merrymerry-go-round
連れて行かれた遊園地は、稲妻町と隣町のほぼ境目にあった。住所こそ隣町に含まれていたが、稲妻町にあるといってもおかしくないぐらいには近い。余った土地の隙間に埋め込んで作られたような子供向けの小さなテーマパークで、客層も年端のいかない子供を遊ばせに来た家族連れが多かった。からりと晴れた休日にしては、人出は少なく見える。確かに郊外の大型遊園地に比べるとどうも分が悪い感じがした。
そんなことを意にも介さず意気ようようとゲートをくぐったヒロトは、精力的に風丸を引っ張りまわした。売店で買ったコーラとつぶれたホットドッグを片手に、おもちゃのようなアトラクションの間を順繰りにめぐっていく。
風丸は言われるがまま彼にくっついて、陽気なパレードのかかる園内を子供にぶつからないよう注意して歩いた。逆にヒロトの足取りは軽く、流れるようだ。ワゴンで風船を売っていたアルバイトの女の子が、周囲から浮いているいい大人の男二人をもの珍しそうに眺めてくるのに気がつきもしない。
ゆいいつ回るティーカップへの同乗だけは丁重に断ったけれど(さすがに悪目立ちすると思ったからだ。ヒロトは乗りたそうにしていたが)、それ以外は全部付き合った。揺れるわりにゆったりしたスピードのジェットコースターも、窮屈なゴーカートにも。おおむね満足したヒロトが「ちょっと休憩しよう」と、言って目についたベンチに腰掛けたときには、冬の短い日がだいぶ西に傾いていた。
休まず歩き回った足はだるく、風丸は自分の体力がずいぶん落ちていることに驚く。そうだ、ちょっとさぼるとすぐに体は動かなくなるんだ、と思う。そんな当たり前のことを、サッカーから離れてしばらくすると思い出さなくなっていた。頭で考えずに体だけを動かし、どんどん引っ張られていく状況は久しぶりで、妙に心地よくもあった。
「あれ、飲み物買わなかったの? よかったら、ちょっと飲む?」
てかてかしたピンク色に塗られたベンチの背にもたれて高い空を仰ぐと、目の前にココアの缶が差し出された。一瞬ためらってから、断りかねて素直に受け取る。風丸はヒロトのそういう臆面のない善意が、昔から少し苦手だった。そして、苦手意識を持つたびに後ろめたい気持ちにもなった。それはほんとうに、裏表のないただの善意だったからだ。渡されたココアは温かく、義理で口をつけると喉が焼けそうに甘い。
「本当は守も誘おうかと思ったんだけど。でもチケットが二枚しかなかったし、それに守は、俺たちの知らない人と結婚しちゃったしねぇ」
足元を駆けて行く五歳ぐらいの男の子を目で追って、ヒロトが目をほそめた。子供はクレーンゲームで取ってもらった物か、胸元にスポンジ素材で出来た小さなサッカーボールをしっかり抱きしめている。風丸はふと息苦しさを感じるが、気がつかないふりをした。
「なんとなく、守は誰とも結婚しないのかと思ってた。それか、するにしても、もっとずっと先のことかと思ってたよ。ちょっと寂しいね」
「別に……。悪いことじゃないし、あいつが幸せになるなら、それはそれでいいことじゃないか」
目の前にあった邪魔なブロックをすっと脇にずらすように作業的に答えると、ヒロトはきょとんとした。それから心底不思議そうに言った。
「えっ、でも、君は全然そんなこと思ってないよね?」
その不意打ちに、風丸は言葉を失う。あまりに唐突で直截的だったので、否定も取り繕いもできなかった。ただ、ぎょっとした。ダメージはじわじわやってきた。声を発しようとした唇が震えそうになり、歯を食いしばる。
作品名:merrymerry-go-round 作家名:haru