二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

終壊

INDEX|12ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

俺は基本的に行動範囲が限られている。外出だって、有名どころ以外、臨也の家から学校までの道しかほとんど判らない。今までずっと引き籠っていたから、セルティが今走っている所は、本当に同じ池袋なのだろうかという疑問すら湧いてくる。危険なところに行きたがらないのは、遠い昔に化け物呼ばわりされたトラウマが微かにでも残っているから。
注目を集めたくないのか、今までの派手な走行と打って変わって控えめに駐車場に停車したのでよろけながら降りると、俺がヘルメットを差し出してもセルティはPDAを打つ手を休めなかった。

『羽島幽平は午前いっぱいは此処で撮影だというのは公式発表だ。もし何かあったらすぐに呼ぶんだぞ』
「出来るだけ呼ばないように済ませたいけどな」
『私は……本当は気が進まないんだが、静雄は羽島幽平と会ってどうするんだ?』

疑問を残したまま俺を此処に残しておきたくはなかったんだろう。だが、俺自身も何しに此処に来たのかよく判っていないのにセルティに上手く説明出来る気がしない。次第に増えてきた足音が、明るい道路を賑わせるようになってきても俺は黙っていた。太陽が高くなって、セルティの姿を本当の意味で影を作らせるようになっても、ずっと。

「正直、判んねえ」

ありのままを話すと、セルティは肩を震わせて、手を己のヘルメットの方へ持っていった。どうやら笑っているようだ。俺の手からヘルメットを受け取ると、瞬間それは元の影に戻ってセルティの服へ染み込んで行った。

『とりあえずぎくしゃくした関係をどうにかした方が良いな。私には居ないが、兄弟っていいものだ。大事にな』
「……サンキュ」

照れ臭くて軽く手を上げると、セルティは俺の肩を力強く叩き、古風に親指を立ててから、駐車した時の大人しさは別人だったかのように勢いよくアクセルを吹かして外に出て行った。俺よりも化け物に近いセルティ。もしくは化け物そのもののセルティ。俺が彼女に親近感を覚えるように、彼女もまた俺を近しいものだと思って気にかけてくれているのだろうか。
セルティが一緒だとなんとかなるような気がしていたが、ひとりになると一気に無力感に苛まれて俺はとりあえず辺りを見回した。昨夜の打ち合わせじゃ担当者が玄関の前で待っていてくれるんだよな? 闇医者である新羅のコネにいたく感謝しながら俺は玄関とは全く逆方向に歩き出していた事に辿り着くまで気付く事はなかった。




視線って人を驚かせたり、不思議に思わせたり、はたまたどきっとさせる要素があるが、今の俺には間違いなく不快だ。
常人の三倍くらい人見知りが激しい俺は通勤ラッシュのこの時間、入り口近くのガードレールに凭れて時間潰ししている訳だが、平日の朝に私服姿で芸能人が集まる場所をガン見していたら暴動でも起こす気なんじゃないかと警備員に疑われているらしくさっきから俺ばっかり見ている。これは絶対に気のせいじゃない。さっきから数えて137回くらい眼が合ってる。
携帯で時間を確認したがもう9時半になろうとしている。早朝に出たのは全くの無駄足だったらしい。何時まで経ってもそれらしき人物は現れず、臨也が苛立った時によく口にする「あのクソ変態眼鏡」という暴言を吐きそうなところまで不機嫌になっていた。携帯を出して落ち着こうと深呼吸してからボタンをプッシュして、こっそり保存してあったとある留守番を再生させた。

『もしもしシズちゃーん? 授業お疲れ様、そろそろ終わる時間かな? 今日出掛ける事になったからそのまま学校まで迎えに行くから待っててね? じゃあ』

聞くんじゃなかった。ぱたりと携帯を閉じると同時に臨也の家の方向を見やった。臨也に会いたい。もう半日会ってない。生の声も聞いてない。なんか俺、本末転倒な事しているような気がしてきて惨めさが加速するがなんとか抑え込む。
臨也にあいたい。あいたい。いざやに。いざやに、いざやに。

「あー、くそ」

声を吐き出す事でやり過ごす。乱暴に目元を拭って誤魔化していると、ようやく入り口付近に男がひとり現れたがすぐに中に入っていってしまった。違うようだ。
本当にこの時間で合っているのか不安になってきたので新羅に電話しようとしたが、今度は別の男が中から出てきた。周りをきょろきょろ見回している。ひょっとして。
俺がガードレールから腰を上げると同時に男は警備員に何かを言っているらしいが当然だが聞こえない。こっそりと、しかし判りやすく近付くと警備員が目線で促し男が振り返った。

「ああどうもどうも。平和島静雄さん?」
「そう、です」

場違いに明るくしかも物凄く早口だ。こちらが挨拶をする前に男は拍手(かしわで)を打って眉を寄せながら、まるで苦笑いでもするように頬を引き攣らせた。

「ちょっとトラブルがありましてね、えー見ての通り私とても忙しいんです、あと5分くらいしかお時間が取れなくて申し訳ありませんね」
「はあ」

見ての通り、と言われて男の服装を初めて注視するが、何処にでも居そうなサラリーマンが着ているようなもので別にこれで職種が判る訳でもない。今日は特別暑い訳でも無いのに男は汗をかいていて忙しなくハンカチで拭き取っていた。

「ところで御用件は岸谷先生にお伺いしたところー、羽島君についての事だそうですが?」
「あ、はい」

さっきから俺はろくに喋らせて貰っていない事に若干焦りと苛つきを覚えながら、俺も何か言わないとと思って開きかけた口は先方によって閉ざされる。臨也と一緒に子供の頃から色んな企業を見て回ったりしていたから、「相手の話をまず聞く」という習慣が身に染み付いている所為だ。今はこの癖を呪う。

「いやあ彼はまだ幼いのに随分と演技がお上手でしてねえ。最初は話題性だけで盛り上がっていたようなものだったのでこちらとしても嬉しい悲鳴ですよ。えー、で、何の御用でしたっけ?」

殴って良いだろうか。俺は幽の自慢を聞きにきた訳じゃない。それにもう2分は経ってる。あと3分で説明しろってか。3分間スピーチなんて餓鬼の頃に小学校でやった以来だぞおい。

「その、羽島幽平に会いたいんです、けど」

不愉快に眉を吊り上げながらも俺なりに言葉を選んだつもりだった。男はそれを聞いてへらへらと笑いながらまたハンカチを額に当てた。

「昔からですねー、あるんですよ。特にああいう子は他の事務所からも誘いが来ている事が多くてですねえ。変質者とかにも狙われやすくてストーカー被害やそういうキワドイ趣味を持った輩に好意を持たれてしまったり」
「……」
「ですからねー。あの子をプロデュースしてあげるのは俺だーとかそういうお電話も偶にですけど頂くんですね? 貴方はまだお若いですしー。まだ高校生でしょ? 君が関わんなくたって私たちでなんとかするから、ね?」
「……」

俺は色んな企業を見てきた。そしてこういう態度をとる奴も沢山見てきた。えー、つまり、こいつは。

「お引取りください」

俺と幽を会わせる気なんて最初からこれっぽっちもなかった訳だ。ビジネスで使う敬語から高校生の小僧を見下すのに変わったのでよーく判る。とても判る。判りすぎて苦笑も出ない。
作品名:終壊 作家名:青永秋