メルヘクエスト―3章
“情報源”から仕入れた情報は、ギンタ達のこの世界での職業と扱う武器、各々の戦い方についてだった。
『――これで復習は終わりですが…まだ分からない事はありますか?』
「戦い方については大丈夫や!」
あまり必要無いとは思ったが、ナナシは何故か“本の中の住民”と化してしまったアルヴィスに相槌を打った。
『そうですか。』
お、漸くまともな会話(言葉のキャッチボール)が成立した。
『それではこれから我々が――』
傍にいたスノウや、アルヴィスの次の言葉を待っていたナナシが止める暇も無かった。
アルヴィスが森の入口を指で刺そうとした瞬間に、アランの鉄拳が彼の側頭部へ突撃したのだ。
「オヤジっ!アンタ何遣ってんのよ!?」
「うるせぇ!俺だっていい加減限界だったんだよ!文句あっか!?」
加害者アランの逆切れ、被害者アルヴィスは患部を抑えて蹲っている。
豪傑と呼ばれるアランの拳、音が物凄く痛そうだった…大丈夫なのか?
皆の視線を一身に受けて、アルヴィスが下を向いていた顔を上げた。
――こうして、冒頭に戻る。
「阻止、出来なかったんだな……。」
俺はあの本の事を知っていたのに、アルヴィスは大きな溜息を洩らした。
「アルヴィス…落ち込むなよ!それよりお前体大丈夫なのか?」
「…ん、特に異常は感じられないな。大体、この本は精神のみを取り出して収容する術だから体に異常も何も無いだろう。」
「そうだけど…怖かったんだよ?本に取り込まれちゃったのかと思った……。」
「心配、かけたな……でも、もう大丈夫だ。アレは多分、術の妨害をした代償として精神を毒されただけだと思う。」
「成程…アンタのした事って一応何かしらの効果はあったって事だね。」
「?どういう事なんスか?」
「憶測だけど…本来なら最初から“案内役”がいたんじゃないかしら。」
「あ~、元々子供向けのゲームやっちゅう話やしな。お子様でも良ぉ分かる様な優しいシステムになっとったんやないか~っちゅう事?」
「そ、でもアルヴィスが妨害したから術は一部未完成な状態で発動した。その穴を埋める為に魔本が独自に調整して、まだ無くても大丈夫な部分を外して……。」
「さらに空いちまった穴のしわ寄せが、発動を妨害しようとしたアルヴィスに行ったってワケか。」
「うー…何だかまた難しい話ッスね。」
何とか理解出来たらしいジャック、隣のギンタは……。
「なあ、ナナシ――」
「質問は受け付けません!…解決したんやからソレで良えやんか。な?」
「お、おう。」
「ドロシー、大体の流れを教えてくれ。」
「リョーカイ。取り敢えず歩きながらで良いかしら?」
「そうだなぁ。面倒臭ぇが、時間は限られてる事だしな。」
どうやら煙草が無いらしく、アランはいつも以上にイライラしている様だ…。
作品名:メルヘクエスト―3章 作家名:春雲こう