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ふざけんなぁ!! 2

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8.不幸は続くよ、どこまでも♪ 後編3








「ひゅーひゅー♪ 帝人ちゃん、あれだけ熱烈に愛されちゃったら、もうお嫁にいくしかないっすね?」

そう面白がって野次った遊馬崎ウォーカーは、速攻門田とセルティの手により、口封じに口をぺったり影で覆われ、後ろ手に縛られ、足首も括られ、芋虫状態になって、バンのトランク部分に転がされた。

いくら思考が虚構の世界に半分浸かっている奴だったとしても、今の暴言はあまりに酷い。


いつも彼が狩沢と一緒に座っていた中部座席では現在、ぎんぎんに遊馬崎を睨みつけている紀田の腕の中で、竜ヶ峰帝人が顔を彼の胸に押し当てられ、日光名物の彫り物【聴か猿】のポーズで耳を塞がれ、押さえつけられている。

「………正臣? ねぇ、私は何時までこのままなの? 静雄さんは?」

バンの外は現在、地獄絵図が繰り広げられていた。
頬を涙で濡らした自動喧嘩人形は、「ミカドミカドミカド…」の三文字をひたすら呟き、無表情のまま、その渾名に恥じぬ動きで、べこべこに折れ曲がった標識一本を武器に、黄色い布を身に纏ったチンピラ達や少年を、次々空高く飛ばしている。
いつも名物の【バーテン姿】ではなく、黒スエット上下なので、彼をよく知る面々は、物凄く違和感を感じるが、あの破壊力はまさしく静雄だ。

黄巾賊のメンバーは携帯で増援を呼んでいるらしく、多分、今三百人を超えているだろう。
門田の携帯を鳴らしてきた知人の目撃情報によると、泣きながら幽霊のようにとぼとぼ歩いていた静雄に対し、討ち取るチャンスと20歳を超えてるらしき年配幹部が、己の仲間をかき集めて喧嘩を売りつけたらしい。
何という、馬鹿な真似をしたものだか。
今晩、あのチームは完全に壊滅するかもしれない。


もう延々10分間、バンが池袋の西口公園に到着してからこんな調子である。
新羅の家からここまで運んできた人間が、こんな事を言うのも何だが、あの中を割って入って止める勇気など、誰一人持ち合わせていない。
勿論、か弱く、怪我が悪化し、発熱している15歳の少女を向かわせるなど、言語道断である。

運転席の渡草も、後部座席に座る狩沢も、「もうこのまま逃げようぜ」「そうよ、ドタチン」とリーダーの門田にハッパをかけるが、池袋を愛してやまない彼に、見て見ぬふりという選択肢はない。
勿論、紀田とて黄巾賊の元将軍だ。
現状、縁が薄くなったとはいえ、静雄に吹っ飛ばされているのはかつての仲間。
このまま見棄てる訳にはいかない。

「門田さん、黄巾賊は俺が下がるように言いますから、セルティさんと二人で平和島静雄の方、何とかして貰えませんか?」

その時コンコンと、ノックの音が響いた。
振り返れば中央扉の向こうには、白衣姿の新羅と、黒いファーコートを身に纏った臨也が立っている。
セルティが携帯で到着を知らせたので、新羅はいそいそと露西亜寿司から引き上げ、臨也は彼にくっついてきたらしい。

途端、ぎんぎんに正臣の目つきが鋭くなる。
「ちょっと、あんたがここにいると、車ごと平和島静雄に狙われるだろう? とっとと消えろ!!」
「酷いなぁ、静ちゃんに見つからないように、決死の覚悟で逃げてきたのにさ、そういうの良くない。そんな事俺に言うと、後悔するよ♪」

黒い悪魔は、にんまりと赤い目を細めた。

「しーずーちゃぁぁぁぁぁん♪ ここにみっかどちゃんが居るよぉぉぉぉぉぉ♪」
「死ね!! ウザヤ!!」

正臣が怒り狂いつつバンの扉を開け、正拳突きで彼の顔面に拳を叩き込んだが、彼は大声で笑いながらひらりとかわし、「あははは、まったねぇ~♪」と言い残して逃げていく。

勘弁してくれ。


門田が額に手のひらを当て、頭を抱えた正に今、三百メートルしか離れていないその先……、泣き濡れた池袋の自動喧嘩人形が、このバンの中にいる帝人を見つけ、凝視したまま、動きを止めた。


★☆★☆★


正臣の手が彼女の耳から離れると同時に、外へと振り返った帝人は、標識を手に呆然と佇む静雄と目をかちりと合わせた。

彼は、捨てられたドーベルマンのような目で、じっとこっちを凝視している。
見知った人から、そんな悲しげで縋られるような視線を向けられた事など、まだ十五歳の少女には無かった体験だ。

『小動物の恋愛』を地でいく、恋愛未経験の少女達にとって、情けない姿を見せる男は怖くない。
それがもし知人や親しい間柄にある男なら、母性本能が疼き、己の守るべき対象へとがらりと変化することもあるのだが、帝人の場合も例外ではなくて。
どくんっと、心臓の鼓動が跳ね上がった。


彼女は床を蹴ってバンから外へと飛び出し、まっしぐらに駆け出した。

「静雄さん!! 後ろ!! 危ない!!」

そう彼女が叫んでいるのに、平和島静雄は微動だにせず、じっと駆け寄ってくる帝人だけを見つめている。
アホだ。

「辞めて……、何してるの、逃げてよ、……静雄さん………、しずおさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


彼の背後では、バールを振り上げ、後頭部に叩き込もうとしている奴がいるというのに。
鈍足の自分では、間に合う訳がない。
悔しさにじわりと涙が滲ぶ。
そんな彼女の目の前で、鉄の棒が無慈悲にも振り落ちる。

「……きゃうううううう!!…………と、ととととと……」

条件反射って素晴らしい。
帝人の目も点になった。
小石に躓いて転びかけた彼女を、静雄が猛然とダッシュをかけて抱えあげてくれたのだ。
バールは獲物を失い、空を切って空ぶったが、標識を惜しみなく捨てた静雄は今、丸腰である、

「……ミカドぉ……、俺が嫌いか?………」

琥珀の目が、充血して真っ赤になっている。
それどころじゃないと思ったけど、今の彼に逆らうのは自殺行為だ。
それに泣き濡れる彼がもう可哀想で、見ているのが辛くて。
帝人自身も涙目になって彼の両頬の涙を手で拭い、金色の頭をきゅっと抱きしめると、ぶんぶんと勢いよく首を横に振った。

「大好きです……、大好きです。誰がなんて言おうと、大好きです!!」
「……じゃあ何で、俺の家から出て行くんだよ? どうして?……」
「静雄さんを、悲しませたくなかったから」
「訳わかんねぇよ。俺、頭悪ぃし」

標識を捨て、少女を腕に抱き上げた今を好機と思ったのか、バールを持った男が再び殴りかかってくる。
それを腹への蹴り一つで沈め、ついでに長い足で再び蹴り飛ばす。
顔面からアスファルトを滑っていったチンピラはきっと、顔の造型が変わったかもしれない。
帝人は静雄から振り落ちないよう、彼の首に小さな両手を巻きつけてぎゅっとしがみついた。


「静雄さんと私のデート写真が【東京災時記】っていう雑誌に載っちゃったんです。それを見た学校の先生達が、来良ではもう面倒みきれないから、お前は学校を辞めて埼玉に帰れって」
「はぁ?」
ますます訳がわからなくなったらしい。
帝人だってこれ以上、どういう風に優しいこの人を傷つけず、伝えて良いか判らなかった。


要点を言うなれば、こうだ。

帝人は入学した時から、あばらにヒビが入った状況だった。
そして二ヶ月経った今、七本も粉砕されており、明らかに状態は悪化している。
交際相手から、デートドメスティック・バイオレンス(虐待)を受けているのは明らかだ。
作品名:ふざけんなぁ!! 2 作家名:みかる