ふざけんなぁ!! 3
ぴりっと、彼の手の中でセロテープが剥がされる。
早く逃げなければと頭では理解しているというのに、蛇に睨まれた蛙状態になって身動きがとれない。
「答えは【クロロホルム】だよ。あはははは、凄いよねぇ。その辺にあるもので簡単に作れちゃうんだもん。尤も、学校なんて、化学式は覚えろってしつこく言っても、こんな危ない雑学なんて、一切教えてくれないんだろうけどね」
涙目になった帝人の目の前で、黒い悪魔がにったり笑みを濃くしつつ、ビニールの中に入っていた、折りたたんであったガーゼを引っ張り出し、左の手のひらに乗せた。
ヤバイ。やば過ぎる。
それって、良く漫画とかに出てくる、人を拉致する時の、有名な薬品の名前ではないか!!
怖かった。
怖かったけど、このまま何もできないまま、彼の好きにされるのは本当に悔しくて。
帝人は手に持っていた携帯の、たった一つしか入っていない短縮ボタンをこっそりと押した。
なのに。
《……おかけになった電話番号は、現在電波が届かない………》
(ああああああああ、静雄さんの、ばかぁあああああああああああ!!)
さっき、トムさん経由でメールが来たのだ。
あの池袋の魔人が、盗聴器の報告に切れ、己の携帯をぶっ壊したのは明白ではないか。
それは、帝人の直ぐ傍まで来ていた臨也の耳にまでしっかり入っていたようで。
「あーあ。この俺が優しくしてやってる内に、従順になっていればよかったのにね、帝人ちゃん。ちなみに、TVのドラマみたいにクロロホルムを吸えば、直ぐに気を失うってのは嘘だから。気絶するまで数分かかるんだけど、それまでがホント苦しくてねぇ♪ 吐き気に咳に頭痛に、後何だっけ? ああ、死ぬことも極稀にあるらしい。まぁたっぷり後悔するといいよ♪ んじゃ、また後でね♪」
この男、最悪だ!!
線が細そうなのに、がっきりと抱え込んできた彼の腕から逃れられず、甘い匂いのする白いガーゼに口と鼻を覆われ、帝人の目じりから涙が零れ落ちた。
作品名:ふざけんなぁ!! 3 作家名:みかる