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まさきあやか
まさきあやか
novelistID. 8259
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悪魔と唄えば / リボツナ

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 穏やかな表情を浮かべていた優男。と言った風情だった青年が、今は般若のような形相でこちらを睨みつけている。そこに、彼本来の面影などないに等しい。

「あれが、悪魔に心を乗っ取られると言う事ですよ」

 怯える綱吉に骸が三叉槍を作り出して対峙する。綱吉もまた、大きく息を吸い込むとイクス・グローブを装着しオレンジ色の炎を纏った。

「綱吉君の炎なら、おそらく奴を中から追い出すこともできると思います。追い出したらそこでパンドラに」
「わかった。マグナ、パンドラを」
「うん」

 骸の言葉に綱吉はパンドラをマグナへと預ける。バルレルの力を封じた宝石は、彼の手に渡ってより一層輝きを増したようだった。

「エリザ、アビスもお願いね!」

 ―――どうかマグナを守ってね!

 綱吉の言葉に宝石がひときわ輝く。マグナはそれを見ると、下唇を噛み締めて集中するために瞳を閉じた。今自分が出来る事は綱吉達を信じてネスティの身体から悪魔が引き剥がされるのを待つことだけだ。

「行きますよ!」

 骸と綱吉がほぼ同時に駆け出す。悪魔は、まだネスティの身体を完全に乗っ取ってはいないらしい。動きは緩慢で、骸が生み出した蓮の花の茎によってたやすく捕えられる。
 しかし、さすがと言うべきか幾重にも巻き付いたはずの戒めは、悪魔の手によって引きちぎられてしまう。しかし、綱吉にとっては一瞬の隙さえあればいい。
 炎による高速移動で悪魔に近づくと、その顔を掌でおおった。

「彼の中から出ろ!」
「ぐがっ」

 オレンジの炎がネスティの肉体を取り巻く。がむしゃらに暴れる身体を抑え込む綱吉と骸。金属でさえも飴細工のように解かす大空のオレンジ色の炎は、今は暖かな色合いでネスティの体を隅々まで包み込みこんでいく。
暴れる身体がビクリと大きく痙攣したかと思うと、ズルリとネスティの背中からコウモリの羽のようなものが生えた。

「!?」

 驚く綱吉の前で、羽はそのまま大きく広がり、大きく飛び去った。それを骸の蓮の花が追いかける。だが花がそれを捕えるよりも早く、マグナの鋭い声が走った。

「逃がすか!」
「ギャ!」

 マグナの言葉と共にソレは、弾かれたように不自然な動きで、悲鳴を上げコンクリートの上に落ちる。肌の色は黒い。頭の上半分――鼻から上はなく、鋭く尖った歯をむき出しにマグナに対して威嚇をしている。
 とてもこの地上の生物とは思えない、そうまさしく〝悪魔〟だ。

「せ、成功?」
「とりあえずは、ですがね」

 力を失ったネスティの身体を支えながら、息を荒くしながら綱吉が呟く。大暴れする人間を抑え込むのは、かなりの力がいるものだ。
 隣では骸も大きく息をつく。ただ彼はマグナをサポートするべく有幻覚によって悪魔を捕え続けている。
 そして彼らの目の前では鬼とマグナの戦いが続いているが、はっきり言ってこうなってしまえば綱吉に出来る事はない。餅は餅屋に任せるしかないのだ。
 そのまま両者がにらみ合う中で、事態からおいて行きぼりにされた海馬が綱吉に近づく。

「沢田綱吉。貴様までこの俺に古代妄想を押しつける気か?」
「誇大妄想?いやいや、そうだったらありがたいんだけどね」

 一応この人、あの悪魔?に乗っ取られれてたみたいなんだよ。と、綱吉が言えば、海馬が「悪魔など非ィ科学的な!」と叫ぶ。
 感情としてはわかるが、目の前にいるアレは一体何だと思っているのだろうかと、睨み合いが続いているマグナへと視線を向ける。

「しかし、いつまでもあんなものにうちの社屋に居座られては困るのでな」

 海馬はそう言うと、一枚のカードを取りだした。そこに描かれているのは白き竜。このビルの正面玄関に設置されている者と同じだと、綱吉が知るのはしばらくした後の話だ。

「来い!ブルーアイズ!滅びのバーストストリーム!!!」
「は?」

 何を?と言う骸は続いてあふれ出た白い光に顔を引きつらせ、綱吉が絶叫した。

「人のこといえなくない?!」

 海馬の指令と共に虹色の光と共に姿を現した白い竜。そしてその口から放たれた青白い光は綱吉の突っ込みさえも消し飛ばし、見事に悪魔を直撃した。
 一瞬あっけにとられたマグナは、それでもボロボロになった悪魔をパンドラに封じこめることに成功する。

「俺のブルーアイズにケチを付ける気か、貴様!」

 閃光の消えた屋上で、海馬が眉をはね上げる。彼にとっては己の忠実な僕であるブルーアイズが現れるのは不思議でもなんでもない。そんな彼は確かに伝説の、そして日本が世界に誇るトップデュエリストだった。

「いやいや、悪魔がだめでブルーアイズオッケーってどういう思考回路!?」

 おかしくない?おかしいよね?オレだけじゃないよね!?と、とっさに骸の襟首を掴んで揺さぶる綱吉。骸と言えばガクンガクン揺さぶられ、言葉を発することもできずにだんだんと顔色が土気色になっていく。
 骸の肉体は今この場にはない。骸と、そして依り代になっているクロームの有幻覚によってこちらにあるように見せているだけなのだ。その状態でさらに有幻覚を操る事は、骸が世界最高峰の術師であってもかなりの疲労を伴う行為である。
 よって、綱吉の暴走になすすべもなく振りまわされてしまっていた。マグナもあまりのことに何処か呆然と高笑いをする海馬と手の中の輝石を見比べてるしかない。
 本当ならば、綱吉の傍で横たわるネスティに駆け寄りたいのだが、なんとなく腰が引けてしまう。

「ちょっつなっ……」
「どうしてオレの周りにはまともな人間がいないのさぁぁぁぁぁ!!!!」

 それはあんたがまともな人間じゃないからでしょう。と、言う骸の言葉は決して音になることなく大空に綱吉の絶叫だけが吸い込まれていった。





「精神疲労が激しいかたらしばらく療養が必要だけど、まぁ大丈夫みたいだってよ」

 あのあと、悪魔に乗っ取られていたネスティはもちろん、封じるために力を振り絞ったマグナもそのまま倒れてしまったのだ。
 それから雲雀に連絡を取り、彼の息のかかった病院に搬送されてからすでに三日が経っていた。

「そう、よかった…」

 事件解決の連絡を受けた九代目が頼んだのだろう。先にマグナ達の様子を見てから沢田家に顔を出した兄弟子の言葉に、綱吉はほっとしたように息をついた。
 あの日電話をかけて来た父親はクレスメントの人間と協力していたのだが、とりあえず無事だと言う。
結局この事件では、確かに裏街道に片足を突っ込んではいても極めて一般人だと思っていた海馬の知られざる顔を見てしまったり、悪魔と言う自分には一生縁がないと思っていた存在と関わってしまったりと散々である。
 ちなみに例のネスティにとりついていた悪魔は、あの後に紅子の屋敷にてバルレルに引き取られていった。夢の中でこちらも疲労困憊の骸に聞いたところ、案の定アビスとエリザにいびり倒されていたらしく、しばらくは悪さをすることもできないだろうと言うことだ。

「もうしばらくオカルトは勘弁て感じ」

 死んでる人間より生きてる人間の方が怖いって本当ですよねぇ。と、ズズッと、暖かなお茶を飲み干す綱吉に、ディーノは苦笑いを浮かべる。