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月下部レイ
月下部レイ
novelistID. 19550
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プラトン的愛の構造 前編

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傍で見守る以外。




でも。





もし。





忍足が全然違う答えを出したとしたら。



忍足は他人からポーカーフェイスと言われるほど冷静な人間ではない。
むしろ、傷つきやすい性質(たち)だった。

心は硝子のようで、繊細だった。

それを忍足自身でさえ、気付いていなかった。

初めて知った自分の心の弱さに追いついて行けなくなった。
心は悲鳴をあげ、泣いてた。ほんの少しのことでもバランスを失うほど、切羽詰っていたのだ。








「跡部。はやく忍足を探さねえと、あいついなくなっちゃうよ・・・・・」



「俺のせいだ!俺のせいだろ!!」」

跡部の不安そうな顔を初めて見た。こんな情けない表情をこの男でもするのかと慈郎は思った。
跡部は間違いなく、忍足が好きなんだ。たぶん心の底から忍足を愛しているんだと思った。



「跡部、そんなこと言う暇があったら、忍足を捕まえるんだよ。もう二度と、逃がさないように捕まえるんだよ!
忍足が本当に好きなのは、跡部なんだから」



「・・・・・ジロー」



「で、今自分が一番何をしたいか忍足に伝えてやりなよ」



「向日ぃ、お前と宍戸の自転車借りてくから」
「あぁ、早く侑士見つけてくれよ」



「わかった、俺、心当たりがあるから」



自転車に飛び乗り、あの時と同じ場所に向かった。

きっと忍足はあそこに居る。








何処をどう走ったのか、わからない。全てのことを消し去りたくて、ただ酷い雨の中を走り続けた。

雨の糸が連なって、海と同化して。其処には別世界が広がっていた。







砂浜の向こうに広がっている、碧い海。足はそのずっと先を目指していた。







「忍足!!!待て!!!」

「忍足待、ってえー!!」



跡部と慈郎の呼ぶ声はもう忍足に届いていなかった。

あの時と同じ。心は出口の無い闇の中。







「忍足ーーーーー!」

「忍足、帰って来てぇーーー」



忍足を呼ぶ二人の声は降りしきる雨に阻まれ、忍足の耳には届いていないだろう。



忍足は一度も後ろを振り返ることも無く、真っ直ぐ暗い海へ向かって走って行く。





















頭の中がぐるぐる回って、耳の中に届いてくるのは雨音だけで。

走ることを止められなくて、ただ一直線に突き進む。

足元は雲の中を歩いているようで、あやふやな感覚しか無い。



そのあやふやな感覚が足先から膝、そして腰から胸へと徐々に上がって来る。





すぐ後ろに必死に自分を呼ぶ跡部と慈郎がいるのにも、忍足は全く気付いていなかった。





「忍足!!!!!」

悲痛な跡部の叫び声が海の中へ飲み込まれる。



「跡部、海の中で見失しなったら、最後だよ。絶対に忍足を捕まえるんだ!!!」

「あぁ」

二人とも必死に走る。走っ走って心臓が止まりそうになっても死に物狂いで跡部も慈郎も走った。

もう手の届きそうな所に、漆黒の髪の毛が揺れていたのに・・・



一瞬靡いて、消えてしまった。。



「ダメ!、その辺だよ」
「忍足!!!!!!!」




普通なら到底目なんか開けていられない塩水の中で、必死で忍足の姿を探す。

見えない先に手を伸ばした。













忍足は今自分を包んでいるものの正体が何なのかわからなかった。

冷たいようでもあり、温かいようでもあり、不思議な感覚に包まれていた。



ただ、一瞬そこに跡部の姿を見たような気がした。

「・・・跡部」

だんだん失われていく感覚の中で、跡部が笑っていた。



















白色が跳ねた?

指先にツイと触れた感覚に思い切り腕を伸ばして、跡部は物体を抱きしめた。

白い冷たい肌が、灰色の海の中から跡部の腕の中に確かに戻った。





「忍足!!!」

「見つけたぞ!」

「あぁ、はやく浜に・・・・・」







切れ長な綺麗な瞳は閉じられて、いつもと同じ穏やかな顔のように見えたのに。

「ジロー、コイツ、息してねぇ」

ぽつりと跡部はそう呟くと、すぐさま狂ったように忍足の名を呼んだ。



「忍足!忍足!!忍足!!!」



『バシッ!』

跡部の頬が、鈍い音をたてた。

「跡部、はやく、人工呼吸!跡部が慌ててどうすんだよ!!」

気付いた時には、慈郎は跡部の頬を叩いていた。
物心がついてから、幼馴染の跡部のことは全部知っている。
こんな跡部をもちろん今まで一度も見たことは無い。

慈郎が今まで見てきた跡部は、いつも憎たらしいくらい冷静沈着で、自分なんかと比べるのできない
一回りも二回りも大きな存在だった。

その跡部が、忍足の様子にうろたえた。



自分達の前からいなくなってしまうかもしれない忍足を目の当たりにして完全に自分を見失っていた。





「あぁ」

「俺は救急車呼んでここまで連れて来るから、跡部、忍足を頼むよ!」





「絶対忍足を死なさないからな!そやだろ跡部」

「ああ」



救急車を誘導するために、大きな道まで慈郎は走って行った。









跡部の目の前で、忍足は青白い顔をして横たわっている。



ついこの前まで、いつも自分の隣にいて、笑っていた。

「跡部」低音ヴォイスが照れくさそうに何度も自分の名を呼んでいた。
忍足が傍にいると不思議と落ち着いた。

涼しげな瞳がじっと自分のことを見つめていたのに。



たった一度自分に触れて来た忍足をを拒絶した。たいそう立派な理由で。
あの時一瞬、自分の中に芽生えた自分でも信じられないような感情を押し殺すために
都合の良い理由で、自分さえも納得させようとした。



一度踏み込んでしまえば、抜け出せぬ底なし沼に忍足を巻き込みたくなかった。

急に忍足に触れるのが怖くなった。





だから。



忍足を守るために自分は・・・



拒絶した。







跡部にとって忍足は特別の存在だった。
余り他人に興味の無い跡部が唯一初めて会った時から、同じ時間を共有したいと思う人間だった。
忍足が傍にいるだけで、優しい気持ちになれた。
忍足の前では、自然体でいられる。



「跡部、好きや」
照れくさそうにいう瞳が。本気で可愛いと思った。


「あぁ、俺も好きだ」
本気だったのか、冗談だったのか。
いつの間にかそれが忍足と跡部の合言葉のようになっていた。
繰り返される言霊のせいだったのだろうか?
忍足を好きだと思った。忍足を愛していると思った。


忍足の言う好きが自分の好きと同じ意味を有することは、無いだろうと思っていた。

跡部にとって忍足は犯してはいけない聖域だった。

強い精神的な結びつきこそ、忍足へ対する最高の愛の証だと信じた。



まさか、忍足にとって最善だと自分が思った事が、最悪の結果をもたらす事になるなんて。

思いもしなかった。

自分の決めた愛しかたが、忍足をを追い詰めた。
忍足を愛していたからこそ、穢(けが)せなかった。






何度も何度も、忍足の口に息を吹き込んだ。