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久住@ついった厨
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悲しみ連鎖

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日妹視点/本土爆撃→敗戦直前






 ルートヴィッヒさんとフェリシアーノさんが帰った後、私は布団から出ました。血で汚れてしまった顔を洗って、着物を着替えて、久し振りに髪に櫛を入れました。そうしてから布団をきっちりと畳んで、私は家を後にします。
 鍵をしっかりと閉めました。けれど盗るものなんて何も残っていません。私はその滑稽さに少しだけ笑いました。
 私はふらふらと歩いていきます。上空を敵機が我が物顔で飛んでいます。私が向かっているのは敵地です。殺される前に捕まれば、直接言いたいことが言えるので。けれど、私はそう都合よくことが進まないだろうことを分かっていました。分かっていたから、心許ないながら武器を持ってきました。
 いつか、兄様にもらった懐刀です。滅多に手になんかしないそれを、今日の私は帯に挟んでいます。私は人を殺したことがありません。国民の半分くらいは、何らかの形で人を殺したことがある人たちになってしまいました。戦国期でもないというのに。
 私はそれが悲しいのです。もう止めてもらわなければなりません。もう止めなければなりません。
 だから私は歩いていきます。どこに行けば会えるでしょうか。どこに行けば止められるでしょうか。辺りはいつの間にか、喧騒に包まれていました。血臭と、何かが焼けるみたいな臭いと、死臭が、しました。私は反射的に目を逸らします。こんな風に無残に人が死んでいくのを、見たくなかったのです。
 私は歩いていきます。歩いていきます。何故か自分の向かう先には目当ての人がいるのだという、妙な確信がありました。
 銃口が一斉に私に向けられました。人差し指一本の動作で、人が殺せる武器です。私など一溜まりもないでしょう。

「待て…!」

 けれど私を殺す筈の弾丸は、私に届きませんでした。それをアーサーさんの鋭い声が遮りました。
 私はそちらに視線を向けます。軍服に身を包んだ彼がいました。見たことのない、冷たい表情をしていました。兄様といる時はそんな顔を、少しだって見せたりはしませんでした。これもきっと戦争のせいなのだと、私は思いました。

「お話が、あるんです」

 私はアーサーさんの翡翠の目を見ていいました。どんな表情をしていても、瞳だけは変わらずにとても綺麗でした。
 私が来た、という情報が伝わると、すぐに連合の人たちは集まりました。
 アルフレッドさんが私の真向かいに立っています。その少し後ろにアーサーさん。声が届くか届かないかのところにフランシスさんと耀兄様。イヴァンさんは興味がないようで、遠くから私たちを眺めています。
 場所は兄様たちが使っていた司令部の一室です。ここはもう攻め落とされて、連合のものになったそうです。

「菊の妹が俺たちに何の用だい?」

 アルフレッドさんが口調だけはいつもの調子でそう問います。私に向けられているのは、敵に対する冷たい冷たい眼差しでした。それが何よりも、もう以前と同じ関係には戻れないのだと告げていました。
 私たちは憎み合ってしまったのです。この百年ばかりで敵味方が何度も変わりました。国民が沢山死にました。皆、私欲の為に戦うことを止められませんでした。そんなことはもう、止めるべきなのです。

「兄様を助けて欲しいんです」

 お門違いの願いだと分かっています。兄様は貴方たちの敵です。最後までしぶとく残った敵です。叩きのめさなくてはならない敵です。兄様は降伏を受け入れませんでした。けれど、本当はそうしたかった筈なのです。したかったのに出来なかったのです。兄様を助けて下さい。兄様が降伏したら、どうか、新しい時代に導いて下さい。あの日、貴方が兄様をあの部屋から連れ出した時のように。
 そんなことを私は言いました。

「菊は降伏するつもりなんてない」
「それは、」

 アルフレッドさんの言葉に、私は目を伏せました。
 それは私の為なのです。
 それだけ言うのに何度も詰まりました。兄様は優しい人です。私からすれば随分と変わってしまった兄様は、それでも私に優しくしてくれるところだけは変わりませんでした。
 兄様には私がいるのです。だから負ける訳にはいかなかったのです。兄様はいつでも、私には優しいのです。どうしても外に人に慣れることが出来ない私を、兄様は守ってくれようとしていたのです。負けたら、占領されたら、私は否応なく彼らに接さなければならないでしょう。兄様はそれを危惧していたのです。
 けれど、兄様。もういいのです。もうそんな心配はいらなくなるのです。だから。

「私さえいなくなれば、それで、」

 くらりと視界が揺れました。私は自分の体が傾いでいくのを感じました。耀兄様が小妹、と叫ぶのがどこか遠くで聞こえました。あぁ、何て懐かしい呼び方でしょう。
 私は帯に兄様にもらった懐刀を刺しています。その下には自分でつけた傷があります。そこからどくどくと、血が流れ続けています。朱の着物がそれを吸って、赤く紅くなっていきます。
 私が、私がいなくなれば兄様は。
 そこで私の意識はぷつりと、途切れました。






何に屈するというの
(私が消えた後、兄様は、何に)


作品名:悲しみ連鎖 作家名:久住@ついった厨