くもり時々雨 のち 晴れ
あれから、5年が経った。
そう、もう5年も経ったんだ・・・
この5年間、ボクはニサンの再建に没頭した。
まず雪原に非難していたニサンの人達を呼び戻して、街を立て直したり、大聖堂を修復したりとやることはたくさんあった。ボクはボクなりに一所懸命頑張ったつもりだった。ようやく今のニサンはまるで昔と全く変わらないかのように静かに時が流れている。いつの間にか、ボクの背も少し伸びた。
長いようで短かった5年・・短いようで長かった5年・・・
結局、若には一度も会わなかった。
その日、ボクは修理が完了して間もない大聖堂の真ん中でシスターアグネスと一緒にお祈りを捧げていた。
幸い、大聖堂の天使像はアイウォーンの襲撃で大きな被害を受けずに済んだ。それだけは本当に不幸中の幸いだった。
男女にも見える片翼の大天使達がともに手を携えて羽ばたこうとしている彫像。
それを見ていたら、ふとフェイさんとエリィさんを思い出した。
元気にやってるのかなぁ、あの二人。相変わらず、仲良くやってるんだろうなぁ。
あはは、ボクには無縁の世界だけどね・・・
「マルグレーテ様、そろそろブレイダブリクへでも行かれてみてはいかがですか?」
「え?シスターったら、またその話?」
「陛下とも、もう長らくお会いになっていないでしょ?」
「いいの、いいの、別に会いたい訳じゃないし」
シスターアグネスは最近何かにつけて、ボクにブレイダブリクへ行けと言うようになった。ま、仕方がないかな、シスターはボクの失恋のこと知らないんだろうし・・・
ちょうど、お祈りも終わった時だった。
「マルグレーテ様」
ボクが振り返ると、そこには懐かしい人が立っていた。
「メイソン様!!」
あのメイソン卿がいたんだ。ボクは、すぐに駆け寄って彼にとびついた。
「わ〜、お久しぶりー!元気だった?爺!懐かしいなあ・・」
「マルグレーテ様、これはこれはお美しゅうなられて・・・」
「やだあ、爺ったら、お世辞言っても何も出ないよ」
「お世辞じゃありません。本当ですよ。爺は感激です」
爺は少し歳を取ったみたいだけど、相変わらず元気そうだった。
「ねぇ、5年ぶりだよね。爺、急にどうしたの?」
「ええ、ちょっと・・・実は今日は私一人じゃないんです」
「え?」
そう言って、ふっと顔を上げると、爺の後方からもう一つ、ゆっくりと人影が近づいてきた。ちょうど、影になって顔は見えなかったけど、背の高い人がゆっくりと。やがて、ステンドグラスから差し込む光の中にその人は現れた。
とくん・・・
アヴェの民族衣装を纏った長身に長い金髪を垂らした青年。日焼けした褐色の肌、前よりも少し逞しくなった肩や胸、そして、彫りの深い顔に輝くボクの色と同じトパーズブルーの隻眼。
その顔を見た瞬間、ボクは凍りついた。
わ・・・か・・・・
若は硬直したままのボクをしばらくじっと見つめた後、徐に口を開いた。
「お前・・・もしかして・・マルー?・・・・お前がマルーか!?おい、本当か?まじ?嘘だろ?おい、爺!彼女があのマルーなのか?」
若の中身は全然変わってなかった。
ボクがあっけにとられてる前で、若はさんざんボクが本当にマルーなのかどうか言い散らした後、急にボクに抱きついてきた。
「久しぶりだなっ、マルー!一瞬誰だか全然わからなかったぜ!」
「わ、わ・・若は全然変わってないよね・・えへへ、すぐにわかっちゃったよ」
「えー、そうか?俺、随分凛々しくなったと思わないか?」
「思わないよーだ」
「けっ、可愛い気の無いところは全然変わってねぇじゃないか、外見だけじゃなく中身も成長しろ」
「その台詞、そのまま若に返すよ」
「なんだと〜」
ああ、ボクまたこの人のペースに乗せられちゃってる。
5年も逢ってなかった気が全然しない・・
「ねぇ、ところで若、いきなり、何しに来たの?」
「おお、それだ。あのデウスの野郎に俺の国をめちゃくちゃにされてから、苦節5年。ようやくブレイダブリクも以前の様相を取り戻しつつある。そこでだ、今回はニサンの大教母様を、見事復活したブレイダブリクへご招待!というわけだ。どうだ?マルー、来るだろ?」
「ボク・・・・・行かないよ」
「え?どうしてなんだよ。なんか都合でも悪いのか?」
「うん・・まだ、ここでやらなきゃいけないことあるし・・」
「そうなのか・・・」
「陛下!お待ち下さい」
シスターアグネスが割って入った。
「やあシスター、貴女とも随分と久しぶりだな。その陛下ってのは止してくれ」
「これは失礼しました、バルトロメイ様。お元気そうで何よりです。ところで、マルグレーテ様ですが、ブレイダブリクへお連れしてもよろしいですよ」
「ちょ、ちょっとシスター待ってよ。ボクの都合も聞かずに・・」
「マルグレーテ様、貴女はもう十分お働きになりました。今でしたら、マルグレーテ様がおられずとも、私達でやっていけます。せっかくのバルトロメイ様のお誘いです。お断りするのは失礼です。ブレイダブリクでゆっくりと息抜きでもしていらして下さい」
シスター・・・余計な事を・・・
「なぁんだ、マルー、全然大丈夫じゃないか。だったら、一緒に行こうぜ!」
「え、え、ちょ、ちょっと〜!!」
そうして、ボクは半ば強引にユグドラシル3世に乗せられて、ブレイダブリクへ連れて行かれてしまった。
ちょうど一晩飛行して、ユグドラシルはブレイダブリクに到着した。着いたのはえらく近代的な建物の中。
「若、ここはどこなの?」
「俺のアジトだよ」
「アジト?お城じゃないの?」
「ファティマ城はダメだ・・・やられ方がひどかったからな。ま、あんなもん別になくったて構わないし・・・街や周辺の村の再建に集中したのさ。で、王城跡の近くに元ゲブラーの駐留所の土台が残ってたから、そこを改修してアジトにしたのさ」
「アジトって・・まるでまだ海賊やってるみたいじゃん」
「俺の家って言うよりはアジトって言った方がかっこいいだろ?ちゃんとユグドラ用のドックもあるんだし」
「ふふふ、若らしいね」
しばらくその建物の中をずっと歩いて抜けると、周りには何もない少し開けた空間に白い洒落た建物があった。ちょうど小さなお城をイメージさせる。
「ここにいる間、あそこに泊まるといい。ちょっとしたリゾート気分だろ?アジトの中にあるのも変だが、一応別荘みたいなもんさ。来客用に使ってる他、俺や部下達もたまに息抜きに使ってる。ちょうどここ2,3日は俺達の貸し切りだぜ。じゃ、さっさと荷物置いてこいよ、街の中、案内してやるぜ」
作品名:くもり時々雨 のち 晴れ 作家名:絢翔