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エンドレスラブソング@12/13完結

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幽にとって、帝人は、尊敬する兄の大切なボーカロイドであり、もうひとりの兄のような存在であり、家族の一員であり、そして大好きなひとだった。
「小さい頃は、兄貴ばっかり帝人さんを独占して、『ずるい』とか『俺も』とか、そんなつまらない焼き餅とかやいてましたけど、でも俺はそれ以上に兄貴と帝人さんがふたり一緒にいるのを見ていることが、すごく好きだったんです」
淡々と語る相貌には感情の揺れが無い。
しかし、真っ黒の眸の向こうに哀しみの色が見えた新羅はただ相槌だけを打った。
帝人を失ってから数か月。
帝人を知る人々は、彼の最期に悲しんで、悔んで、それでも、ああ、あの子らしいなと口を揃えて呟いた。
「帝人君は、本当に静雄のことを愛していたんだね」
「はい。きっと、『帝人』として、ボーカロイドとして、最後の最期まで兄貴を愛してたんだと思います」
直接的な言葉を交わしていなくても、仕草で、表情で、声で、唄で、彼は静雄を愛していた。
そして静雄もまた、唯一のボーカロイドを深く深く愛していたのだ。
「・・・・静雄は」
新羅の問いに、幽はふるりと首を横に振った。
「相変わらずです」
機能を停止した帝人の身体をずっと抱きしめて離さなかった兄は、その後己の日常へと戻った――ように見えた。
「笑わなくなりました。口数も少なくなって、帝人さんが注意しても止めなかった煙草も吸わなくなって、仕事をして家に帰って、ちゃんとご飯も食べているのかも眠っているのかもわからないぐらいに、俺みたいというか、いえそれよりも何か機械みたいで」
「機械・・・」
「自分がしてきたこと過去をただなぞってるだけなんです。今の兄貴は」
進んでいない。
帝人の時が止まったあの瞬間から、静雄の時もまた止まったのかもしれない。



(静雄さんは、大切な人を作るべきなんですよ。そうすれば人生薔薇色面白可笑しくそんで楽しくできるのに)

新羅さんもそう思いますよね!と力説するボーカロイドに、友人は「うるせぇ!」と幼さの浮き立つ額に容赦ないデコピンをくらわせていた。
例え機械の身体でも静雄のデコピンは結構効くらしく、うをを・・と呻くボーカロイドとそれを慰めるセルティを微笑ましく眺めていた新羅の横で、咥え煙草のまま友人がぽつりと「そんなのいらねぇよ」と呟いた。
その時、新羅はどことなく共感めいたものと僅かな不憫さを想い、誤魔化すようにからかってあやうく命を落としかけたが、それでもその呟きは誠実で切実で新羅の耳にずっと残っていた。



新羅は不器用な友人を思う。
そして友人の隣に必ず居た、ボーカロイドのことを。
コトン、
硬い机にカップが置かれる。
新羅は友人と似ていないようで似ている弟の顔を見つめ、そして口を開いた。
「それで、幽君は僕に何を頼みにきたんだい?」
静雄の身体の事かな?
すると、幽はふるりと首を横に振り、おもむろに横に置いていた鞄から小さな箱を取り出した。
そして机にその箱を置き、上蓋を開けた。
中にあったものを見た新羅の眸が見開かれる。
「それは、」
幽は愛おしむように、そして何かを決意したかのようにその眸を力強く煌めかせた。

「俺は、兄貴も、帝人さんも、好きだから。好きなふたりのために、もう少し足掻いてみようかと思って」

閉ざされた未来。
終わった時間。
けれど、可能性がまだ、ほんのわずかにでも残っているのなら、自分の持てる全てを使ってでも、そして周りを巻き込んででも、幽はそれに縋りついて賭けたかった。
兄に、幸せという選択肢を選ばせてやりたい。
幽はそのために新羅の元を尋ねたのだ。
希望を小さな箱に入れて。


協力してください、新羅さん。
兄貴と、帝人さんのために。


すっと下げられた頭に、慌てつつも新羅は二つ返事で了承した。
友人と、友人の大切なボーカロイドのために。





(大好きなふたりには幸せになってほしいんだ)