レイニーデイ、インザワールド
「そうですね、ほとんどといっていい程見えません・・・君が居るのは分かるんですが、輪郭が曖昧ですね」
骸は眼鏡を掛けるなり、綱吉の入れたココアを一口飲む。ぎりぎり合格点をあげてもいいが、ココアを牛乳で入れないのが気にくわなかった。
「そっか・・・やっぱ時間かかるよな、大丈夫?」
綱吉が心配そうに聞く。骸はふっ、と薄く笑みを浮かべるなり、書類をテーブルの上に置いた。いつまでもこうやって綱吉と平穏な時間を過ごすのも、いつの間にか骸は悪くないと思い始めてはいた。ボンゴレの大空の守護者の気に巻き込まれそうになっている。黒曜戦の時からずっとそうだ。
「ええ、君の手を借りるつもりはないですよ。それに、明日僕はここを出ますから」
「えっ・・・?」
綱吉の淡い茶色をした、大きな瞳が一瞬見開いた。
「明日、ここにクロームと千種と犬が来ます。彼らを霧の守護者としてボンゴレに置きますから、仕事は全て彼らに任せて下さい」
「えっ、あ・・・う、うん、わ、分かった・・・」
綱吉はどもりがちにそう告げると、俯く。勝手に骸がもしかしたら霧の守護者になってくれるかもしれない、なんて甘い考えを抱いたのが間違いだった。その通りになる可能性なんて最初から無いに等しかったじゃないか、と綱吉は自分に言い聞かせる。思わず言ったりしなくてよかった。俺にしては頑張った方だ。でも、無性に悲しいのは何故だろう。無性に、骸を求めてしまうのは、何故?
「・・・ボンゴレ?」
骸にそう呼ばれて、はっと我に返る。「どうしたんですか、急に」
言えるわけがなかった。ずっと会いたかったとか、実は骸が好きだとか、絶対に言えなかった。
「えっ、ああ、いや、何でもない!ごっ、ごめん。分かった、気をつけてね」
自分を落ち着かせるために緑茶を一口啜ってはみたが、落ち着かない。骸は黙って書類に目を通している。居心地が悪くなって、綱吉は立ち上がるなりドアの方に歩いていった。「じ、じゃあ俺仕事あるから行くね。今日はゆっくり休んでって」
一方的にそう告げて、ドアを閉める。ドアに背を預けて、しばらく骸の様子をみていたが、何が起こるわけでもなくただ時間が過ぎるだけだと知り、立ち去った。
作品名:レイニーデイ、インザワールド 作家名:豚なすび