彼の歌声
そんなに謝罪を繰り返さないで欲しい。レンの、空気に溶けるような微かな声が耳朶を打つのを感じながら、唇を噛みしめる。そんな風に謝罪を言わせるために誘ったのではないのに。謝罪を言わせるつもりなんて無かった。
小さく息を吐く。レンが下げていた視線を上げて、おれをしっかりと見つめてきた。
「断るからって、レンくんのことを嫌ってるなんて思わないで欲しい。ごめんね。ぼくは……、その、ここに、ずっと居なくちゃいけないんだ」
「そんなこと思わないよ。おれこそごめん。そんなにごめんごめん言わせるつもりじゃなかったんだ」
「ん、……うん、わかってるよ」
レンはそっと微笑んだ。彼は繋がったままの手のひらにきゅ、と小さな力を込めて、そしてもう一度笑う。
「わかってる」
「……レンって時折意味わかんないよ」
「そうかな。意味わかんないって初めて言われたよ。ちょっと傷ついたなあ」
傷ついたというわりに、レンの唇からは優しげな笑い声が絶え間なく零れている。なんだかその声がくすぐったくて、おれも笑った。そのまま、彼の隣に腰を下ろす。ベンチが軋む嫌な音を気にせず、そのまま足を振った。
「……おれもここで空見る」
「うん。一緒に見よう」
レンの声が優しげなものだから、なぜかおれは気恥ずかしくなって、頬が赤いのを彼に見られないように空を見上げた。
4.
朝から雨が降っていた。窓を叩く雨粒の音が、とんとんとリズムを刻んでいるのが鼓膜を揺らす。マスターが、雨か、と小さな声で呟いて窓の外を見上げてぼんやりとしていたから、おれもなんだか外が気になってマスターの近くへ寄っていった。
窓に叩きつけられる雨粒は軽やかな音を残して飛沫となる。どうやら外と中の温度がかなり違うようで、窓が若干曇っていた。白く、けむりがかったような場所を指先でなぞる。指の腹が湿り気を帯びて、なぞった箇所が透明になり、外の様子を伺い見られるようになった。
「外行きたい」
「……雨降ってるぞ。たしかボーカロイドとか、アンドロイド系統は水に弱いんじゃなかったっけ」
「うん」