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輝き×惹かれる魂

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「ほんとはスガタも、今でもワコと手をつなぎたいと思ってるよ。」
ワコは贅沢だと思った。
自分にはナイトが二人もいる。
その友情が、こんなにも信頼できる。

大好き。
大切。
守りたい。

ワコは囚われのお姫様。
だけどこの先何があっても、どんなことになっても、大切な友人のために闘うと心に決めた。
それがタクトがワコにくれたストーリー。

スガタとタクトはまだ序曲。
始まった二人がどんな結末を迎えるのか、ワコには見当がつかないけれど。
その魂が引き合っていることは明らかだ。

道路に降りるとワコは手を離した。
「スガタくんに会ってきて。」
タクトの真剣な目がワコに答えるように瞬く。
「タクトくんなら大丈夫。」
「僕を過大評価しすぎ。」
タクトが自信なさげに微笑んだので、
「わかってないな!私のこと。」
悪戯っぽくそう言う。
「ワコ様はお見通し!タクトくんが不器用なのことわかってる。だけど大丈夫。」

ワコはタクトにキスしたくなった。
子供の頃スガタにしたみたいに、元気が出るおまじないだとその頬に。
だけど衝動で口づけたら、別の感情に傷がつくから。
タクトの胸の十字に、制服の上から手を当てた。
「行って。スガタくん、ずっと迷ってる。」

「うん。」
タクトはワコに別れも告げず走り出した。
スガタに今すぐ会いたかった。
走り出すと衝動は高揚に変わり、タクトは胸が高鳴った。





タクトがシンドウ邸につくと、辺りはすっかり暗かった。
日照時間が延びているので、本来ならまだ明るいはずだが、曇り空がそうさせる。

ありがとうございました。おつかれさまでした。と口々に、人々が道場を後にする。
逆流するタクトは、振り向く視線もおかまい無しに灯りが漏れる道場へと急ぐ。
支度の遅い生徒が数人残るなか、スガタはメイドと言葉を交わして道場の出口へと向かってくる所だった。
その存在に気付くと足と止めた。

肩を上下させながら、あの瞳が自分をまっすぐ見据えていた。
二人の間に異様な空気が漂っていて、気付けば道場の中の人間が注目していた。
スガタはそれを敏感に察し、タクトを外へと誘う。
灯りの中はタクトの領域と言わんばかりに、その存在が眩いので、スガタは灯りが陰る方へタクトを移動させた。

「どうかしたの?」
「話があって。」
「分かった。シャワーを浴びてからでもいいか?」
「うん。待ってる。」
簡潔に言葉を交わしながら、タクトを家で待つように誘ったが断られた。
スガタは落ち着かない気持ちで支度をすませ、メイドに出かけるから夕食は置いておくように頼んだ。

自宅の門を出ると、タクトが野良猫をかまってしゃがみ込んでいた。
「そいつ、タイガーがこっそり餌をやってるんだ。」
気付いてタクトが見上げる。
「だからか、すごく人懐っこい。」
そう言って自らもそういった笑顔を見せた。
スガタの緊張が少し解ける。

「少し歩かない?」
それは軽やかで、スガタが好きなタクトの口調。
気分が良い時のタクトだと察する。
スガタはポケットに手をつっこんで、タクトの一歩後ろを歩く。
この位置からタクトの後ろ姿を眺めるのがものすごく好きだった。
もう二人の関係はこのまま続くのかもしれない。
わだかまりを抱えたまま。

ポケットの中で拳を握った。
貴重な存在を、なんて形で壊してしまったんだろう。
自分は本当にバカだと思った。
やり直せるならもう一度、ワコとタクトと三人で、この島が奇麗だと笑い合いたい。
それだけで充分だった。
何を望んでしまったのか。

海岸へと降りる階段に差し掛かると、タクトは中央の手すりを握り、反転して振り向いた。
全身のシルエットがスガタの視界に収まった。
身軽で逞しい。
スガタを見つめ返す瞳には意志があり、どこか確信を持っている。


「スガタが僕にキスした理由。ずっと考えてた。」

その言葉に心臓が止まりそうになった。
ずっと避けていたことだ。
「あれ、なんでだったの?」
薄暗いあたりに街灯がくぐもった灯りを落とす。
LEDの灯りにタクトの瞳が青みがかって照らされる。
スガタは視線を逸らせた。

「そのこと、忘れてくれないか?」
スガタは自分が小さく感じた。
タクトは真っ向切って自分へと向かってくれているのに、自分ははぐらかすことで逃げようとしている。
「間違いだったってこと?」

間違いだった。
あんなことは。
タクトは自分が惹かれる存在じゃない。
ましてやスガタが男として守れなかったものを、突然現れてあっさり立場を奪ってしまった男だ。
今でもその事に、嫉妬とやるせなさを感じることだってある。

「間違いだった。あんなことタクトにすることじゃなかったな。」
タクトに惹かれることすら、自分はどこかで背徳行為に悦楽しているのではないかと疑う。
そんな不順な満足心のために、唯一心置きなくできた友情を壊してしまった。
傲慢で恥じることだと後悔。
「不快な思いをさせた。悪かった。」
スガタはひどく惨めな気持ちになる。


スガタは肩を落とした。
自然と顔は空を仰いだ。


カッコ悪いな、でもこれで。
守れたものがあるはずだ。
友情と恋心、どちらか選ぶなら確実な方がいい。

失笑ぎみにタクトが笑った。
今までわざと息を潜めていたように、突然その存在が瞬いて、一瞬でスガタの心を支配した。
「スガタは気付いてないんだな。」
重たい口調で、ゆっくりと呟いた。
「何に、気付いてないって?」
「自分のこと。」
タクトは嬉しそうに言う。
どうしてそんな顔をするのか、憎いと思ったことすらあった。
お前はなんでそんな顔で僕を見るんだ。

「うなだれた時に空を見る。スガタは下を向かない。いつもだよ。」
その言葉に心がとまった。
「諦めてたと思ってるんだろ?自分で。諦め切れてないくせに。」
タクトの言葉に真意を探る。
「それはどういう意味?」
「いつもどっかで逆転できないかって考えてる。いざって時は闘う気でいる。それがスガタだよ。スガタは人生を割り切った顔して、本当は最後に勝つ気でいる。」
笑ってる。
「タクト?」
「ああもうだめだ!僕の負け!絶対白状させたかったのに、僕の負けだよ!」
笑って階段を二、三段駆け下りる。
タクトはポケットに手をつっこんで、軽やかに振り向く。


「スガタが好きだ。」


それは一瞬、だけどその時の感覚を、スガタは一生忘れられないと思った。
スガタの中で、今まで築き上げて来た何もかもが、その一言で崩れ落ちた。

「僕はあのキスで気付かされたよ、なのにスガタは間違い?」

タクトが妙に輝いて見えると思ったら、空の雲はいつのまにか晴れて月が出ていた。
太陽が落ち切る寸前、ブルーアワーが広がる。
現れはじめた星々の中で、一番星が輝いて。
あの笑顔。
スガタがいつも見ていたいと思う。
スガタが何度でも心打たれる。
あの笑顔。
眩しそうに微笑む。
輝きを纏った。

スガタはようやく気がついた。
訴えるタクトの瞳に、写っていたのはスガタ自身だ。
いつだってそうだった。
心が満たされる微笑みも、突き抜ける様な笑顔も、スガタに向けられていた。
自分がタクトを見つめるように、タクトはスガタを見つめていた。
作品名:輝き×惹かれる魂 作家名:らむめ