プラトン的愛の構造 後編
「・・・・・・・」
今まで、見たことも無いような、苦渋に満ちた跡部の顔だった。
「・・・跡部、話してや。跡部と俺の間に何があったのか?」
真剣な表情で、跡部の顔を直視した。
跡部も真摯な瞳で忍足を見つめ返えす。
「お前と俺は恋人として、愛し合っていた」
「・・・・・・そしてお前は恋人として、自然な行為を俺に求めた」
「そんな、お前を、俺はどうしても受け入れられなかった。俺に触れて来たお前の腕を拒絶した」
「冷たい言葉と一緒に・・・・・」
「お前に手を上げてしまった」
じっと聞いている忍足の顔が緊張で青ざめたような気がする。
また自分は忍足を傷つけようとしているのではないのか?
跡部の中を言い知れない恐れがグルグルと駆け巡る。
「お前と俺は同性だ。精神的な愛だけなら崇高で気高い。俺はそう思い込もうとしていた。
だから、快楽を求める身体の繋がりを俺は拒絶しようとした」
「でも、本当は違うんだ。怖かったんだ。身体の関係を持ってしまったら、きっと一生お前を離せなくなる。
お前を俺の檻の中に閉じ込めてしまいそうで。お前の自由を俺が全部取り上げてしまうから・・・」
跡部を見つめる忍足の口から我慢ができない嗚咽が漏れる。
「俺にそんな権利があるのかと・・・・・あるはずねぇと思った」
跡部の頬にも涙が伝う。
「跡部・・・もうええよ」
「最後まで聞いてくれ」
真摯な瞳で、跡部は忍足が忘れてしまったことを全て話した。
その責任は全て自分が請け負うという揺ぎ無い意志の下で。もうこれ以上絶対に忍足を傷つけたりしない。
そう跡部は覚悟を決めていた。
「俺が拒んだせいでお前が慈郎のものになったと知った時、自分でも信じられねぇくらい、嫉妬した。
この俺が慈郎なんか死ねばいいと思った。そんなに汚いんだよ、この俺は・・・でも、そんな気持ちも全て隠そうとした」
「・・・跡部」
しゃくりあげるように名を呼ぶ忍足の背中を、少しでも落ち着くようにゆるゆると跡部は擦った。
「あの日、お前が死のうとして海へ入って行ったのは全部俺のせいだ。そこまでお前を追い詰めて、お前を
壊したのは、この俺なんだよ」
「こんな、俺でも許して欲しい。もう一度初めからやり直したい」
跡部は必死だった。もう一度だけ忍足にチャンス貰いたい。
「忍足の全てを俺に下さい。俺が責任をとる。もう二度とお前を傷つけたりしない」
「けえちゃん。こんな俺でもええの?」
「忍足、思い出したのか?」
ビックリして跡部は忍足の顔を見つめる。
「景ちゃんだけのせいじゃあらへんよ。俺だって景ちゃんやジローを傷つけたやん」
「お前は自分の気持ちに忠実だっただけだ。何も悪くねぇ」
「慈郎から、こう言われた。『誰が伊達や酔狂で同性の男を抱いたり、抱かれたりできるか』って。
『快楽だけを求めて抱きあうんやったら、女の身体のほうが良いに決まっとるやろ』と。
『本当の愛が存在してるから、愛し合えるんだ』と。だから、お前と抱き合った時は、その瞬間だけでも
お前が慈郎を間違い無く愛していたと言いやがった。それだけで幸せだったと。俺がお前を傷つけるんなら
遠慮なくお前を貰うと宣言された」
怖いぐらい真剣な表情で跡部が言った。
「愛し合っているんなら、当然の行為で、何も、疚しい気持ちを感じる必要など無いのだと」
「ジローがそないなこと」
「でも、俺はお前をジローに渡す気は、全然ねぇんだが」
「・・・跡部」」
「さっきみたいに景ちゃんて呼べよ。前みたいに。俺はお前からそう呼ばれるのが好きだった」
「・・・景ちゃん」
「今日から、本物の恋人同士になりてぇ」
「景ちゃん・・・けいちゃん・・・・・・けぇちゃん・・・」
跡部のシャツを指の先が白くなるくらい必死に掴んでいる。
そんな忍足を本当に可愛いと思う。好きだと思う。
愛している。
腕の中に抱きしめて、唇を指でなぞった。
その指を唇に変えて何度も何度もキスをする。
瞳から流れ落ちる涙の雫を当たり前のように舌先で舐め取った。
そのまま、ゆっくりと忍足の身体をベッドに倒した。
身体はまだ小刻みに震えている。
「優しくするから」
忍足のシャツのボタンを一つずつ外していく。
あらわになった白い肌に、改めて自分と同じ男だと確認してもその全てが欲しいと思った。
その身体のあらゆるところに、所有の証を残していく。
胸の飾りに口付けを落とすと、忍足の身体が一瞬ピクンと跳ね上がった。
「・・・あ、あん」
忍足の甘い声に、欲情を煽られる。
両手で忍足の頬を引き寄せ、口付ける。そして今度はもっと深いキスに切り替える。
「・・・・んっ・・ふっ」
忍足の舌を絡め取る。吸い上げるようにそのあらゆる所に刺激を与え、口腔を蹂躙していく。
『クチュ!』
わざと卑猥な音を立てて刺激する。その音がまた欲情を駆り立てた。
どちらのものともわからない混ざり合った銀色の液体が堪えきれずに口の端から零れ出して糸を引く。
「あっ・・・やっ・・んっ・・」
唇で封をされているにも関わらず、艶を含んだ声が忍足の口から漏れる。
忍足の肌はなんと甘いのか。
唇が。頬が。胸が。身体が熱い。
全身がしっとりしてくるほど、汗が滲む。触れ合っている肌が甘く痺れる。
長く深い口付けで、身体の奥にも熱が生まれる。
まだ履いていた忍足のズボンを下着と一緒に剥ぎ取った。
跡部は自分も着ていたものを全て脱ぎ捨てると、忍足の白い肌をじかに抱きしめた。
今も扇情的な唇からは、女のような甘い吐息が漏れ続ている。
「はっ・・・・あ・・・あん」
熱を持った忍足自身を手の中に握るともう先の方が固くぬるついていた。
少し刺激を与えただけで、熱い蜜が溢れて来て跡部の手の中でピシャリと音を立てた。
その蜜を手の中に受け止め、自分の指にに塗りつけた。
その指を一本。忍足の中に埋め込んでいく。
「力を抜け、忍足」
緊張して身体を強張らす忍足に、力を抜くように促す。
ゆっくりと、忍足の良い所を探しながら馴らしていく。
あるところを刺激すると、忍足の口から聞いたことも無い甘い声が漏れた。
「ア・・・・・アン、・・・けぇちゃん」
「忍足・・ここがいいのか」
その部分を執拗に刺激してやるとひっきりなしに忍足の口から嬌声が漏れる。
「・・・けえちゃん・・・あぁ、けえちゃん」
その声に跡部も欲情する。
「・・・もう、・・・・・・・来て」
「いいんだな、俺と・・・」
「・・・けぇちゃんが好きや」
「忍足、愛している」
既に跡部自身もドクドクと自分でわかるほど脈打っていた。
忍足の緩んで来た入り口に、跡部は、自分の熱く高ぶった自身を押し当てた。
「んっ・・・あ・・・あん」
忍足の唇から甘い息が漏れたのと同時に、勢い良く自分自身を突き立てた。
そのまま一気に最奥に侵入する。
「ンッ・・・あ・・・あん・・・ぅ・・」
忍足の背中が一瞬跳ねたのがわかった。
「・・・大丈夫か?」
そう問う跡部ももう限界を迎えていた。
「ア・・・はぁ・・・いい・・・」
「うごくぞ」
跡部は勢い良く腰を何度も突き上げた
「・・・・んっ・・・ああん・・・」
作品名:プラトン的愛の構造 後編 作家名:月下部レイ