苦さと甘さのフィフティ・フィフティ
一日の授業が終わった綱吉は職員室の自分の椅子に座るなりはあ、と息をついた。机の一番手前の引き出しを出して、四つ折りにされている骸の進路希望調査票を手に取った。
開くと、そこには沢田綱吉の妻とある。はっきりこう書かれるとやっぱり気恥ずかしい。
普段女王様気取りでこういった類のことを言わないだけに、余計本当のものなんだと感じられて嬉しい。そう思っている。思っているのに、何であの時もう少し何か言えなかったかな、とここ数日綱吉は後悔していた。
後悔していてもしょうがない、とりあえず謝らなければと思ったが、なかなかそうもいかずに次々と湧いて出る仕事に追われていた。進路希望調査票に書かれた骸の字に触れる。あの時の泣きそうな顔をした骸が頭をよぎる。
いてもたってもいられなくなって綱吉は職員室を飛び出した。
誰もいないところまで来ると、綱吉は携帯電話を取り出すなり骸に電話をした。
呼び出し音を聞きながらかかってくれ、と願をかけていると、がちゃっという音がして骸の機嫌が悪そうな声が聞こえてきた。
「・・・何ですか、急に」
「あ、む、骸、お願いだからまだ帰らないで!な、なるべく早く行くから職員玄関で待ってて!じ、じゃあ」
「ちょっ、い、いきなり何ですか―」
一気に用件を言うと、綱吉は電話を切った。あんまり待たせるとまた振りだしに戻ってしまう。
早く仕事を終わらせてしまおうと意気込みつつ綱吉は職員室に戻った。
「何ですかね、今の」
突然電話がかかってきて、待っててと頼むなりいきなり電話が切れた。
待たせるなんて論外だと言いたいところだが、今回くらいは許してもいい気がしていた。
あまり人の出入りがない職員玄関で待ち始めて1時間半が経っているが、時間の経過よりも綱吉が来るのが待ち遠しい。
今か今かと廊下のほうを覗いてみたり携帯の着信を気にしていると、よっぽど待ち遠しいのだと自分でも意識して恥ずかしくなった。
作品名:苦さと甘さのフィフティ・フィフティ 作家名:豚なすび