【東方】東方遊神記15
(なっ・・・まっ・・・まさか・・・あれは・・・)
「あれ?あそこにいるの、紫の式神の九尾じゃん。すっごいナイスタイミング!紫のことを訊いてみようよ」
「そうですね。それにしても・・・何か、出来過ぎている気がしてきたのですが・・・」「まぁ何かあったらその時はその時だよ。何があっても、この僕が早苗も、青ちゃんも、ついでに神奈子も絶対に守るから」
そういって諏訪子は早苗を見上げながらガッツポーズをして見せた。これは早苗も非常に心強いだろう。
「ふふ、ありがとうございます。とっても心強いです」
うん。二人がいちゃいちゃしてる後ろでは、青蛙神が先程よりも更に強い衝撃に打ちのめされていた。
(やはりあれは九尾の狐なのか!九尾の狐といえば、その昔大陸全土を火の海に沈めたという伝説級の大妖。それを・・・式神とするじゃと?)
もう青蛙神の頭が思考するのを拒否しようとしている。このままでは倒れてしまいそうだ。彼女は考えるのを一旦止めることにした。
「お~い!ら~ん!」
諏訪子はまだ少し距離があるのも構わず、妖怪の山の時のように大声で呼びかけた。「ん?」
むこうも気がついたようで、こちらに振り返った。それを確認するや否や、諏訪子はそのランと呼ばれた人物めがけて走り出し、また抱きついた。
「おっととと、ふふ、相変わらずお元気ですね、洩矢様は」
「もうっ、諏訪子でいいって言ってるのに。でも久しぶり~、元気だった?橙ちゃんは?」「橙は寺子屋の慧音先生に預けてあります。私を含め、皆息災ですよ」
諏訪子より少し遅れて早苗が青蛙神を連れてやってきた。
「こんにちは、藍さん。藍さんも夕御飯の買い出しですか?」
「ええ。紫様はご存じの通り、自分では何もしない方ですから。たまには昔みたいに手料理でも作ってほしいものですよ」
このヤレヤレと溜息をついているのが、顕界で知らぬ者などあんまりいないといわれる大妖怪『九尾の狐』であり、紫の最強の式神でもある女性、「八雲 藍(やくも らん)」である。この藍は式神としても規格外で、自らも式神を有しているのである。先程諏訪子が言っていた「橙(ちぇん)」というのがそうで、こちらは猫又である。
「そうそう、その紫のことで訊きたいことがあるんだけど。その前に一人紹介したい娘がいるんだ」
「ほう?どなたですか?」
「うん、ちょっとまって。ほら、青ちゃん。この娘は八雲 藍。さっきから言ってる紫の式神で、八雲家の長女だよ(笑)」
そう言いながら諏訪子は青蛙神の背中を押して藍の前に立たせた。
「ははは。まぁあながち間違ってはいませんが。おや?これはまた可愛らしいお嬢さんですね」
藍は至って普通だが、名前の大きさに気圧されている青蛙神は少し緊張気味だ。力の大きさで言えば諏訪子の方が上なのだが、何よりも知名度が違う。必然的に存在力も非常に高い。
「はっ、はじめまして。本日顕界より参りました。青蛙神と申します。九尾殿のお噂はかねがね伺っております。一度お会いしたいと思っておりました。以後お見知りおきを」
緊張したり、焦ったりすると、饒舌になったり早口になったりするのは人間も人外も共通だ。
「いやいや、私はそんな大した代物じゃありませんよ。洩矢様に紹介していただきましたが、私の名前は八雲 藍。もう大体御存じのようですが、私も元々は顕界の大陸で暮らしていました。ところで・・・顕界から来たと言ってましたけど、いったいどうやって来たんですか?」
「・・・なぁ藍ちゃん、話するなら他所でやってくれねぇか。店の真ん前で話しこまれちゃ商売あがったりだ」
話が長くなりそうと思ったのか、豆腐屋の店主らしき男性が声を掛けてきた。
「・・・そうですね、場所を変えましょう」
「あっ、でしたら少し待ってください。すいませんおじさん、木綿の良いところを三丁と、しらたき二袋ください」
「はいよ、毎度あり」
早苗が手早く買い物を済ませる。
「じゃあそうだね、ちょっとどこかに入ろうか?」
「諏訪子様、神奈子様を待たせているのでそれは・・・」
「いいよいいよ、あいつには何かお土産でも買って帰れば。それよりも僕喉乾いた」
「ちょうどあそこに甘味処があります。あそこに入りましょう」
藍は結構豪気な性格だ。
作品名:【東方】東方遊神記15 作家名:マルナ・シアス