悲しみ連鎖
「菊があんな卑怯な真似をするとは思わなかったよ」
俺の呟きにも似た言葉を耳聡く捉えて、アーサーが僅かに反応した。
気になるのかな、君たち同盟組んでたくらいだからね。余程仲がよかったんだろうね。菊を外に引っ張り出したのは俺なのにさ。俺が一番菊を想ってるし、大切にしてるのに。どうして敵対なんか選んだのかな、菊は。理解出来ないよ。
ルートヴィッヒとフェリシアーノなんかと同盟組んじゃって。君が同盟組むべき相手は俺に決まってるじゃないか。何でそんな簡単なことが分からないかな。その挙句に通告もなしに爆撃なんて、あぁ、本当に俺は君が分からないよ。何をそんなに焦ってるんだい。
君は既に目覚ましい発展をしたじゃないか。俺が連れていくところ、見せるもの、全てを物珍しそうにしていた君はもういないじゃないか。何が不満なんだい、菊。
最近俺が冷たいから、気を引こうとでもしてるとか? その考え自体は可愛らしいけど、手段が戦争とか洒落にならないんだぞ。そんな可愛げ、あっても俺は嬉しくないね。
「ブシドー精神はどこにいっちゃったんだかね」
「どこにもいってねぇだろうよ」
ぼそりとアーサーが突っ込んでくる。アーサーの視線は、俺の腕や顔に注がれていた。より正しくは、そこについた無数の斬り傷に。菊につけられた傷に。彼ったら、銃相手に未だに日本刀なんか使ってるんだから凄いよね。あぁ、アーサーはそれを指摘したかったのか。
でも武器と精神は関係ないと思うんだぞ。一番手に馴染んでるから、俄か仕込みの銃より扱い易いんだろ、菊の場合。そりゃあ俺に背後からいきなり斬り付けたりはしなかったけど。
でも確かにあの日、菊は何の言葉もなしに攻撃を仕掛けてきたんだ。今更真正面からこられたって、君への評価を見直そうとは思えないんだぞ。菊、君は一番しちゃいけない間違いを犯したんだ。俺に喧嘩を売るなんてさ、今時ナンセンスだと思わなかったのかい? 少しでも勝算があると踏んだのかな。それとも、俺が手加減するとでも?
だとしたら菊、君、相当切羽詰まってたんだね。気付いてあげられなくて悪いことしたかな。
「早いとこ叩き潰して、現実を分からせてあげるんだぞ」
そうしなきゃ俺の腹の虫は治まらないからね。
でも君に現実を突き付けたら、その後はたっぷり優しくしてあげる。甘やかして手助けして、俺なしじゃいられないようにしてあげる。寂しい想いなんかもう二度とさせないんだぞ。そうしたらもうこんなこと、しようなんて思わないだろう?
菊、菊、早くまた会いたいね。この前は逃げられちゃったけど、今度こそ君のこと捕まえるよ。そうしてさ、痛いくらいに抱き締めてあげる。二度と離してやらないぞ、って俺の想いを込めてね。あぁ、早く会いたいな。いっそ俺の方から出向こうかな。幸い戦闘機の操縦くらいはお手の物だしね。
「うん、そうだな…それがいいよね」
口の中で呟いて、俺はがたりと立ち上がる。アーサーが怪訝な表情をしていたけど、そんなの気にもならなかった。俺の頭は菊のことで一杯だったからね。
ただの痴話喧嘩さ
(だからちゃんと仲直りして、今までより仲良くなるんだぞ!)