彼の歌声
レンはすっと目を細めて空を見つめる。空の色と同じ、淡い青色の瞳が、彼の白い目蓋に半分以上隠れる。病的なまでに白い肌は、太陽からの光を照り返すかのように目映い。玉のような肌。白魚のような肌。形容するとそういう感じなのかもしれない。おれは彼よりも日焼けているように思えるのだけれど、どうなのだろうか。自分の手の平の色と、彼の手の平の色を見比べる。やはり、違う。きっと、違う。
白い目蓋が、緩慢な動作で瞬きをする。レンの青い瞳が、何かを探すように、やはり緩やかな速度で動く。空を見上げたまま、上を向いた顔の表情は余り伺い見られないので、彼がどんな感情で顔を彩っているのかはわからなかった。
「空は好きだな。虹も好きだ」
「おれも。虹って綺麗だよなー。なんか、こう、見たらうわあってなる」
足をぷらぷらと振りながら答えると、レンがくすりと喉を鳴らして笑った。彼は空を見ていた顔を俺に向けて、笑う。花弁が押し開くような、ほのかで、柔らかな笑みだった。
「雨あがりのあとの透明な空気と言い、なんだか好きだな」
「雨上がりのあとはなんだか声が遠くまで響くような気がして、おれも好き。雨あがったあとってむしょうに歌いたくなるよ」
「ぼくも」
レンが小さく息を吐くように言葉を紡ぎ、そうして、不意に口ずさみはじめた。鼻歌のような──、歌が彼の声によって紡がれていく。繊細な旋律で、聞いているとなんだか悲しくなってくるような曲だった。旋律の儚さや、それを紡ぐ彼の声が本当に小さくて、今にも消え去ってしまいそうだったからかもしれない。
レンのマスターが書いた曲なのだろう。レンの唇が音を囁くのを止めると同時に、彼の頬が微かに色づく。彼は困ったようにおれを見たあと、ごまかすような笑みを浮かべた。
「さっきの」
「マスターがぼくのために書いてくれたんだ」
疑問を口にするや否や、レンの声が被さるように飛んできた。それ以上の詮索を許さないかのように聞こえて、おれは口を閉ざした。
3.
レンと話すのは楽しくて、おれは暇になるとマスターの言葉を聞かずに公園へ行くことが多くなった。初めて見た自分以外の鏡音レン。おれとはまったく違うレンと話すのは、とても楽しくて、面白かった。