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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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だから僕は振り返られない

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ロシウとは一度、身体を繋げたことがある。
あれは四年前、シモン以下新政府の体制が整って、戦禍の名残などどこにも見あたらなくなったころのことだ。
夜、仮眠室でうとうとしているとき、彼が訪ねてきたのだ。狭い仮設ベッドに二人して腰かけ、どうかした、と寝ぼけ眼で問いかけるとロシウがこちらを直視してきた。しかし、しばらくして顔が背けられる。わけがわからず、今度はシモンがロシウの顔を覗き込む。目がさまよっていた。天井。膝。シーツ。ドア。ぐるぐる、どこを見るでもなく、まわる。視線がめぐっている。まるで彼の心の中が乱れ、絡まって悲鳴をあげているようだった。
ロシウ、大丈夫。言いながらためしに背中をさすってやるとますますロシウの瞳が混濁する。どうしたらいいかわからず、名前をなに度も呼んだ。ロシウはなにかを迷っているのか。ここに来たということは、言いたいことがあったのだろう。今は忙しいときだから、伝達もれがあったのかもしれない。ロシウは、なにを。
誰もが認めるように、昔から堅苦しく生真面目な男だった。それが、切羽詰った顔をしているのだ。なにもないはずがない。
「シモン総司令、あの」
ようやく喋ったロシウの声はふるえ、窮していた。シモンは頷いて返す。
「抱かせてください」
今度は、目と目がしっかり合った。迷いのないロシウの目。逆に、戸惑いにあふれるシモンの目。二つ、重なる。重なって、緊迫する。
「一度でいいんです。あなたのことを、抱かせてください。シモン……さん」
上司ではなくて、ただのシモンに言っている。ロシウはそう伝えたかったのだろう。
当然、すぐには答えられない。意味がわからなかったのではなく、意味というよりも、ロシウのことがわからなかった。なぜ、そんなことを頼まれるのか。自分の身体はまぎれもなく男のもので、柔らかくもなんともない。ロシウだって長年戦ってきた末にできたこの体躯をわかっているはずだ。なによりも、ニアがいる。だからとうてい理解が及ばない。なぜ、自分に欲望が向けられるのか、汲めない。
ロシウが返事を待っている。どうして、と訊いてみる。彼は、ほんのわずかに目を伏せた。
「言え、ません……ごめんなさい。断ってもらっても、構いません。でも、だけど、ほんとうに……ほんとうに、一度だけでいいんです。だから」