合、プログラムの改良を自前で行える程の知識と、自由な発想でプログラムを組み合わせ、どんなプロテクトも突破してしまう技術を会得してしまった。
彼女は謙遜していたが、正臣は帝人の事を【スクリプト・キディ……他人のプログラムを使うしか能のないお子ちゃま】などでは断じて違うと、密かに思っている。


中学時代、ゲーム感覚でありとあらゆる有名企業のホストサーバーにアタックかけ、攻略記録を更新し、散々腕を磨いてきた彼女である。
臨也がどれほど凄い情報屋であろうと、個人が所有しているパソコン程度、瞬殺で壊せなくて、クラッカーなんて勤まるか。
熱でふらふらに体が傾いでいても、正臣が少し支えてやればほら、目はらんらんと異様な輝きを保っている。

いつも大人しく、平凡そのものの雰囲気で、誰からも侮られる彼女が、ネットの世界では、無敵のクラッカーなのだ。
こんな帝人、今まで自分だけしか知らなかった。
それが優越感だったけど。
今はこんな彼女を誇りたい。
俺の親友は最高なんだって、皆に言いふらしたい。




「……子供だと思って、舐めないでくださいねっと♪……」

ぽちんと、Enterキーを最後に叩き、帝人の仕事が終了した。
後はすすすすっと、侵入の痕跡を全て消し、パソコンにインストールしたデーターを削除すれば終わりである。


「守備は?」
「今繋がってるあの人関連のデーターは、全部クラッシュしてやった♪ 無理にリカバリ起動すればパソのOSも速攻で破壊。あはは、私うぃなー♪♪」


笑顔のVサインに、正臣も「よしよし♪」と、頭を撫でてやる。
ウザい男だが、情報はあいつのメシの種だ。
バックアップをどれだけとって有るかは判らないが、あの『ミッション・コンプリート』と画面を飾った膨大なマークの数からみて、想像するのも恐ろしいぐらい、諸々吹っ飛んだのは確実だ。


「まぁ、【雉も鳴かずば撃たれまい】か。臨也の奴も、少しは懲りるだろう」
「【藪をつついて蛇が出た】ってやつっすかね。女の子を見た目で判断しちゃ駄目って事っすね」
「【二兎追うものは一兎も得ず】。イザイザも、シズシズだけ標的にしておけば良かったのにねぇ」
「【眠れる獅子を起こす】ってのもあったよな。でさ、紀田、この子って結局何者?」

渡草の問いかけは、あっさりと無視した。
答の判ってる問題に、わざわざ答える義理もない。

【EVE】はイブ。

聖書による、アダムの配偶者たる女の名だ。
そして、ダラーズの、創始者はアダムなのだ。


目を閉じ、ずるずると正臣の腕の中に納まった帝人を、正臣はしっかりと抱きしめる。
眠る体制がばっちりだ。
渡草達三人、そしてセルティの、あるかどうかわからないが視線を感じ、門田が代表でこほんと咳払いした。

「紀田、ダラーズの創始者はお前なのか?」
金色の髪の少年は、否定も肯定もせず、にぃ…っと笑みを濃くするのみ。

帝人からアダムの地位を譲り受けたのは、黄巾賊とブルースクゥエアの抗争が終結し、沙樹を死なせた後だった。
ネットの申し子、帝人はずっと……黄巾賊の動向を埼玉から見守っていてくれた。
傷ついてボロボロになった彼に、手を差し伸べ、居場所をくれた。
自分は一生、きっと帝人に恋愛感情を抱く事はないだろう。

男と女の関係になって、こじらせて終わるという可能性があるのなら、一生親友で、ダラーズという共通の子供(組織)を守る運命共同体でいたい。

けれど、まだ彼女を他の男にくれてやるのも惜しいのだ。
そして、彼は芝居がかったように、指を綺麗に揃えて玄関に手を指し示した。

「はい、じゃ、俺の可愛い可愛い帝人の手当てがありますんでぇ、新羅先生の回収を早急にお願いしま~す♪ あ、そうそう、ウザい人は適当に言い包めて、どっかで捨ててきちゃっていいですからぁ♪」

テンション高く、強制的な『お願い』を口にした正臣の下で、帝人が両手をぱちんとあわせ、なむなむと拝みだした。

「……あの、門田さんすいません。できましたら静雄さんの回収もお願いします……」
途端、腕の中の愛しい少女に対し、ぎんぎんに正臣の目が冷たくなる。
「……帝人、あいつはお前に怪我させた上、今夜なんて散々泣かせやがったじゃねーか。俺は絶対ぇ許せねぇ……」
「うん、正臣が沙樹さんと私を重ねて大事にしてくれる気持ち、とっても嬉しいけどさ、静雄さんに悪気はないんだし。それにあの人って、もの凄く優しくて傷つきやすいから、今頃きっと落ち込んでると思うの。だから……」
「知るか、そんなもん」

ぺしりと頭を軽く叩くと、頑固な帝人は青い目に涙を溜めつつ、ぷっくりと頬を膨らませた。
作品名:ふざけんなぁ!! 2 作家名:みかる