砕けた海で描く
不意に両腕に込められた力が強くなった。見上げれば、青葉が先程の笑顔のまま固まっている。
「前に進学先のことは話してたし、僕が行きたいって言ってたところに園原さんも興味持ったみたいで」
どうしてこんな言い訳のようなことを言わなくてはいけないのかと疑問に思いながらも、しどろもどろに説明する。
僅かに眉間に眉を寄せ、じっと一点を見つめて思案顔をする後輩は、客観的にはなかなかかっこいいと言えたが、彼の本性を知る帝人は、計算と策略をめぐらしている顔だなと思うだけだ。
「……、まあいいです。杏里先輩には罪歌があるし、虫除けにもなるし」
「虫除け?」
「そこは気にしなくていいです。先輩、今度の契約は一生ものですからね」
「え、」
「覚悟しておいてください」
冬の澄み切った青空にふさわしい笑顔で青葉は笑った。至近距離のそれに、なぜかどくどくと心臓が高鳴るのをとめられない。近すぎる距離は、この動悸を伝えてしまったようで、青葉の笑みが深くなる。
「もう離しませんから」
重なってくる影を受け止めながら、帝人はようやく気づく。もしかしてこれは、傷ついた鮫を壊れた檻から出そうとして、檻の中に誘い込まれてしまったということなのか。
ポケットの中で着信を伝えるバイブ音が、やけに遠く響く。発信者は、彼のことを教えた彼女に違いなかった。
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愛迷エレジーを聞いていたら、帝人サイドを書きたくなった。
そしたら青葉が報われてしまったけど、帝人くんが書きたかっただけなんだからね!
そして、一枚上手な帝人くんを書くつもりが、青+杏が組むと強かったよ!
この三人は同じ大学で幸せに過ごします。杏里ちゃんも、青葉のことを帝人が気にしていると知っていたから、あんなメールを送ったんですよ。青葉が帝人くんの檻になって、帝人くんが青葉の鎖になり、杏里ちゃんが鍵をかける。
永遠に離れられないトライアングルの完成です。