ふざけんなぁ!! 3
11.好きだ。俺の彼女になれ!! 前編
静雄に、正臣と双子の兄妹じゃないとバレたあの日から、もう二週間になる。
門田が必死で「あいつはたった五ヶ月前に、臨也に嵌められて恋人を亡くしたばかりだ!!」と説得してくれたお陰で、命を拾ったばかりでなく、同情と涙も買った。
今では静雄が立派に彼の兄貴分を気取っているが、残念なことに、正臣自身にうざがられて嫌われている。
教師達へは『娘を、平和島家に預けます』という親の同意書が送付され、帝人の来良退学は封じられた。
同居続行の障害が取り払われ、その見返りに母は、羽島幽平から、母の名前入り直筆サイン付の巨大パネルな生写真が贈られ、家宝にすると物凄い喜びようだった。
祖母と結託し、居間の一番良い場所へと飾られたみたいだが、帝人同様にTVを殆ど見ず、芸能界に疎い父のしょっぱい顔が忍ばれる。
兎も角。
全てが丸く納まって、後、残すのは静雄からの告白だけだったのに、どうして帝人の欲しい言葉をほざきやがったのが、こいつなのだろう?
「もう一回言うよ。好きだ。俺の彼女になれ!!」
「頭、大丈夫ですか?」
そう帝人が小首を傾げると、漆黒の髪に赤い瞳を持つ情報屋は、にんまり笑い、チョコレートアイスを盛った、スプーンを口に咥えた。
「俺、単細胞な静ちゃんより、遥かに頼りになるよ?」
「静雄さんに、ゴミ箱をぶつけられた場所が悪かったんでしょうかねぇ?」
「其処、スルーする所?」
「新羅先生に、一度相談してみたらいかがですか?」
「こら、人の話を聴け」
学校帰り、臨也にとっ捕まり、奢りにつられたのと、良からぬ事を企んでいそうな雰囲気を警戒し、情報を探る目的で、フルーツパフェを食べる間だけ、お話する事に同意したのだが。
何で40センチのビックサイズ?
二人がかりで、スプーンでざくざくアイスを崩しても、全然減りやがらない。
「大体臨也さん、私の事、死んで欲しいんじゃなかったんですか?」
「あの夜はさ、君と静ちゃんが、できてるって勘違いしてたからね」
「現在進行形で、交際してますが」
「嘘は駄目だよ、帝人ちゃん。ヘタレな静ちゃんってば、まだ告白すらしてくれないんだろ? 俺は君が好きだよ。君のクラッキング技術も、お遊びでダラーズを作っちゃった発想も、飛びぬけた頭の良さも愛してる」
「肝心要の、心が全く入っていませんが」
「うふふっ 太郎さんてば、細かい事は気にしないでぇ♪」
「うざいです甘楽さん。それに私、貴方の事が大っ嫌いです。正臣と沙樹さんにした事、絶対許しませんから」
「大丈夫大丈夫、俺の信者になっちゃえば、そんな細かいことは気にならないって」
「貴方って、ホント最低ですね」
にまにまと、意地の悪い笑みが憎らしい。
本当にこの男、どういう神経をしているのやら。
自分を盲目的に慕ってくれた少女が一人、自分が仕掛けたシナリオのせいで死んでいるのに、全く堪えてない。
腹いせに、一番値が張るだろう……、たった一切れしかないマスクメロンをフォークでぶっ刺して口に放り込んだが、相手の懐に堪えてないから、尚更納まらないし。
(あーあ、静雄さんってば……、一体どういうつもりなんだろう?)
自棄になって、どんどんアイスクリームを口に頬張る。
冷たい物を詰め込みすぎて、頭もずきずき痛んだが、目にもじんわり悔し涙が滲んでくる。
あの日。
涙にくれるピュアな静雄を見て、胸を射抜かれた帝人は物凄く猛省した。
今まで逃げ回っていた事も、静雄の求愛をはぐらかし続けた事も、嘘を沢山ついた事も、二ヶ月間の自分の行動全部を振り返り、兎に角静雄に申し訳ない気持ちで一杯になった彼女は、あの日以降自分のできる精一杯で、静雄に尽くしまくった。
なのに二人の関係は、臨也の言うとおり、平行線街道を驀進中で。
恋愛初心者な帝人にとってもうお手上げ、どうすればいいか判らなくなっていた。
だが、とりあえず帰ってから速攻でやる事は決まった。
臨也の今の口ぶりから推測し、静雄宅に盗聴器が取り付けてあるのは確実だろう。
その回収作業が最優先だ。
なのに。
……潔く、パフェを残して帰れない、貧乏性な自分が憎い………!!
★☆★☆★
一方その頃。
「トムさん、俺、一体どうすりゃいいんすか?」
今日も取り立て以外の時間中、静雄がずっともじもじ気持ち悪い。
毎日毎日もう二週間、耳にタコができるぐらい、同じ台詞を聞き続けているのだ。
正直、ウザいと無視したり、話題をぶった切る暴挙に出たい所だが、そんな事をすれば、静雄が切れるのが判っているから、今日もトムは同じ言葉を投げかける。
「さっさと告白してやれよ。帝人ちゃんだって、首を長くして望んでいるじゃないか?」
「で、でも……、どうすりゃロマンチックなシチュエーションになるんっすか? 散々待たせたんっすから、俺、絶対、一生あいつの心に残るようなもんにしたいんっすよ……」
俯き、青いサングラスで瞳は隠せているものの、頬の赤みは隠しようがなくて。
今日も絶好調で、静雄は純朴な恋する乙女だ。
会社の彼のロッカールームには現在、デートマニュアルやデートスポット、テーマパークの詳細情報誌等が十数冊放り込まれている。
トム的には、埼玉でも田畑しかないど田舎からやってきた少女なのだから、それらのどこでもきっと飛び上がって喜んでくれると思うのだが、夢見るドリーマーな静雄は「お前は何時から恋愛映画の監督になった!! 」と、詰りたくなるぐらい妥協しない。
「で、昨晩の帝人ちゃんの猛攻は、どうだった?」
途端、ぼんっと音が立つかと思うぐらい、景気良く静雄の顔が真っ赤になった。
ここの所、話を逸らすのに一番良い話題だったし、トムにとって可愛い後輩が性犯罪者になるのを予防する為にも、毎日のチェックは欠かせない。
「もう、夕飯から上げ膳据え膳の、至れり尽くせりでした。昨日の晩から、肉にタコ糸を必死で巻いて、色々仕込んでましたから、おおよそのメニューは予想ついていたんですが、甘醤油味の焼き豚が、こう……フグチリみたいな感じで、薄く切ったやつを大皿に菊の花形に飾ってて、綺麗でした。それをキムチと菜っ葉を巻いて食べるんですが、もう肉がとろっとろ。唐辛子の辛さと、野菜のシャリシャリ感にマッチして、すっげー旨かったです。
マロニーを麺代わりにして作った、野菜たっぷりのとんこつラーメンとか、シュウマイと海老餃子、肉万頭、最後のデザートの杏仁豆腐。どれもこれも自家製で手が込んでるって俺でも判るし、カロリーも計算してあって、俺の健康をめっちゃ気を使ってくれてる。ああ、俺、兎に角すっげー幸せモンっす。あんな良い嫁さん、まず見つからないっす」
照れて両手で顔を隠してしまった静雄に、トムはうんうんと頷いた。
「そうだな、料理が上手くてやりくり上手だし、本当にいい子だよな」
嫁以前に、恋人にすらなっていないって所がポイントだが。
気づくとウザいので、あえてスルーする。
「それに、昨日風呂に入っている時、帝人の奴、とんとんってすりガラスのドアをノックしてきて」
「うん」
作品名:ふざけんなぁ!! 3 作家名:みかる