【東京マグニチュード8.0】目が醒めて、そこに有るのは
倒れていく東京タワーと、その下で泣いている男の子を見て思い出したのは、たった一人の弟のこと。
喧嘩したあたしと悠貴は、あの場所で二人して大泣きした。
あいつは人に気を使う、しっかりした子だ。けど、まだたった9歳だ。放ってなんておけない。
「一緒に、パパとママのところに帰るって、約束したの。だからあたしを戻して、悠貴のとこへ」
その言葉に、目の前で俯いていた顔が上がる。
黙したままこちらを見るその眼差しには、さっきまでの激しい感情は無い。
何故だろう、むしろ・・・
「わかった。帰りなさいよ」
静かに、けれどしっかりとした言葉が放たれて、それに思考を遮られた。
「あり・・・」
「お礼なんて、いらない」
ぶっきらぼうな口調だが、怒っているわけではない。表情から、それがわかる。
ただ、そんな顔をされる理由には心当たりが無いのだけれど。
「覚えておいて。目醒めてしまえば、夢は跡形も無く消えてしまう。寝ぼけていても、それはすぐに終わるの」
「う、うん・・・」
同い年のはずなのに、告げられた言葉に有無を言わせぬ迫力を感じて、あたしは思わず頷いた。
「じゃあ、さよなら」
あまりにもあっさりした言葉と同時に、あたしを取り巻く全てが音も無く消えていく。
目の前が真っ白になる直前、最後に聞こえた彼女の声。
「後悔するよ」
――ああ、それであなたはそんなに哀れんだ目をしていたの?
その念を最後に、あたしの意識は途切れた。