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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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だから僕は振り返られない

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ロシウがこんなにも切羽詰って、必死になるのをシモンは初めて見た。頼むというより、これは懇願だ。だから、迷いがなく、彼は引き下がれない。
ますます困惑する。どこにも逃げられない。こんなにも真剣に言うロシウを振り払うことはできない。はやく。はやく、答えてやらなければ。
シモンは原因を見つけようと、混乱する頭で日頃のことを考える。新施設施工計画があって、自分よりも彼が多忙なこと。話す暇もあまりないこと。ニアがほとんど毎日、訪ねてきてくれること。仕事を放り出して談笑していたのを、いつも諌められること。ロシウの眉間に寄る皺のこと。
ふっと、一つになにかがまとまる。彼に比べて自分がなんと呑気で、楽天的なのだろう。テッペリン陥落以降、今のロシウのように思いつめて考えた事柄があっただろうか。彼が、誰よりもすべてについて思い悩んでいないか。
そのロシウを一番悩ませているのは、きっと不良総司令の自分より他にいない。市民の苦情がなんだ。それをきちんと処理できていないのは、受けとめきれていないのは自分だ。また、最終的にすべてをこの有能な男に任せてしまうのも、しかり。
「お願いします……シモンさん」
抱かせて欲しい。彼ははっきり言った。好きだとか、告げられたことはない。ただ行き詰った末のうさ晴らしに、捌け口に選ばれただけなのかもしれない。一つ到達点に訪れたとて、ロシウの本心は知れなかった。
イエス。言えば、自分がどうなるのなんとなくでもかわかる。なにをされるのか、ロシウの手がどう動くのか。そのあとは。
背筋が凍った。それは、恐ろしいことだ。男としての尊厳に関わるのではないか。まっとうに生きていれば交わらないできごとが起きるのだ。事後、今までの関係が崩れてしまうかもしれない。断ってしまえば、多少わだかまりを残すくらいですぐに済む。
小さく息を吸って、ぎゅっと拳を握りしめた。たった一言でいいのだ。
「ほんとう、ですか。ほんとうに……シモンさん、シモンさん……どうして、あなたは」
歓喜というよりは、驚愕の面でロシウはつぶやいた。
あまりにも負担をかけすぎている彼に、この身を差し出すことくらい、してもいい気がした。自分を守るために逃げるのはずるい。
たとえ、愛する女がいようと。
あなたは、の先を聞くことなく、瞳を閉じた。こんなことで癒してやれるのならと、恐怖のさなかに思った。