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ふざけんなぁ!! 3

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10.不幸は続くよ、どこまでも♪ 後編5




『まさおみぃぃぃぃ、まあまあ久ぶりぃぃぃぃぃ♪ 相変わらずいい声ね♪ 元気? 帝人そっちで、貴方に迷惑かけてない?』

甲高くテンション高い、ソプラノががんがん響いてくる。
ああ、二ヶ月ぶりに聞く、懐かしい母の超音波。
ママさんコーラスで鍛えられた美声は、正臣の持つ携帯の小さな機械から、少し離れた自分の耳にまで、がつんがつんと響いてくる。

正臣はその絶叫を、耳を塞いでやり過ごすと、にこやかに口火を切った。

「実は、帝人の超ボロアパートが倒壊しちゃいまして」
『うん、知ってるわよ♪』
「え?」
「ほへ?」

携帯を握り締めたまま正臣は固まり、帝人も静雄の腕の中でぴしりと硬直した。

『3月29日に、大家さんからご連絡を頂いたのよ』
「え、で、心配とかしなかったんすか?」
『どうして? しっかり者のお兄ちゃんが、帝人の傍にいるのに?』

きっと電話口の向こうで、本気で小首を傾げているだろう、暢気な母の姿が脳裏に過ぎり、溜息が落ちる。
母よ、貴方のぽけぽけさは、明るくてとても好きですが、今日だけは殺意さえ覚えました。
「もう、……お母さん、二ヶ月も娘が行方不明なら、少しぐらい焦ってよ!!……」

つい口から飛び出た絶叫が、聞こえたのだろう……、母はころころと楽しげに笑った。

『うふふふ、帝人も元気そうね。大丈夫よ、お父さんもちゃんと了解しているから♪♪』
「って、おばさん何を?」
『正臣、今帝人と暮らしてくれているんでしょ? 報告、何時来るかしらって、結構楽しみにしてたのよ♪♪ 帝人は埼玉から出た事がない世間知らずで大変だろうけど、お兄ちゃんに任せておけば安心よね。
そうそう、貴方は昔っから、血圧低くてお寝坊さんだったわね。今はどう? ちゃんと遅刻せずに学校に通えているかしら?
帝人に朝ごはんを作ってもらって、しっかり食べるのよ。あ、お米と味噌ぐらい送るから、二人の住所教えて頂戴。後、大豆や小豆もいるかしら?』

口を挟めないマシンガントークに、流石の正臣もタジタジになっている。
母は、己自身の幼稚園時代からの親友の息子、正臣の事が大のお気に入りだ。
シングルマザーだった親友を何かと支え、実際彼の母の結婚が決まり、東京へ引っ越すまでの3歳から11歳までの間、正臣は帝人の家に殆ど預けられていて、8年弱の期間、母は、二人を、本当の兄妹のように育てていた。

一番手のかかる多感な時期、手塩にかけて育てた愛し子だ。
その子から久々に電話がかかってきて、すっかり舞い上がっている。

「実は、今日連絡したのは、帝人の棲家の件なんですが……」
母のトークに引きずられ、混乱していた正臣だが、話を強引に引き戻す。

『帝人がもし、お兄ちゃんの所から出たいなんて言いだしたのなら、《埼玉に帰ってらっしゃい♪》と伝えておいて』
人の話、聞けよ母!!
そもそも一緒に暮らしてないでしょうが!!

「……何か凄いテンションの人ッスね……」
「……うん、流石紀田っちのママって感じ。本当にそっくりだわ……」
「それを今、『おばさん』なんて呼ばなきゃならないって。離婚って残酷だよな」
「……実の母にか……、切ないな……」

門田達バンの四人組が、それぞれ物思いに耽っている。
何か、あっちこっちで誤解の輪が広がっているようだが、『もうどうとにもなれ』という、ヤケッパチも手伝って、帝人は考えるのをすっぱり止めた。

「……嫌、俺達元々、最初っから、一緒に暮らしてねーし……」
もう疲れたのだろう、正臣も投げやりにぽつりと爆弾を落とした。
途端、電話の向こう側で、あれだけ饒舌だった母の声が一切掻き消える。

『……どういう事?……』
ひんやり尖った声に、帝人はぷるりと身震いした。

「帝人が住む予定だったアパートが倒壊した時、俺、まだバイト中で、会ってなかったんです。で、たまたま現場に居合わせて、泣きじゃくって途方にくれる帝人を、親切な人が哀れに思って、自宅に連れ帰ってくれまして、今もその家に間借りさせて貰っているって状況です」
やっと相手が黙った今、今度は正臣が一気に畳み掛ける。

「ただその下宿先が、ちょっと特殊でして」
『何なの? まさか暴力団とか、変な人の所じゃないでしょうね?』

帝人もこくりと息を呑んだ。
職業に貴賎は無いと思ってはいるけれど、テレクラ等の債権回収業者の用心棒……、というのは、普通のサラリーマン家庭な我が家の判断基準では、悪いイメージに取られかねない。
しかも静雄は、『池袋最強』『自動喧嘩人形』という渾名を持つ、ヤクザも避けて通る特殊な人だ。
正臣は、一体どうやって紹介する気だろう?

不安げに見上げると、安心しろと言いたげに、口の端をあげ、にやりと笑った彼が、空いた手で、ぽしぽしと頭を撫でてくれる。

「おばさん驚かないでくださいね。なんと、あの、『羽島幽平の実家』なんです」

言い切った後、正臣はさっと腕を遠くへ伸ばし、携帯を耳から遠ざけた。
遅れる事数秒後、母のけたたましい「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」という、絶叫に似た歓声が、超音波になって、帝人達の鼓膜に突き刺さる。

母は確かにミーハーな所があり、芸能人のワイドショー番組とかが大好きで、欠かさずチェック入れていた人だけど。
【羽島幽平】
そんなに熱狂するぐらい凄い人なのか?


だってお母さん、あの人カーミラ・才蔵だよ? 
隠密の筈なのに、背中に蝙蝠の羽を背負ってる、目立ちまくりの面白超能力忍者だよ?
アクション凄かったけど、モロ漫画の実写版って感じで、特撮ヒーローと同じノリだよ?
貴女は幼児と同レベルですか?


見上げると、セルティが誇らしげにPDAを突きつけてきており、その文字を読めば『帝人、これが正しい世間の反応だ』とあった。
今、忍者ってブームだったっけ?

帝人が小首を傾げ、正臣が腕を遠くに伸ばして携帯を遠ざけている間、興奮した母が『サイン頂戴♪ 写真送って♪ きゃああああああああ、皆に自慢できるぅぅぅぅぅぅぅ♪』と、まだまだ騒がしい。
うざいよ、それに吹聴はマジ勘弁して。

それに、静雄が急に、無表情になってしまった。
あまり兄弟の事で、騒がれるのが好きでないらしい。

「母がスイマセン」と、先手を打って謝ると、帝人に目を向けた彼は、気にするなと言いたげに、くしゃりと髪を掻き撫でてくれた。
続いて正臣も、向こうの母に聞こえないよう、小声で囁いてくる。

「あの人がこんだけ喜んでくれるんならさ、学校がぎゃいぎゃい言おうが脅そうが、これでお前が埼玉に連れ戻されるリスクは無くなったと思っていいんじゃねぇ? 後は夏休みに帰るまでに、体の怪我を治しとけ。それから平和島さん、今から挨拶、お願いできますか?」

携帯を差し向けられ、途端静雄の顔が、かぁっと赤くなった。

「お、俺……、何を言えば………、初めまして、俺、恋人ですって…………」
もじもじする姿は、正に乙女だった。
そんな挨拶、こっちがお断りだ。
「違うだろ静雄、嫁さん貰う訳じゃねぇし、普通で良いんだ普通で。名前名乗って、適当に世間話して、最後に挨拶するだけ、やってみ?」
作品名:ふざけんなぁ!! 3 作家名:みかる