Rest in peace
碑と碑の間を抜けながら、ふとネロは、目的地の周辺に人影のあることに気付いた。クレドは街の人々や他の騎士たちからもかなり慕われていたので、ここを訪れる人も少なくない。それにしても、今はもう真夜中といっていい時間だ。そんな時間に、一体だれが?
もう少し距離を縮めてから、ああどうして気付かなかったんだ、とネロはちいさく舌打ちをした。そして仕方ない、あいつがこんなところにいるなんて、まったく思いも寄らなかったのだから、と無理に自分を納得させた。暗闇でも目立つ真っ赤なコートと銀の髪。そして何より、そこらの悪魔と対峙している時とは比べ物にならない腕の疼きが、彼が何者であるかをはっきりと告げていた。
「ダンテ・・・?」
名を呼ばれ振り返った男は、さもネロの存在に今気付いたかのように目を見開いてみせた。
・・・結構前から気付いていたくせに。
苦々しく思い、歩を進めつつもダンテから目を背ける。そんなネロの様子を、ダンテは興味深そうに見つめている。
「なんでアンタがここにいるんだよ。」
隣に並んでからようやく、ネロは尋ねた。ダンテは心外そうに片眉をあげて答える。
「俺が墓参りしちゃ悪いか?」
「んなことは言ってないけど・・・」
そういう感傷的なことをするタイプには見えない。墓参りなんか辛気臭くて嫌だと言い出しかねないと思っていたが、どうもそれはネロの思い違いであったようだ。そして思う、やっぱりこいつは掴めない奴だな、と。
クレドを看取ったのがダンテと相棒のトリッシュだという話は以前に聞いていた。それだけに、ダンテの方でも何か思うところがあるのだろう。どのみちダンテがいては、今日はあまり長くここにはいられない。こうやって訪ねてきているところを見られて、何となく気恥かしいという部分もあるが。
「そういうお前は、こんな時間に墓参りか?」
ネロの戸惑いを見透かしているかのように、薄く笑みを浮かべて尋ねてくる。最初に会ったときからこちらの気持ちを見透かしているような態度を腹立たしく思ってはいたが、その一方で大人の余裕とでもいうべきその態度に憧れてもいた。軽い態度に圧倒的なパワー。クレドとは正反対の男であったが、ネロはダンテに対しても憧れのような想いを抱いていた。
作品名:Rest in peace 作家名:柳田吟