まわる、巡る
眼下に見える人々が、だんだん小さくなっていく。ライモンの建物は派手だから、よけいにミニチュアのおもちゃの街並みのよう。
彼、フユタの話に頷きながら、トウコは窓の外の景色をぼんやりと見つめていた。フユタは、秋に出会ったあの女の人と比べると、ずいぶん口数が少ない方だった。けれど彼の沈黙はトウコにとって苦痛ではなく、かえってその静けさは彼の内面の穏やかさを雄弁に伝えてくれ、居心地がよかった。
そういえば、秋の彼女とも、彼と同じようにして知り合ったのだった。過ぎた日のことを思い出して、トウコの口元は自然と弧を描く。
「――ぅ、」
しばらく静かに景色を眺めていたフユタが、突然咳き込みだした。
それがただの咳ではなく、あまりに辛そうなものだったから、トウコは驚いて大丈夫かとたずねながら、落ち着けるように彼の背をさすった。
「……冷えたかな」
大丈夫、気にしないで。明るい声で言って彼はトウコの手を退けたけれど、声音に会わない弱弱しい笑みはトウコの不安を煽っていった。
風邪だろうか。でも、なんだか嫌な感じのする咳、だった。
わずかに逡巡した後、トウコは行き場をなくした自分の手を、フユタのそれに重ねた。その瞬間、彼の手が震えたのが伝わる。
私、体温高いから。
「え、ありがとう……暖かい」
驚きに目を丸くしていたフユタが、ゆっくりとトウコの手を握り返してくれた、そのことにほっと胸を撫で下ろす。
「きみは優しい人だね」
あまり身体が強くないのだと彼が自分自身を評する通り、彼の肌は青白く、決して体格のいい方ではないあの幼馴染の少年と比べても、大分と細く見える。
まるであの真白の雪のように。消えてしまいそうだ
―― ガタン、
足元の揺れに、はっと意識を取り戻す。
気付けばすでに乗り場まで戻って来ていて、係りの男性が扉を開けていた。
降りなきゃ、そう思ったと同時に自分の身体が引っ張られて、うわっと小さく叫んでしまった。
自分も、彼も、手を繋いでいたことをすっかり忘れていたようだ。
「ご、ごめんなさい……!」
なんとか転ばずにすんだのだけれど、フユタは何度も頭を下げていた。
いいよ、私もぼうっとしてたし。
頬を赤く染めて謝る彼に、トウコは笑いかける。
私、もう行くね。
日はとっくに傾いていた。夜になるまでに行かないといけない所があるのだ。
今日は楽しかった、ありがとう。
礼を言って踵を返した、その時。
「あの!僕、来れる時はいつでもここにいますから、」
振り返ると、先ほど雪のようだと感じた果敢なさから打って変わって、とても強い瞳がまっすぐトウコに向けられていた。
―― だから、また。