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merrymerry-go-round

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「おかしいかぁ。それ、昔よく言われたな。バーンと……ああ、この呼び方はもう変か。あの時期のこと、強烈すぎていまだに抜けきらないんだ。宇宙人ネーム。……晴矢と風介に、だね、いまは。ふふ、ちょっと懐かしいな。元気にしてるかな、あの二人」
そのほがらかさを見ていると、胸のうちに渦巻く反論をぶつけるのは馬鹿らしくなってきた。息を吐いて身を起こした風丸は、のろのろ立ち上がる。周囲には薄闇が迫ってきていた。めまいはすでに治まっていたが、長い時間寒風に吹きさらされていた体は冷えきっている。

そろそろ帰るよ、と告げようとしたとき、ベンチに座ったままココアの缶をもてあそんでいたヒロトが、ふいに笑顔を消してじっと風丸の顔を見た。
「ねえ。そんなに傷つくんなら、もう一度守とつきあえばいいじゃないか。努力すれば、きっと出来ないことはない。強く強く、それこそ自分が壊れるくらいにすごく強く望んだら、彼は君がまたどこかに転げ落ちる前に、手を伸ばしてくれるかもしれない。だろう?」
風丸は唖然としたあと、だんだんそらおそろしくなってくる。たちの悪い冗談だと流すには、ヒロトの目には熱がこもりすぎていた。唾を飲み込み、突き放すように声を荒げる。
「何を、馬鹿なことを。相手の家庭をむちゃくちゃにする気か」
「むちゃくちゃにならないように、うまくやったらいいんだ。ばれなかったら誰も嫌な気持ちにはならない。それか、最終的にむちゃくちゃになっても仕方がないと覚悟を決めてやるか、どっちかだ」
「……冗談じゃない! お前、本当におかしいんじゃないのか? よくもそんなろくでもないこと考えられるな。やっていいことと、悪いことがあるだろ」
「でも、世間のルールからしたら悪いことを、せざるを得ないときはあるよ。もし自分がどうしても譲れないことで誰かが傷ついてしまったら、それは仕方がないことだと思う。恨まれることも、憎まれることもふくめて。守の教えてくれたサッカーとか、そういうこと忘れたわけじゃないけど、それとこれとはまた話しが別だ。そうじゃない?」
 まっすぐなヒロトの視線に射抜かれ、逃れるように風丸は横を向いた。
「そんなふうに人を傷つけて、いいはずがない」
「怖いの?」
「怖いとか、そういう問題じゃ……」
「でも君は、怖いと思ってる」
きっぱりそう断定されて、ひやりとした。風丸はたじろぎながら、自分の言葉にひそむ矛盾に気付かざるを得ない。
本当はずっと、誰かを傷つけることよりも、傷つけた人を見て自分がいたたまれなくなることのほうが怖かった。円堂のことにしてもそうだ。これからもっと広いフィールドに出ていくのに、世間から後ろ指をさされかねないような状況を自分が作り出すことが怖かった。関係を全部明るみに出して、家族を泣かせることも怖かった。そう思うと、いつまでもずるずる続けてはいられないような気がした。相手のことを考えたからというよりは、静かに一人で不安を育てあげ、それに負けた、というほうがはるかに正しい。
そういう今まで見えていなかった部分が突然ふっと浮き彫りになって、風丸は苦い気持ちになった。いつもこうだ。こうやって繰り返し、大事なことを取りこぼすんだ。どうしてなのだろう……。

ぐったりと立ちつくしていると、ヒロトは攻撃的なほど真剣な雰囲気を解いて、また穏やかなまなざしに戻った。すうっとすべるように近づいて来て、鼻先で微笑む。
「俺、君のこと好きだよ。だって守が好きだった人だし、君の考えてること、不思議で、時々全然よくわかんなくて面白いと思う。どうしてそうなるんだろうって」
その距離の詰め方は親しげすぎて、風丸はいつもひるんだ。ひるんでいるうちに絡め取られる間合いに入られ、いつのまにか身動きが取れなくなっている。
「ね、具合がよくなったなら、最後に観覧車に乗らない? 日が落ちきる前に乗りたかったんだ。きっと上から、守の言ってた鉄塔広場が見えるよ。守を作った場所だ」
にこにこと誘われて、冗談じゃない、と思った。でも、見たい、とも思う。いいとも嫌だとも言わないうちに、伸びてきた腕にするりと手首をつかまれた。けして強くはない力でつかまれた腕を振りほどけずに、風丸は手を引かれ、黙って歩き出す。
作品名:merrymerry-go-round 作家名:haru