ふざけんなぁ!! 3
「か細くて消えちまいそうな声で『静雄さん、お背中流したいんで、タオルを腰に巻いてください』って。俺、いいっつったんだけど、帝人の奴、どうしてもやりたいって聞かなくて……」
耳まで赤くなった顔を両手で覆ったまま、彼は恥らって振りたくる。
ふーん、お風呂場でいちゃついた訳。
彼女すら居ない一人身に、辛すぎる話題だよな。
もうこれ以上聞きたくねぇー…と思いつつ、トムが先を促してやれば、場面はすっ飛び。
「それから、居間でいつものように寝てたら、帝人がとことこやってきて『風の音が怖いから、今日だけ一緒に寝ていいですか?』って、涙目で……。俺が『いいぞ』って言ったら、『お礼です』って、ほっぺに『ちゅっ♪』って。俺、もう心臓が踊っちまって……、あああああああ!?」
とりあえず安心した。
この乙女さ度数で判断すると、彼の脱童貞など、夢のまた夢、当分望めないだろう。
小悪魔な帝人ちゃんの手のひらに転がされてるのも気がつかず、典型的なカカア天下は間違いない。
(こいつの不幸は、折原臨也に会っちまった事だろうなぁ)
思うに、静雄の時間は中学卒業と同時に、ぴたりと止まってしまっているのだろう。
高校時代の三年間、臨也の仕掛ける罠に嵌りまくり、ひたすら売られた喧嘩を買い続けてきて、彼はちゃんとした青少年らしい学生時代を過ごせなかった。
これも、静雄の根深いトラウマだ。
でも、帝人ちゃんはまだ高校一年生で。
東京の生活全てが珍しい、おのぼりさんで。
毎週日曜日、彼女が静雄を引っ張り出して連れ出すチープなデートは、正にお小遣いが乏しい高校生の健全なノリだから。
静雄の歪みまくった心にも、とても良いリハビリになっているのだと思う。
このままゆっくり彼らのペースで、恋を育んでいって欲しい。
そう、煙草を燻らせながらほのぼのと微笑ましい気分になっていたその時、何故見つけてしまったのだろう?
道を挟んだ正面、フルーツ・パーラーの窓辺の席なんて。
心底トムの嫌いな新宿の情報屋と、静雄の大切なお姫様が、一つの巨大パフェを二人仲良く、恋人のように突付きあっている姿が目に飛び込んできた瞬間、彼はあーあ……、と溜息をつき、そそくさと静雄から離れて避難した。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
怒髪天をついた静雄が、その店に飛び込むまで、後十秒後。
作品名:ふざけんなぁ!! 3 作家名:みかる