くもり時々雨 のち 晴れ
それから、若達は見事にデウスを倒したんだ。そして、フェイさんとエリィさんも無事戻ってきた。ボクたちは真の自由を勝ち取ったんだ。
けれども、これからが大変だった。アヴェもニサンもキスレブもみんなデウスにぼろぼろにされちゃってたからね。
一緒に戦った仲間達は未来の栄光と皆の幸せを誓い合って、お互いを名残惜しみながらもそれぞれの場所へと帰っていった。シタンさんはマリアさんやゼファー王女と一緒にシェバトの復興、リコさんはキスレブの再建のためそれぞれの国へ帰った。ビリーさんは孤児院に戻って、今回の戦闘で身寄りのなくなった子供達の世話をすると言っていた。エメラダさんは「自分にできる事を探す。もう1人でも大丈夫よ」とフェイさんに言い残してどこかへ行っちゃった。
そして、フェイさんはエリィさんと手を取り合って幸せそうに旅立った。古の時より結ばれ続けてきたという二人。ボクの憧れの二人・・・
「さぁ!俺もアヴェの作り直しといくかっ!」
若もアヴェに戻ろうとしていた。そして、ボクを誘ってくれた。
「マルー、お前も来るか?」
「・・・ボクは・・・行かない!」
「え?」
「だって、ボクはニサンを再建しなきゃいけないんだもの!」
「あ、ああ、そうか・・・」
その時、若はなんだかひどく寂しそうな顔をしたような気がした。でも、それはきっとボクの気のせいなんだ。
ちょうどボクを迎えに来てくれていたシスターアグネスが言ってくれた。
「マルグレーテ様、陛下と一緒にアヴェへ行ってもかまわないのですよ?ニサンは私たちでなんとかなりますから」
「ありがとう、シスター。でも、いいの。そもそもボクがニサンの大教母だよ。ボクがいないとニサンは話にならないでしょ!」
「マルグレーテ様、でも・・・」
「いいの!早くっ!さっ、ボクらもニサンに戻るよ!」
とにかくその時のボクは、若から離れたかったんだ。それ以上若と一緒にいるのが辛かったんだ。つい、2,3日前は若と離れたくないと思ってたボクだったのに・・不思議なもんだ。
だいたい、ボクなんかが引っ付いていたんじゃ、若はきっと恋の1つもできないだろうし・・迷惑かけるだけだもの・・・ボクの方だって、叶わない想いを抱いて若のそばにいるよりは、早く若の事を忘れたかったんだ。早く忘れてあの苦しさから逃げたかったんだ。
「マルー、じゃあ、ニサンまでユグドラで送ろうか?」
「いい、ここからだったら、ボク達だけで帰れちゃうよ。じゃ、若!元気でね!アヴェの再建、頑張るんだぞっ」
「あ・・ああ、元気でな・・・マルー・・」
若はぽかんとしてた。ボクが一緒に行くとでも思ってたのかな?
ううん、そんなことどうでもいいや。もう若とは会うことないんだもの。
そう思ったら、なんだか急に胸が苦しくなって、それ以上若の顔を見てることができなくなって、そのまま背を向けて逃げ出すようにボクはその場を立ち去った。そして決して振り返らなかった。
「マルグレーテ様!お待ち下さい」
シスター達がボクを引き留めようとしてたけれども、ボクはそのまま早足で歩いた。胸に突き上げてくるものは全然止まらなくて、そのうち目頭が熱くなってきた。
いやだ!泣くもんか!
お母様が死んだとわかった時だって、若が最後の決戦に出撃する時だって泣かなかったんだ。だから、今だって・・・
小さな時からいつも一緒だった若、シャーカーンに捕まってた時も一緒だった若、離ればなれになっても、すぐに助けに来てくれた若、碧玉要塞へ行ったときも、あの怪物と戦う直前もずっと一緒だった若。
もう会わないもん!
そう思うとやっぱり涙が出ちゃった。悔しい・・・
シスター達に泣いてるのを知られたらいけないから、追いつかれないようにボクはもっと早足で歩いた。
作品名:くもり時々雨 のち 晴れ 作家名:絢翔